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アーリア  作者: 猿蟹月仙
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第45話『友情より男という現実』

 街の広場では、ゆっくりとだがこの二人の出来事に対する反応が、じわりじわりと、まるでさざ波が広がるみたいに沸き起こってゆく。

 お祭り気分で拍手する者。

 口笛を吹いて冷やかす者。

 楽の音も、ところどころで陽気に沸き起こる。


 丘小人のホークは、全身の力が、するぅ~っと抜けていくのを実感した。

 ま、人間とか妖精とか、異種族の話だからなぁ~と半分くらい割り切ってはいるが・・・

「早ぇ~・・・」

 半開きにした口の端から、呆れた声が漏れ出てしまう。

 なんか色々力が入ってたのが馬鹿らしくなって、ガッシュとやらの仲間の面でも拝んでやろうと思ったら、こっちはこっちでまぁ色々だ。


「完全にオチたな・・・」

 呆気ない男女の勝負に、これもまあガッシュらしいやと、何を期待していたのかと自嘲するゲイルだったが、似たような心境の奴が近くにいたらしく、さっきの丘小人と目がちらりと合ったので、やれやれとばかりに明後日の方を向きなおした。

「やれやれだぜ・・・」

「落ちたって、兄貴ぃ~!? 何が落ちたんでさぁ~!?」

 素っ頓狂な声をあげ、マジで馬の足元を覗き込むガンツはガラガラと腕に抱えたランスやら盾を鳴らし、脱力の度合いを加速させる。

「まったく、やれやれだぜ・・・」

「兄貴ぃ~、何を落としたんでさぁ~!? 兄貴ぃ~!?」

 一々説明するのも面倒なので、ゲイルはガシャンと兜の面頬を下げ、この話を打ち切った。


 途方に暮れたガンツは、馬の足元をあれこれ見て回るのを止め、改めてガッシュの方に向き直ると、どうにもだらしない顔のガッシュを認め、不意にうれしくなった。

「あ、兄貴の奴、う、うまい事やりやがったなぁ~・・・」

 あの分だと、今日一日は上機嫌で過ごしそうだ。そうなると、何かととばっちりを受けて窮する事もなくなる。ガンツも一日気が楽になる。それはとてもうれしい事だった。



 当人は色々必死である。その表情の事もあるが。

「どうぞ、こちらに・・・アウリーリン・・・」

 ちょっと力を入れただけで、へし折ってしまうのではないか。

 そんな恐れを抱きながら、アウリーリンのほっそりとした美しい指を手に取りつつ、ガッシュは馬によじ登った。


 そんな時、アウリーリンは空いてる左手の指で、ガッシュの黒馬の首筋にそっと触れ、その知的で優しげな瞳を覗き込んでみた。

『こんにちは、お馬さん』

 ぶるる・・・

 小さく鼻を鳴らし、首を上下にゆすり、挨拶を返してくれた。

『お名前を教えて下さる? あ・・・』

 少し躊躇する様に腕を引かれ、馬の方もどうぞお乗り下さいと首を巡らせる。そんな心情を、脈動する筋肉の静かさから受け取り、そっと掌をそこへ押し当て、その返事とした。


 鞍に跨ったガッシュは、しっかりと鐙と両の太ももで体を固定し、さあいざ彼女を迎え入れんと力んでいたが、余りにふんわりと目の前に腰掛けられ拍子抜けしてしまった。

『ガッシュ』

「何だい?」

 胸当てにかかるやんわりとした圧力に心ときめかせ、ガントレットの帷子越しに感じていた彼女の指に応じ、そっと掌を合わせた。

 息のかかる程に身を寄せた彼女に、精一杯の優しさで応えようとするガッシュ。

 次の動きに、一瞬戸惑いを覚えた。

『アウリーリン』

「うん・・・?」

 一二度瞬いては、楽しそうに見つめてくるアウリーリンは、左手をガッシュの胸元に置いていたのだが、それを自分の胸元に。そして、次には二人の間にあるわずかの隙間に置き、その鞍をぽんぽんと二度叩いた。

