真央じゃなきゃダメなんだ
「最近、よく一緒にいるよね。……真央ちゃんと」
ある日、放課後の下駄箱前で、莉子がぽつりと呟いた。
「うん。まぁ、いろいろあってな」
「そっか。……ううん、なんでもない。ごめんね、変なこと聞いて」
莉子の笑顔は、どこか少しだけ寂しそうだった。
(俺は……ちゃんと、決めなきゃいけない)
誰か一人だけを選ぶのが“優しさ”じゃないことは分かってる。
でも、曖昧にしたまま、誰かを傷つけるのは――もう、やめたい。
その日の夜。
真央から届いたメッセージに、俺は自然と笑っていた。
明日の弁当、ちょっと頑張ったから楽しみにしてなさい!
(……本当に、ありがとな、真央)
次の日。
真央と一緒に屋上で昼を過ごす時間は、まるで特別な世界みたいだった。
「今日はね、卵焼きだけじゃなくて、煮物も作ったの」
「まじか! 家庭的すぎて惚れるわ」
「もう惚れてるでしょ」
「おっ、正解」
真央は、照れ隠しなのかお茶を飲みながら顔を逸らした。
「なぁ、真央」
「なに?」
「俺さ……最近、やっとわかったんだ」
「なにが?」
「“真央じゃなきゃダメだ”ってこと。
一緒にいて楽しいし、嬉しいし、落ち着くし、ドキドキもするし……
何より、“真央にだけ”見せたい俺がいるんだ」
真央は箸を止めて、じっと俺を見つめていた。
その視線はまっすぐで、どこまでも真剣だった。
「……ほんとに? ほんとにあたしでいいの?」
「うん。真央がいい。真央じゃなきゃ、俺はダメなんだよ」
少しの沈黙のあと、真央は静かに笑った。
「じゃあさ、私も言うね」
「……うん」
「セイタがいい。セイタじゃなきゃ、私はきっと……誰も好きになれなかった」
握り合った手は、少しだけ震えていた。
だけど、その震えごと、俺は強く握り返した。
「これからも、よろしくな」
「……うん。よろしく、セイタ」
夕陽が、真央の頬を赤く染めていた。
それは照れているからじゃなく、ただ“恋してる”から。
俺も、今なら同じ顔ができる気がしていた。




