第47話『パンツのアホー!!』
広場での騒ぎとは少し遠く。そこへと続く主だった通りには、多種多様の身分や身なり、種族の者が行き交っていた。
主だった者は無論人族であるが、肌の色、目の色、髪の色と、北方系の顔立ちから、南方系のそれ、更に東西のと一目見れば大体の出自が判ろう者から、それらを隠そうとしている者、村独特の衣装で主張する者と多種多様である。
これに加え、交易によく人里に現れる山小人のずんぐりむっくりとした姿や、彼らと相性の悪い森の妖精族エルフらのすらりとした姿も見受けられた。
はるか昔の大戦後、分化し、地水火風それぞれの力の領域へ引き込んでしまった他の妖精族と違い、エルフ族は比較的見かける機会が多い妖精族である。
普段は着けないだろう、色鮮やかな布や羽が軽快に揺れ、行き交う人々は陽気に声を掛け合った。
酒盃が交わされ、肉を焼く脂のどぎつい香りがつ~んと漂い出す。
そんな中を、幾つもの小さな影が俊敏に駆け抜けていた。
一人が立ち止まって周囲を見渡すと、大きく手を振った。
その脇を走り抜けた、少し老けた面立ちの丘小人は更に少し先で立ち止まり、周囲を見渡しては大きく手を振っていく。
そして最後の一人が、転げ込む様に街の大門へと到達すると、街へ入っていく人々の流れに逆らう様に、門のぎりぎりの所で懐に手を入れ、一枚の小さな銅の金属板を取り出した。
「へぇ・・・へぇ・・・ひぃ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」
大きく肩を揺らしよろける様は、つい今しがた見せた韋駄天走りとは別人の様。
だらだら吹き出る汗を手の甲で拭い、だらしなく開いた口からため息みたいに愚痴をこぼす。
「やれやれ・・・若い頃の様にゃ、いかんのう・・・」
ぴかぴかの光沢を帯びた銅片を、息を吐きかけ上着で拭い、太陽の向き確認してから胸元で小さく揺らす。
食い入る様に、ある一点を見つめ。
「おおっ!! あれをっ!!」
「ダンチョー!!」
「ダンチョー!!」
「ダンチョー!!」
街より少し離れ、大門を見つめていた丘小人の一団は、キラキラとした小さな輝きに色めき立った。
目を大きく見開き、真っ赤な顔で一同を見渡したダンチョーは、力強く頷いた。
「んっ!! 全員、搭乗用意!!」
「「「「「オッス!!!!」」」」」
だっと駈け出す二十余名。
「火ぃ入れろぉーっ!!」
「回せ回せぇっ!!」
「べらんめぇ~っ!!」
口々に叫びながら、目の前の大きな茂みに飛び掛る。
たちまち乗せてあった木の枝が取っ払われ、その下から出て来た物は。
「ダンチョーさん・・・」
その全体を視認していたダンチョーに、よろよろと三人の年老いた丘小人が近寄った。
緊張に硬直し、ぎこちなく首を巡らすダンチョーは、眉間に深い皺を寄せ、大きくへの字に食いしばった口から、短い言葉を漏らした。
「悪い。今日は留守を頼む」
「荷物番は任せて下さい」
「しっかり頼みますよ」
「ダンチョーさんの大事な武器。使わせて戴きます」
そう言って、真ん中の一人はダンチョーの連弩を大事そうに構えてみせた。
「ああ・・・では、行って来る」
ぐっと三人に頷くと、ダンチョーはその巨体によじ登り、前面に突き出した二本の白い衝角を足場に、前面の毛皮をめくって指揮席へと乗り込んだ。
固い座り心地に一瞬顔をしかめ、備え付けのロープでそこに体を固定する。
のぞき穴である布の部分から、外の明るい風景が良く見えた。
「うむ!」
左右のレバーを操作すると、確かな手応えと共に、金属板がガシャンガシャンと鳴り響く。
足のペダルを漕ぐと、木製のチェーンが軽快に動き、ガラガラと派手な音を立て始めた。
「ダンチョー!! 問題ありません!!」
それを外で確認していた一人が、両腕で大きな丸を描いた。
「よし! 左舷配置良いか!?」
「1番!」
「に、にぃ~っ!」
「さんばん!」
「四番!」
「ごば~ん! 左舷、配置よろし~!」
「右舷、配置良いか!?」
「いっち番!」
「2!」
「三番!!」
「よ~ん!!」
「五番! 右舷、配置よろし~!」
間延びした声が、それぞれ返ってくる。
布と毛皮で、音がくぐもり空気も酷いが、随分と改善して来た筈だ。
「音頭!」
「音頭開始~!」
すると、ダンチョーの真後ろに座す一人が、中空に吊るした大降りの太鼓を叩き出す。
どぉ~ん! どぉ~ん! どぉ~ん!
びりびりと振動が伝わるが、まだ我慢出来る範囲だ。
そして、更に外からもこれに合わせて鐘や太鼓が鳴り始める。
ギシリ。
左右5名づつの押し手の緊張が、木のきしみとなって伝わってくる。
準備万端。
緊張に喉を鳴らし、ダンチョーは指示を出した。
「先ずは並足!」
ギシ・・・
横に通した五本の横木に、力がこもる。
そして、ダンチョーは代々このお祭り巡礼隊に伝わる、伝統の言葉を告げた。
「パンツのアホー!!」
「「「「「パンツのアホー!!!!」」」」」
一斉に力が入り、地面を踏みしめた五つつの車輪が、ゆっくりと回り始めた。




