封印の祭壇
2巻の25話です。
「いよいよ、だな」
高さ5mを越えるほど巨大な扉を前にして、完全な静寂を破るように言った。
不安や恐怖は、特にない。
ただ、ほんの少し、疲れがある。
場合によっては、今回は斥候みたいなことだけをして一時退却する、というパターンも考えられていた。
それこそプリメラが負傷したときには、そっちのパターンで行くことも考えた。
だけど、ここまで来たら解る。
そんな悠長なことはしてられない。
ここまでの道のり、想定以上にモンスターが多く沸いていた。
しかも、一般兵が相手にするには厄介なモノもいた。もし、ウーリルとルーエルが祠を護っていたりしたら、近いうちに取り返しのつかないことになってしまうだろう。
このモンスター増加の根源には、間違いなく、魔王ゼグドゥが関係している。ゼグドゥの封印が弱まっていることが、原因と考えて間違いない。
つまり、この件は、緊急で対応しなくちゃいけないんだ。
時間を掛ければ掛けるほど、危険度が増していく一方なんだ。
だから、このまま今回でケリをつけるしかない。
倒すにしても、封印するにしても。
ここで俺は、プリメラの様子を窺った。このメンバーにとって、万が一のときの切り札が、彼女なんだ。
プリメラは胸に手を当てながら、何度も深呼吸をしている……けど息が落ち着かないのか、浅い呼吸を何度も繰り返していた。
先ほどの怪我の影響もあるんだろう。
「プリメラ、大丈夫だって言ってるだろ」
「え?」
「今回、プリメラの出番はない。のんびり後方から、俺たちの戦いぶりを観戦してくれればいいんだ」
「……ジードさん」
プリメラは笑顔を浮かべた。だが、どうしても硬さは抜けていなかった。
これに関しては、言葉でいくら言っても安心しにくいだろう。
だったら、実際にさっさと初めて、さっさと終わらせてしまおう。
その方が、みんな早く安心できるようになるんだから。
「それじゃ、行くぞ」
言うと同時に、俺は扉を開けた。
扉の隙間から、光が漏れてきた。
サッと視界が開けた。
ドーム状の地下空間が、広がっている。
目に飛び込んできたのは、白金色の祭壇。
祭壇だけじゃない、この部屋全体が、白金色だ。
高さ10m、床の広さは直径40mはあろうかという、広大な地下空間。その天井に迫るほど巨大な祭壇が、奥の方にそびえている。
広大な地下空間でありながら、奥までよく見えていた。
この部屋の中にあるものすべてが――床も壁も天井も、オリハルコンでできている。
祭壇上には、幾重にも連なっている無数の魔法陣が、光を放ちながら展開されていた。
それはまるで、祭壇を彩る花のようにも見える。
その光が、この地下空間全体を照らし出しているんだ。
「これが、999年前の魔王を封印している、祭壇か」
俺は祭壇に歩み寄りながら、見上げるようにして呟いた。
「こんなものが、帝都の地下深くにあったなんて……」
ネイピアが、感嘆と困惑を混ぜたように、声を震わせていた。
人影はない。
モンスターの気配もない。
ただ、呼吸すらしたくなくなるほどの気持ち悪さが、この場の空気にまとわりついているように感じられた。
息を吸うだけで内臓が腐ってしまいそう。
目を開けているだけで、ジュクジュクと染みるような痛みが広がってくる。
……これが、魔王ゼグドゥの魔力の影響なのか?
俺は警戒をしながら、祭壇へと近づいて行こうとした。
「なんてことだ⁉」
ふいに俺の背後でガルビデが叫んだ。
ガルビデは、祭壇の一点を眺めながら、全身を震わせるほど困惑していた。
「祭壇にある魔法陣の数が、文献と合っていない! 足りてないんだ!」
「なんだって? まさか⁉」
「……恐らく、魔王ゼグドゥは既に封印を抜けて、復活してしまっているぞ!」
「くっ⁉」
警戒しながら辺りを見渡す。
灯が乏しく、薄暗い空間。
無数の魔法陣の光が、オリハルコンの祭壇を照らし上げている。
改めて気配を探るが、人の気配も、モンスターの気配も感じられない。
するとすぐにガルビデが叫んだ。
「プリメラ! こうなってしまっては封印の儀式を始めるしかない! すぐに祭壇へ来るのだ!」
「は、はい!」
プリメラが震える声で返事をした。チラリと俺を見やってきて、力無く微笑みを見せながら、祭壇へと駆けていく。
そしてその後から、ガルビデがプリメラを追っていく……。
……待て。
おかしい。
アイツは、さっき、なんて言っていた?
「待てプリメラ!」
「えっ?」
プリメラが困惑しながら足を止めて振り返った。
「祭壇に近付くんじゃない! すぐに離れろ!」
俺は叫びながら霊装エレナを構えていた。
「そこにいるガルビデは、ニセモノだっ!」
本日の投稿は、以上です。
次話の投稿は、明日(6/14)18:00からを予定しています。




