第22話『あーっ! 我慢の限界だーっ!!』
「よーし!! みんな~、集まってくれ~っ!!」
ダンチョーが両腕を高々と上げて、手を叩いた。
呆然とするアーリアとホークの周りに、わらわらと集まり、自然と円陣を組む。
中央には、ダンチョーともう一人の小人。アーリアには、昨晩見覚えがあった。
「てめえ! 何で俺抜きで話進めたんだよっぷっ!?」
同時にスパン!
食ってかかるホークに、ダンチョーのチョップが迎撃! ふふん、いい気味だわ。
「お前がどっかで道草食ってるからだ~」
「悪い悪い。邪魔しちゃ悪いって思ってね。いや、悪い悪い」
憮然とするダンチョーの後ろで、にこやかに手を振ってる、これまたこの中じゃ随分若い丘小人じゃないかな、明るい栗色の巻き毛にそばかすいっぱいの・・・でも、やっぱり大人なんだろうね。
で、それでもめげないホークがしつこい。顔真っ赤にしてみっともない。
「お邪魔けっこう! こちとらこの組み合わせの方が重要だ!」
「良かったじゃん。女の子と組めて」
「女の子~!? ガキガキ!! こういのはっ!?」
最後まで言わせず、咄嗟に右足を蹴り上げました。はい。
「ポーク、ウルサイ。話聞かせろ」
声にならない声をあげ、変な所を押さえて飛び回るホークを尻目に、スッと右手を差し出した。
「挨拶がまだよね?」
「旅の吟遊詩人の卵、アーリアさんだよね?」
面と向かって言われると、うっと恥ずかしくなる。やっぱり勢いって大事。
「半人前以下ですが」
「いえいえ。ここに一人前で換算出来る奴って何人いるやら。なっ!?」
また暖かくも大きな手で握手を返してきたその小人は、陽気に目をくりくり輝かせながら、周りの老人達を見渡した。
「そうさ! 俺達ゃ、半分以下よ!」
「食う量は二三人前ぺろりだがよっ!」
「ちげぇ~ねぇっ!!」
合いの手に、ぽんと腹包みを叩き、みんなでドッと大笑い。その最中に、サッと手を引っ込めた。
「でも、ホークを尻にしくなんて凄いね」
「いえ! そういう訳じゃ・・・」
からかわれてる。絶対、からかわれてる。妙な気分で、どうにも言葉が尻つぼみに。
「僕とホークは、同郷でね。僕はヒース。ヒース・オニオン。うちは村一番のたまねぎ畑でね、こうして若くして旅に出させて貰ってるのさ」
「スッゴイ・・・。性があるんだ」
「でも、オニオンだよ。家紋だって」
苦笑するその様を見ても、なんとなく育ちが良い様な気がした。きっと、家がそこの大地主なんだ。だから、下級貴族としての性を名乗る事が許されてるって事かも。
大概、巡礼するのは、家が裕福か、仕事を子供が引き継いで引退してから、貯めていたお金で旅に出るかだって聞いてます。ま、他にも色々と理由があるでしょうけども、旅は危険が多いから、こうして団体行動をするんだろうね。
「ヒ、ヒース・・・気をつけろ・・・そいつは凶暴な野獣だ・・・」
そう言って、内股でよろよろ立ち上がったホークは、袖をまくって腕についた歯形を見せた。余計な事を。
「わおっ! 凄いプレーだね。良い土産話になるな」
「ちっげ~よっ!!」
「違います!!」
二人して、声がハモった。気色悪い!
「唯の子供同士の喧嘩です。騒がしいだけの、つまらない奴!」
あっかんべー!
すると、何故かその場の全員がドッと大笑い。
「え?」
何か変な事、言った?