『お名前は?』

「うん・・・?」


 少しいたずらめいた口調で言い直す。


『お・な・ま・え・・・』


「・・・あ~っ!? 名前か!?」

 ちょっと考え込んだガッシュは、ようやくアウリーリンの言ってる妖精語の意味を悟った。

 それから、自分の馬、ゲイルの馬、ガンツの馬を順繰りに指差した。

「馬」

 さらに自分の馬を、腹の辺りをさすりながら、屈託の無い笑顔で答えた。

「黒雷」

「こ~く~ら~い?」

「そう! こくらい、だ! はぁ~っはっはっはっは!!」

「こくらい!」

 パッと、目の前で百輪の花々が咲き乱れたかの笑顔に、たまらずに抱きしめた。

 ふんわりと柔らかではあるが、泡の様に消える事も無く、彼女は腕の中で弾む様に笑い、何度か馬の名と、ガッシュの名を口にし、喜びの声を上げた。

 馬の方も、何度も名前を呼ばれるので、その度に背中の二人にどうしましたかと尋ねるみたいに、何度も何度もお伺いをたててる様だった。



 やれやれと、口元に笑みを浮かべながら、その吟遊詩人は噴水へと戻って来た。

 掌には更に2枚の金貨。それをちゃりちゃりと弄びつつ、

 ガッシュに通訳のお役ごめんと、その追加報酬を受け取ってきたらしい。


 人々の関心は、例の二人から離れ、三々五々に。

 追いかけようとする丘小人を、ホークが蹴り飛ばして回っていた。

 この広場から離れ行く馬上の二人を呆然と見送るアーリアは、噴水の淵に腰を下ろしがっくり。

「へ・・・変なおっさんに、友達、持ってかれた・・・」

「ア~リア~・・・おいも食べる?」

 その傍らにちょこんと座り、シルフーはいつの間にやら湯気の立ち上るふかし芋をぱくついてる。それをアーリアの鼻先に突き出すが、返事を待つ事ほとんど無く、サッと自分の口元に戻した。


「あのさ・・・ちょっといいかな?」

「おいも、あげないよ!」

 なんだろう?

 ごっくんと飲み込んだ気配が、わたわたと噴水に頭を突っ込んで、ごくごくぐびぐびと、およそ動物めいたそれに変わる。

 ふと見上げると、結構年上に見える、先ほど通訳していた吟遊詩人の男がこちらを見下ろしていた。

「それ、なんて生き物?」

「本人は、シルフだって言ってます」

 結構、投げやりに答えていた。これはいかんな、とロジカルな思考でアーリアは気を立て直した。

 すっと腰を上げ、儀礼的に一礼した。

「こんにちは。私、アーリアと申します。まだまだかけ出し者のひよっこですが、お見知りおき戴ければ幸いです」

「これはこれはご丁寧に」

 男は返礼すると、自分の楽器、ハープを一掻き。

「私は旅の吟遊詩人、ルイスと申します。お見知りおきを・・・ところで、そのリュートですが、貴方の持ち物ですか? 以前、見知った方が持ってらしたと思ったのですが・・・」

「せんせいをご存知ですか?」

 驚いた。

 改めて相手の顔を、結構失礼に見返してしまう。

 灰色の瞳が優しげで結構印象的。線が細い感じの優男風。もてるわこりゃ。

 サッと値踏みして、さてどうしようと多少の警戒心を掻き立てる。

「ご存知も何も・・・あの人は、会う度に違う名前を使ってて・・・」

 苦笑されるとこっちも苦笑。確かに、自分もせんせいの本当の名前を・・・知らない・・・

「だって、ほら・・・七つの名を持つ、お・と・こ・だぜぇ~・・・があの人の口癖だったでしょう?」

 うわっ、そっくり!

「ちょっと失礼するよ」

 そう言って、びっくりするアーリアの右側に、噴水の淵に座ってきた。

 服のすそが触れ、思わずシルフーの方へ身を寄せると、少し照れた様な、魅力的な笑みを浮かべ謝ってきた。

「ごめんごめん。少し疲れてしまってね」

「いえいえ! 私のほうこそ、ごめんなさい」

 頬が赤くなるのが判る。なんとなく、この物腰の柔らかさはせんせいを思い出させる。

「いいんだ、いいんだ。で、彼はどこに? お弟子さんをとったって風の噂には聞いてたんだよ。懐かしいなぁ~。今日は、なんて名乗ってるのかな?」

 ふと・・・あの時の事が思い出される。

 急速に、心がしぼんでいく感覚。

 それが声色に出そうで、答えようとして息が止まった。

「どうしたの?」

「・・・せんせいは・・・亡くなりました・・・」


 不意に、人々の喧騒が、遠く、とても遠くに感じられ、手足が冷たくなっていく気がした。

日本初の国産TRPG【The Roads To The Lord】では、初期のキャラは時々プレイヤーキャラ同士でもコミュニケーションが成立しない場合が多々ありました。妖精境から出たばかりの妖精族が、人間の言葉である共通語を持たない事が多々あり、それをどう乗り越えて行くのかが結構楽しかった気がします。言葉の壁を乗り越えて、友情、愛情を育んでいくのは素敵な事じゃないでしょうか。どう情報を伝えるかで、展開が大きく変化して行くのもTRPGの醍醐味なんですよね。また、そのキャラクターの言葉で物事を伝えるという事は、そのキャラクター性を表現するとっても大切な瞬間だったりします。

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