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桜がまた咲いたら

春――。


高校の卒業式が終わり、制服姿の俺たちは、ゆっくりと桜並木の坂道を登っていた。

風が吹けば、花びらが舞い、通りすがる誰かが「写真撮ってもらえますか?」と声をかけてくる。

――そんな、ありふれた春の午後。


だけど、俺にとっては、特別な日だった。


「セイタ」


「ん?」


「桜って、いいよね。なんか、初心に戻るっていうかさ」


「初心って……真央にとっての初心って、どのあたり?」


「……あんたにムカついてた頃?」


「やめてくれ(笑)」


真央はクスクスと笑いながら、少しだけ早足になった。


「でもね、本当の最初は――あの桜並木幼稚園だったんだよ」


「……思い出してくれたか」


「うん。ふと思い出したの。小さい頃、手を繋いで歩いた帰り道のこと。

あのときも、桜が咲いてたんだよね」


「そうそう。だから今日、ここに来たかったんだ」


歩道の端にある、少し古びたベンチに腰掛ける。

真央も隣に座ると、無言のまま肩が触れた。


「……あのときはさ、まさか、こんなに好きになるなんて思ってなかった」


「俺は思ってたよ。ずっと、真央が好きだった。

他の誰かに気持ちが揺れても、最終的に真央じゃなきゃダメだって、何度も思い知らされた」


「そっか……。嬉しいな。なんか、泣きそう……」


「泣いてもいいよ。今日は、全部許す」


「じゃあさ、お願いしていい?」


「なんでも言えよ」


「次、桜が咲いたときも、また一緒にいようね」


「もちろん。何度だって、真央と春を迎えるよ」


真央は静かに目を閉じて、俺の肩に頭を預けた。


「ねぇ、セイタ」


「ん?」


「本気のキス、してもいい?」


答えなんて、決まってる。

俺はゆっくりと顔を寄せ――そして、ようやく触れた。


これまで何度もすれ違って、それでも歩み寄って、言葉を重ねて、

ぶつかり合って、笑い合って――

ようやく辿り着いた“真央と俺”の今。


風が、ふたりの髪を優しく揺らした。


桜はまだ満開ではなかったけど、

俺たちの恋は、ようやく満ちた。

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