何故か当のホークは腹を抱えて転げまわってる。こいつ~・・・
「ガ、ガキだ! やっぱりこいつガキだ!」
「何さ!」
「まあまあ、これからこれから」
なだめて来るヒースも、何だかちょっと腹が立つ。
「まあまあ、お二人がとても仲の良い事が、よ~く判りましたから」
「「ちっげ~よっ!!」」
そう叫んでから、二人してそっぽを向くが、共にかなりの険しい顔に。
ヤバイ・・・またハモった・・・
しかも、ホークに引っ張られた・・・
うあああ・・・精神的ダメージが~。
そんな二人の様子に、うんうんと頷きながらも、ヒースはにこやかに説明を始めた。
「という事で、古デュール派のお祭りは明日からの三日間。その間、武道大会も開かれるし、中日には公開処刑もやるんだって。何でも凶悪な殺人鬼が二人も捕まってるって話で、その為の舞台も広場に建造中。あと、武道大会には結構高名な騎士も招待されてるらしくて、黒い流れ星と異名を持つ黒騎士三人組が来るんだってもっぱらの評判だよ。そして、なんとこの三日間の間はお城の門が常に開かれて、誰でも領主様に謁見が許されるそうだから、私達としてもお祝いの一言を~なんて事もやりたいよね?」
「という話を、お前達がなかなか帰って来ないから、飯の後、先に進めていたんだ~!」
ダンチョーが後を継いで一言。
世界創造の折、人間や丘小人の創造を司った黒き変容の神デュール。調停者にして反逆の神。古デュール派のお祭りとは、神々の調停者だった頃のデュール神を祭るもので、人間の町や村ではそう珍しくない。
「このエルアラの城塞は、小さいけれど街道の警備を任務とした砦が発展したものだから、城壁もなかなかに立派で、その中が見れるなんてなかなか無いチャンスだと思わない? 城を任されてるヘブンリー男爵も、なかなか相当の腕自慢らしくて、だから武道大会なんて開くんだって」
そう言いながら、ヒースは地面に大体の見取り図を書き始めた。
外壁と内壁があり、内側に角ばった城壁。その周囲には三方へ広がる大通りがあり、その集まる所に町の広場があり、城への入り口である大門がある。
「この広場で公開処刑が行われるんだけど、ホークとアーリアにはここを中心に待機して貰うね。伝言係りって奴だよ」
「伝言係り?」
オウム返しに尋ねると、ヒースはにこやかに答えてくれた。
「そうそう。何か面白いものがあったり、行っちゃ駄目な所とか、誰かへの伝言とか、とにかく何かあったらここに居る二人に、情報を集めてプールする。そして、それを分配していく訳だけど、アーリアはまだ全員の顔と名前が一致しないだろうから、大概はホークに任せておけば良いよ。な、ホーク?」
「損な役割どころか、こいつと一緒なんて大損も良いとこだぜ!!」
「なんなら、町の外でず~っと三日間、荷物番するか~?」
「うぐ・・・」
目を細め、口元で笑うダンチョーのそれに、ホークは口をへの字にして沈黙。あたしも、それは嫌だなと思った。出来る事なら、そのお祭り騒ぎを肌で感じたい! 先生に教わった事を、実際に試すチャンスでもあるし、集まって来た他の吟遊詩人から詩を教わるチャンスでもある。
「では、問題児の二人が決まったところで、他の面子のフォーメーションを発表するぞ~。今回は、櫓を組んで練り歩くから、時間でそっち組は再集結するから気をつけろ~」
「「「「「おーっ!!!!」」」」」
とほほ・・・どうせあたしとホークは問題児ですよ。
ダンチョーの最初の一言に、がっくりしながら、ちょっと聞き漏らした言葉を頭の中で反芻した。
櫓・・・? 練り歩く?
くちゃくちゃ・・・
もぎゅもぎゅ・・・
がらがら・・・
ごとごと・・・
それから数時間後、狭い荷車の中で、もくもくと猪の生皮をしゃぶる三人が居た。その一人があたしだ。
そして、膝突き合わせて座るホークとヒース・・・もう何時間、こうしているだろう?
我慢我慢・・・
我慢我慢・・・
我慢がま・・・
「あーっ! 我慢の限界だーっ!!」
「そりゃ、こっちの台詞だヨ!!」
ペッと吐き出し、思いっきり叫んだ。
「何これ!? 必要!?」
「だからガキなんだよ!! 生皮が腐っちまうだろ!!」
途端に、それまで脂でべたべたした生皮の下で交錯していた足を互いにがしがしぶつけ合う。こ~のやろ~っ!!
「まあまあ、しょうがないしょうがない。若いのは僕達だけなんだから」
苦笑するヒースは、なんとか二人をなだめようと、この足絡みに参戦する。
「歯が少ないお年寄りに、やらせられないでしょ~」
「判ってる! 判ってるけど!」
「いいや、お前は何もわかっちゃいない!」
「ちょ、ちょっと・・・」
「「このこのこのおっ!!」」
ぐにっ!
「「「うぐっ!?」」」
何やら互いにクリーンヒットしたみたいな、妙な手応えならぬ足応え。背中から頭の中までパッキ~~~ンって駆け抜けるって、これは・・・。
不気味なくらいに、互いに目を大きく見開いて、変な顔色になって、変な汗をたら~り滴らせて、ぱたり・・・横になった。も~限界です・・・
「おいっ!! お前ら、いい加減にしろっ!! 降ろすぞ!!」
ダンチョーが幌を上げて一括してみたら、何やら死んだ様に静かになった三人が。
「・・・ほんとに・・・まったく・・・」
一瞥してから、顔を御者台の方へ引っ込めた。
五台からなる小人の馬車達は、古いわだちの上をごろごろ言わせながら、ゆっくりと目指す地へと、なだらかな黄金色の草原の中にある細い道を進んでいった。




