第34話『そ~かなぁ~?』
およそ二年ぶりに続きを書き始めました。
色々忘れてるなぁ~(苦笑)
吟遊詩人の卵、アーリアの旅物語。
アーリア、ただ今冒険者レベル0。
教会に泊り込んでいた巡礼者達の姿は、建物の奥からは次第に消えつつあった。
代わりに、街が喧騒を帯びてくる。
まろみを帯びた教会の石畳は、廊下の中央ほどに窪み、そこを歩いたであろう人々の記憶を、ヒヤリとしたまろやかな感触で丘小人達の足の裏へ直に伝えてきていた。
「まったくよ~、あの馬鹿はどこ行ったんだ~? せ~っかくお前が着替えとか楽器とか色々持ってきてやったってのにさぁ~!」
「まぁ女の子だからね。色々あるんじゃないかな?」
先を行くホークのしかめっ面を予想しつつ、ヒースはたおやかな笑みでそのツンツンとした黒い後頭部がゆれる様を眺めていた。
「なんのかんの言って、着替え用意させてるじゃん」
「探して持って来たのはお前だ~」
「頼んだのはホークだろ?」
「う、うっせぇっ!!」
ピンとした耳の先にほんのり赤味が差してる。にやりんぐ。
背後から何ともこそばゆい気配がひしひし揺らめくのを無視し、仏頂面でホークは足を速めた。かすかにアーリアの声が、その耳に引っかかった様な気がしたのだ。
「ったくよ~。また襲われても知らねぇってぇ~のっ!」
勢い、ホークはアーリアの気配がしたっぽい部屋の扉を足蹴にした。
足蹴にしたって言っても、丘小人の素足なものだから、大した音も発てずに、僅かに蝶番が悲鳴を漏らす程度。
きぃぃぃぃ・・・と・・・
ふわっと空気が揺れ、部屋の中から戸口へ向けてガールズトークの華やいだ雰囲気がもれいずる。
そこで薮にらみのホークはピタリと足を止めた。無言で。
石の様に立ち尽くすホークを不思議に思いつつも、ヒースはその肩口からひょいと顔を覗かせた。
「わぁ~・・・」
その光景に、ホークとは実に対照的に、ヒースは瞳を輝かせ、大事そうにやんわりと腕に抱えていたリュートを無意識に胸へ押し当てた。
闇が滴ったかの様な漆黒のドレスに、ほっそりとした白い手足と、鮮やかな光彩を帯びた金色の波がさわりと泳ぎ、ぎこちなくも振り向くアーリアの、まだ少女らしさの抜けきらぬ初々しさがくっきりと浮き上がる。
見開いた青いまなこに惑いの色を乗せ、アーリアは血流の跳ねあがる音を聴いた。
「あ・・・あああ~・・・」
だらしなく開いた口は、わななくばかりで人語を忘れ、上気し痙攣する頬が異様に熱い。熱い。うわぁっ、すっごく熱い!!
「うんうん。よく似合ってるよ。すごいよね?」
ほらほらとヒースに肘でせっつかれ、とっても仕方なさそうに一言。
「ホント、スゲー」
すごい棒読みのホーク。
「スゲースゲースゲー・・・スぶっ!」
スゲーを4回繰り返し、いきなり吹いた。こいつは我慢の限界だ。ひざから砕けて床にダイブ。ぶちまけた女物の服の上をごろごろ右に左に七転八倒。
「ぶはぁっはっはっはっはっはっは!! なんだよそれ!! スッゲー似合ってんジャン!! 勘弁してくれよ!! おいおいいったいどこから、そんな気の利いたもん持って来たんだ!? あ~っはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
戸口に激突しようが壁に激突しようがお構いなしだ。正に荒れ狂う暴走ゴーレムの如く、傍若無人に転がりまわる。
「な、な、なんだとぉーっ!」
カッときて抗議の声を上げようにも、こっぱずかしさ半分。妙に力の入らないアーリアだった。両のこぶしをぎゅっと握って、上下に振ってもう一度力いっぱい罵倒してやろうと思ったら、ぽんと頭を撫でられて中途半端な沸点で生煮えって感じの脳みそが、頭に置かれた掌の涼しさにすっと引き下げられた。
「ホ、ホー・・・!」
「はいはい、どーどー。はいどーどー」
「・・・馬じゃない~・・・」
ぷうっと頬を膨らませ、女主教を見上げるが、穏やかな微笑みにごまかされてしまう。
笑い過ぎで大きく肩を揺らし、ヒースに腕を取られて起き上がりつつも、ホークは涙をぬぐった。笑い涙である。
「だ、だがよ。間違っちゃいねえよ」
「何よ!?」
ようやく立ち上がったホークは、ニヤリ、胸元で両の掌をくるくる躍らせた。
「そりゃ、吟遊詩人って奴は目だってなんぼだろ? おめぇみてぇに出るとこ出て無ぇのは、それくらいやんなきゃな」
「んだと、コラーッ!!」
「はいはい、どーどー。女の子がそんな汚い言葉は使わない使わな~い」
再びホークに喰ってかかろうというアーリアの動きは、頭に乗せられた女主教の掌によりやんわりといなされてしまう。どういう事かさっぱり判らないが、傍らに立つ女主教の前からアーリアは一歩も前に前進する事が叶わなかった。
力任せにねじ伏せられているのではない。前に出ようとしている筈なのに、何故かその場で足踏みしてしまう。なんともずれた感覚に、あっけに取られてしまうのだが、それが不意に無くなった。女主教の手が、アーリアから離れたのだ。
アーリアの前へ、彼女のリュートを持ったヒースがにこやかに歩み出ていた。そして、それをそっと差し出した。
「あ・・・ありがとう」
「どう致しまして。大変だったね・・・」
「う・・・うん・・・」
色々あり過ぎて答えにつまるアーリアだったが、ヒースの差し出した先生の形見でもある大切なリュートを、おしいだく様に受け取った。
「それにしても、二人とも仲が良いよね」
「「んな訳無いっ!!」」
何をヒースは言ってるのか、一瞬ぽかんとする。
が、咄嗟に脳内反射の如く全否定する二人。
前と後ろから、まったくの同タイミングで同じせりふを浴びせられ、ヒースはやっぱりそうなんじゃないかなぁ~と笑顔の下で感じていた。




