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アーリア  作者: 猿蟹月仙
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第40話『仲間』

 街の外周に張られていた大小色彩様々なテント群は、大門が開放される前にほぼ消失し、それはお祭り巡礼隊も例外では無かった。

 だが、大門を見つめる丘小人達の視線は厳しい。

 人々が我を競って入門していく様を、少し離れた位置から見下ろす丘小人の一団は、一線を画し動こうとはしない。


(まだか・・・)


(まだか・・・)


(まだか・・・)


 男達は無言で見据えている。口をへの字に曲げ、いつでも動き出せる様、身軽な格好で。

 ある者は岩の上で。またある者は木に登り。

 二十人からの丘小人達は、静かに、遠くより風が運ぶ人々の喧騒に耳を欹てていた。


 すると、一人の丘小人が小さく、冷徹なままに口を開いた。


「まだか・・・」


 その場にある全員の総意を代弁するかに口を開いた一人の言葉に、まるで苛烈な化学反応を起こした様に、その一人の元へ駈け集った丘小人達は顔を真っ赤に染め上げてその想いのたけを吐露した。


「ダンチョーッ!!」

「我々も突入しましょう!」

「このままではっ!」

「「「「「ダンチョーッ!!!」」」」」


「待て・・・」

 暴風の如き迸りを片手で制し、ダンチョーと呼ばれた男は一同の顔を見渡した。

 ここには巡礼隊の中でも、特にまだ若く覇気のある者らが残っている。

 巡礼隊の大部分は、引退後に家の事を子供らに託し、見たことも無い世界を物見遊山に見て回る老人達が大半だ。だが、比較的裕福な家の者で家長が健在な者は、若い内から旅を許される者もあれば、その真逆に放蕩の余りに村に居られなくなり飛び出した者も少なくない。

 その事情は様々。

 それが今、一つの目的へとより合わさり、絞り上げられ、正に一矢となりて放たれんとしている。そのギリギリの所にある。

「今、無理に突入するのは危険だ」

「しかしっ!」

 はねっ返りの若い隊員をギロリと睨み付け、それでも冷徹な口調は変わらない。変える事は出来ない。

 吹き荒れる熱情のままに応えれば、歯止めが利かなくなり、隊はばらばらに砕け散り、祭りの熱狂にただ飲み込まれてしまうだろう。それは、この巡礼隊の本意からかけ離れている。

「待つんだ。今は、先遣隊の『仲間』を信じ、待つんだ」

 握り締めた拳を目の前で震わせ、ダンチョーは己も気持ちは同じである事を無言で示した。

「『仲間』を信じるんだ」

「ダ、ダンチョー・・・」

 若者の赤く血走る眼には、いつからかうっすらと涙が浮かんでいた。やおら、ダンチョーの拳を掴んだ。

「ダンチョー・・・俺・・・俺・・・」

「ああ・・・」

 食いしばり、それだけ答えるダンチョーに、他の隊員達も感極まって次々と腕を突き出し、その拳を掴んだ。

「うん・・・うんうん・・・」

 小さく頷き短く息を吐くダンチョーもまた顔を紅潮させ、重ねた腕を全員で小さく上下に揺さぶり、角刈り頭に血管を浮かべ苦みばしった笑みを浮かべた。



          ◇     ◇     ◇



 人の溢れ返る街中の雑踏で、不意に奇抜な掛け声が響いた。


「「「「「アーリアちゃぁ~んっ!!!」」」」」


 呆気にとられるアーリアの眼前には、丘小人の一団がいた。

 予定ではそこには居ない筈の一団が。

「ど・・・」

 どうしてと言いかけたアーリアの横から、弾丸みたいに飛び出したホークは、一瞬のけぞったと思ったら、思いっきり前に身を屈めて絶叫した。

「馬鹿かおめぇ~らっ!!!」

「ばかかおめ~ら~」

 後ろで真似する陽気なシルフー。

 そこには、先遣隊のメンバーがほぼ全員揃っていた。


 エルアラの中心を通る大通り。その中核となる砦の前にある大広場。そこの噴水前がアーリアとホークの定位置で、他の面々も事前の打ち合わせで二人一組、それぞれの場所に待機し、一人が連絡係りとして動き回る予定だった。

 だが予定はあくまで予定だ。

 という事なのか。

 目を真ん丸にする二人などどこ吹く風。

 丘小人特有の旺盛な好奇心を、その双眸に宿らせた老人達は、やってきたアーリアを熱烈大歓迎。もう一度。


「「「「「アーリアちゃぁ~んっ!!!」」」」」

「やめろ、おめぇ~らっ!!」

「あ・・・ああ・・・」

 ホークの怒声も、先ほどの勢いは無い。

 口を開けて硬直するアーリアに、ひょいとその肩口に飛び乗るシルフーは、早速そっちの真似をする。

「あ~りあちゃぁ~ん!」


「駄目だこりゃ」

 もうお手上げ。

 馬鹿馬鹿しくなったホークは怒るのをやめた。


「いや、だってハーリーの奴が『アーリアちゃんが大変だ~っ!』て言うもんだからな」

「そうそう」

 ニヤニヤする丘小人の老人集団は、一同にアーリアの大変な格好をつぶさに眺め、各自のみやげ話フォルダーにドラックおあコピーアンドペースト。

 いや~んなポーズで身をよじって前を隠すアーリアだが、そういう恥じらいも老人達の大好物だ。

 今や闇色のドレスは陽光の下にあって、まだ膨らみかけた蕾の如き少女の愛らしき存在感をくっきりと描き出し、未開の大地たる命の神秘を鮮烈に表現している。それは幾つかの魔法の仕業でもあり、少女の存在自体がまた魔法なのである。

 そして、この騒ぎはここに集う吟遊詩人や旅芸人にとっても、脅威となるライバルの登場を早鐘の様に告げていた。

 刺すような視線が、老人らのそれに混じり、次々と射掛けられてくる。

 その数十、数百倍、好奇の視線も注がれる。

 ここは、アーリアにとって、もう既にとんでもな大舞台となっていた。


「ハーリー! ハーリー!」

「あ~りあちゃぁ~ん!」

 元凶を捜すホークの声と、やたら気に入ったのか連呼するシルフーの声とが、アーリアの周囲をくるくる回転中。

 すぅっと息を吸った。

(もう、こうなったらやるしか無いなぁ~・・・)

 クス・・・

 腹は決まった。

 口元に笑みを浮かべ、二人を、巡礼隊の仲間達を見渡すと、それだけで空気が華やぐのが判る。

(あの人、とんでもないお土産を残していった訳だ・・・)

 一瞬、脳裏に両手でVサインしてる、少し意地悪そうな笑みが浮かんだ。

(私の実力じゃないんだろうけど~・・・)

 そっとリュートの弦に指を這わせ、その弾力を楽しむ余裕を楽しむアーリア。

「ここは、みんなの胸を借りるしか無いわね」

 真っ直ぐに踏み出した歩みは、一切の迷い無し。

 サッとリュートを掲げ持つ。


「さぁ~、みんなでいってみよぉ~っ!!」

「「「「「おうっ!!!」」」」」

 軽く飛び跳ねると、アーリアは人ごみを掻き分ける様に進み、噴水の一角へと辿り着く。

 それに続く丘小人達も、そこを行き交う人のまたぐらまでかいくぐり、その周囲に瞬く間に集結した。

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