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アーリア  作者: 猿蟹月仙
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第21話『あいぼう』

 犬の様に這いつくばって、心行くまで湧き水を堪能したアーリアは、影の動きでふと顔を上げた。

 そこには、変な顔をますます変にしたホークが変な顔をして立っていた。変な顔~。


 一瞬、じっと凝視したけれど、丁度良い言葉が見つからない。あ~あ、その一瞬で目に入った水が流れて、少しまともに・・・えっとえらく真面目に怖い顔してます。ホークのくせに。

「・・・馬鹿?」

「馬鹿は、お前だーっ!! 何だそれ!? 飲んで大丈夫なのかよ!!」

 えらく断定的な言い回しに、むっとしながらも、ちょっと考えてみる。

 駄目だ。もう飲んじゃったもん。

「わかんない」

 てへ。


 笑って誤魔化そうと思ったら、飛び掛られた。

「馬鹿ーーーーーっ!!」

「ぎゃーーーーーっ!!?」

 真っ直ぐ突き出されたホークの掌が、視界いっぱいに広がろうってのを咄嗟に払う!


 スカ!

「へ?」

 やたら熱い腕が首に回って、きゅっと締められ、頭ごなしに怒鳴られる。

「すぐ吐け! 戻せ! 体中、赤いぼつぼつ出来て、上と下から変な液垂れ流しながら死ぬぞーっ!!」

「ふがふぐ?」

 口に指を突っ込まれそうになって、必死に歯でガード。

 いつの間に、と背後に回ったホークに言いたいのだが、そんな余裕は、ない!

 失礼にも、ホークの両足が蟹バサミでこっちのお腹に!

「ふぐーーーーーっ!!」

「お、と、なしく、しろっ!」

 前後左右に頭を振って、首のロックを外そうとするけど、これがぐいぐいかえって絞まる。

 視界がぼんやり霞みだし、耳元でがなるホークの声がどんどん遠くなっていく。やばい! 人として大切な何かが失われてしまうかも知れない!!


「い」

 歯茎をまさぐられながらも、両手で腰に絡んだ足を外す。

「や」

 思いっきり、上体を前に。それから後ろへ。ぐっと首が絞まって、限界が! すぐそこまで! 遠くにお花畑が見えるかも!

「だーーーーーっ!!」

 全身、前へ思いっきり振った。


 ふわっと浮かんだ。二人とも。


 ずってんころころ。無様に転がり、パッと立ち上がる。そして見合った。距離を置いて。


「いいか、お前! 馬鹿だから判らんだろうが、生水を飲むと最悪死ぬ事もあるんだぞ!!」

「知ってるわい! 馬鹿だから判らんだろうって小便飲ます気!? この変態小人野郎!!」

「いいか、落ち着け! 判った判った! 錆の浮いた銅貨を飲め! 青い錆の奴!!」

「毒!? 毒を飲めって訳!? 都合が悪いから口封じって訳ね! この卑劣漢!!」

 シュッと腰の小剣を抜いた。

 刃渡り30cmくらいの、鋭く尖った鎧通しと言われる類。

 陽光がキラリ白刃に煌き、表面に彫られた不思議な文字、ルーンを浮かび上がらせた。

「お、おいっ!? 何だそりゃ!? 魔法か!?」

「さあね! 妖精さんに貰ったから、そーなんじゃない!」

 正直抜くのは初めて。何とか持ち直す。そのぎこちなさに、自分でもイラッとしながらホークを見直す。

 すると、やっぱり見透かしたのか、なんとなくホークの態度が落ち着く雰囲気。ちょっと焦った。


「おいおい、それを収めな。洒落にならんぞ」

「洒落にならないのは、あんたの方よ。この豚野郎!!」

「俺は丸腰だぜ。猪の皮を剥ぐみたいに、俺をさばいちまいたいのかい?」

「う・・・」

 そう言われてみると、そこまでやるのはやり過ぎの様な気もした。

 だが、油断も出来ない。

 それに結局は腹立たしい事、この上無い。


「決着を着けましょ・・・」

 そう言って、剣を鞘に納め、それを腰のベルトから外す。マントを畳んで草の上に置くと、剣をその上に。更にリュートを置いた。

 そして拳を二つ、前に構える。

「ぶちのめしてやる!」


 その様を、身体をゆらゆらさせながら、不遜な顔で眺めていたホークは、首を左右に振ってボキボキ。頭一つは上背のある、人間の女を見上げた。

「良いだろう。このホーク様が女子供から逃げたとあっちゃ男が廃る。ちょいとお相手して差し上げるさ」

 軽やかなステップで身体を左右に揺らし、ホークは場慣れした雰囲気を見せ付けた。

「お前がどこで野たれ死のうと関係ねぇ! これで、お前ぇとは金輪際だ!」




 しばらくしてボロボロの二人が、ふらふらとキャンプへ戻って来た。

 互いにそっぽを向きながら。

 そんな二人を、小人達は何事も無く迎えたかと言うと・・・


「「え?」」

 二人は耳を疑った。

「しょーがないだろ! お前たち、飯も食わずにどっかでじゃれあってたんだからな!」

 ニヤニヤ笑いのダンチョーは、太い眉毛をぴくぴく動かし、事も無げに言って捨てた。

「明後日からの祭りは、お前たち二人で行動しろ! ツーマンセルって奴だ!」

「ちょ、ちょっと待って下さいよボス!!」

 食い下がろうとするホークを、ダンチョーは手で制す。アーリアは、いまいち何が起きているのか理解出来ていない。でも、何やら『良くない事』が進行中なのは確からしい。


「他の奴等の組み合わせは、もう決まっちまったんだ。余ってるのは、お前たち二人だけなんだから、当たり前だろ?」

 そういって、苦みばしった笑みのダンチョーは、ホークの肩を叩いた。

「ま、祭りの三日間、二人は『あいぼう』って訳だ。仲良くしろよ」

「ちょ、ちょっと待って下さいよボス!! ボス!! 判った!! 交代!! チェンジ!! 誰かとチェンジ!!」

 身振り手振りをせわしなくするホークだが、背を向けたダンチョーは手をひらひらと振って相手にしなかった。


(い、一体何が起こってるんだろう・・・?)

 青い目をきょろきょろさせながら、ダンチョー達のやりとりを聞いていたけれど、やっぱりいまいち良く判って無いアーリアだった。判っているのは、変態豚野郎のポークと何やら組まされるという、はなはだありがたくない出来事が待ってるらしいという事だけだった・・・

(ま、ちょっとした作業だよね。ちょっとした・・・それなら我慢出来る・・・と思う・・・たぶん・・・うん・・・)

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