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最強モンスター:フレイムリオン

2巻の24話です


第四章


1 


「何かいる」

 そう最初に察したのは、エレナだった。

 そしてすぐに、探知の感覚を共有していた俺も、ソイツに気付いた。


《風》による探知は、この地下道でも十分に能力を発揮してくれている。

 精霊の《風》は、人間のそれより細やかに、力強く、そして多くの壁を貫くがごとく、広がってゆく。

 目的地まではまだ距離があるはずだった。

 なのに、思わず足を止めるほど、警戒しておくべきモノが潜んでいる。


 続いてそれを察知したのは、ネイピアの《風》と『糸』だった。

「なるほど、変なのが居るわね」

 ネイピアの手には、『糸』が抓まれている。

 地下道の先を探知させていた『糸』――それを手元に戻すと、先端が溶けていた。

 ネイピアの『糸』の原材料――髪の毛の溶ける嫌な臭いが、地下道に充満してしまっていた。


「ちょっと、私のせいで臭いなんて思われたくないわ」

 と、怒ったように《風》で換気している。

 そんな様子が場違いで、みんなに笑いが漏れていた。

 気持ち的にはゆとりを持ちながら。

 だが、油断はしない。


 地下道の先。

 携帯してきた明かりの届かない、暗闇。

 そこに、青白く輝く何かが揺らめいていた。

 人魂? なんてことを思ってしまって、心の中で苦笑する。

 違う。モンスターだ。あの色は、おそらくミスリルゴーレムか。

 俺は霊装エレナを構えながら、高速の斬撃を放とうと、機を窺っていた。

 次の瞬間――


 ミスリルゴーレムが、燃えた。


 青白い金属の身体から、いっそう鮮やかな青白さを放つ炎が上がったのだ。

 その炎の明かりで、道の奥の姿が照らし出された。 

 青白い炎を纏ったモンスターが、そこに居た。


 まるで、青白い炎の『たてがみ』を持つ、ライオンのよう。

 いや、このモンスターは、まるで――

 するとセラムが、困惑を隠さず言った。


「『フレイムリオン』?」

 ――その名前は、俺も想起していた。

 フレイムリオンは、ライオンのたてがみや体毛が炎そのものになったようなモンスターだ。

 それこそ、いま視界に入ってきているあのモンスターにもそっくりだ。

 だが、違う。

 あれはフレイムリオンではない。

 そのはずなんだ。

 なぜなら――


 フレイムリオンは、精霊界のモンスターなのだから。

 こんな場所に居るわけがないんだ。


 ……そんな自問自答が、虚しく感じる。

 オリハルコンでさえ人間界に存在しているんだ。フレイムリオンだって、人間界にいてもおかしくないだろ、と。

 本来なら、そっちこそがおかしいことのはずなのにな。


「くるぞ! プリメラとガルビデ団長は後方へ!」

 俺は霊装セラムを構えながら、二人と入れ替わるように前に躍り出た。

 ウオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォッ!

 フレイムリオンが咆哮した。

 その口から、青白い炎をまとった火球が放たれる。


「せあっ!」

 霊装セラムの《氷》の一閃。火球を一瞬で凍らせ一刀両断。ただの石となった火球が足下を転がった。

 ヴォァァァァァァァァァ!

 ふたたびの咆哮。すると身体の炎が一気に広がり、地下道の壁や床をドロドロに熔かしていた――


 溶岩化⁉

 それはまさに、精霊界に生息するフレイムリオンの得意技だ。その威力は、個体によってはオリハルコンすらも熔かすほどと言われている。

 ミスリル程度なら、もはやコイツが近くを歩いただけでドロドロに熔けてしまっている。

 このままだと、行く道まで潰されてしまう。


 俺は霊装セラムを振るって、溶岩の上に《氷》の足場を作っていった。ただの溶岩程度の温度なら、霊装の《氷》は溶けやしない。そのままフレイムリオンの所まで跳躍し、霊装セラムで切りつけた。

 グオアァァァァァァ!

 断末魔の悲鳴と共に、フレイムリオンの炎は消え、倒れた。

 とはいえ、溶岩化していた地面はいまだ熔けたまま。

 そこで、足場に使った《氷》を活用して、溶岩化しているところに敷いて冷却し、強引に溶岩の広がりを止めた。


 ……それにしても。

 どうして、こんなモンスターが居るんだ?


 今のフレイムリオンは、正直に言えば、精霊界のフレイムリオンよりも強かった。

 精霊界のモノよりも強いモンスターが、人間界に出現するだなんて、理論的にはあり得ないはずだった。


 そもそもモンスターは、この自然界の中で、何らかの理由により魔力の極致集中が起こったとき、その魔力と、近くの物質とが結びついて、趙生命的なモノが生まれることがある、とされている。

 その物質が、たとえば岩や金属や武具だったら、ゴーレムやデスアーマーに。

 植物だったら、デイモンウッドやイヴィルフラワーに。

 動物だったら、サーベリオンタイガーやフレイムリオンなど、枚挙にいとまがない。


 そして、モンスター発生の原因が魔力の集中である以上、ほぼ確実に、同種の魔物は精霊界のモノの方が強いはずなんだ。精霊界の方が、圧倒的に魔力の濃度も質も高いんだから。

 だったら、なぜ、今ここに精霊界のモノより強い同種モンスターが出てきているのか。


 ……それは、おそらく。

 魔王ゼグドゥの、魔力の影響だろう。

 魔王ゼグドゥの魔力によって、新たなモンスターが作り出されているんだ。

 復活の兆しとして。

 ……それくらいの影響力は、既に、人間界に及んできているってことなんだ。


 目的の地は近づいている。

 そのことが、嫌でも解る。

 モンスターの強さが、段違いに上がってきているのだ。    


 何体のモンスターを倒してきただろう。それを数えることなど不可能だった。

 何種類のモンスターを倒してきただろう。それを数えることもまた、不可能だった。


 それでも、今、目の前に居るオリハルコンゴーレムが、最後の一体だろう。

 その背後には、豪奢で巨大な扉。

 この扉の先に、エレナたちが探知で見つけた目的地がある。


 俺は霊装エレナの《風》に乗って、オリハルコンゴーレムの懐に飛び込むと、霊装セラムの《氷》の一撃で完全凍結させた。

 そして、凍結したオリハルコンゴーレムを拳で軽く叩くと――

 カイィィィン……ピシピシィッ!

 ――高音を響かせながら、粉々に砕け散った。

 余韻が反響し続けて、そして、やがて消える。

 この地下道に、初めて静寂が訪れた。

次話の投稿は、本日(6/13)19:30を予定しています。

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