秘密
翌週の金曜、沙耶がいつもと違う場所で待っていた。
大学裏の図書館横、小さな中庭。誰も通らない、静かな場所。
「ここ……誰も来ないんです。落ち着くから、時々ひとりで来てます」
ベンチに座った沙耶が、風に揺れる前髪を押さえながら言った。
俺は隣に座る。
「先輩に……ひとつ、話したいことがあるんです」
沙耶の声が静かに、でも確かに震えていた。
「私、小さい頃……ずっと“優等生”だったんです。
親の期待に応えたくて、いつも上を目指して、間違えないように生きてきた」
目を伏せたまま、言葉を紡ぎ続ける。
「でも……本当は、間違えるのが怖かっただけ。
人に嫌われるのが、怖かった。
だから、誰にも本当の自分なんて見せられなかった」
「……沙耶」
「先輩の前でも、最初はずっと“優秀な後輩”でいようとしてた。
でも、気づいたんです。先輩は、弱いところも、間違うところも……ちゃんと見てくれる人だって」
沙耶の瞳が、俺の方を見た。
初めて見せる、涙をこらえるようなまなざしだった。
「だから、私……もう隠さない。
不安になるし、嫉妬もするし、強がるし……でも、それでも」
俺は静かに、沙耶の手を取った。
その指は少しだけ震えていた。
「沙耶、それが“お前”なんだろ? 俺は……そのままのお前がいい」
「……ほんと、ですか?」
「嘘ついてたら、こんな場所で手握らないよ」
その言葉に、沙耶はふっと笑った。
そして少しだけ、涙をこぼした。
「先輩……私、先輩が好きです」
もう、はっきりと言葉にしてくれた。
誰よりも理性的で、距離を取っていた沙耶が――今、誰よりも近い存在になった気がした。




