小さなキズ
2巻の23話です。
「きゃあっ⁉」
先頭の方から、ふいにプリメラの悲鳴が聞こえた。
「くそっ!」
続いてガルビデの悪態が響く。
「あのゴーレムは何だ⁉ 魔法がまったく効いていないではないか!」
……まさか⁉
俺は急いで前に出た。
案の定。そこには、もはや見飽きたほどたくさん見てきた奴がいた。
オリハルコンゴーレムの群れが現れた!
精霊界にしかないはずの金属――オリハルコン。
それを基にして生み出された、オリハルコンゴーレム。
以前に現れていたオリハルコンゴーレムは、ちゃんと全滅させたはずだ。
すべての金属の頂点に君臨し、最強の魔法耐性を誇るオリハルコン、それから生成されたゴーレムは、あらゆる《土》を操ることができる。それゆえ、一体でも残っていたら危険な存在だからと、しっかり全滅を確認したんだ。
なのに、今、そいつらが群れとなって立ちはだかっていた。
……やっぱり、新しいモンスターが生まれている。
そう確信した。
「行くぞ、エレナ、セラム!」
ふたりに呼び掛ける、と同時にふたりは霊装となっている。以心伝心の関係だ。
《風》の霊装エレナによって、一瞬でオリハルコンゴーレムの懐に飛び込んだ俺たちは、《氷》の霊装セラムの一閃によって、オリハルコンゴーレムを凍結させた。
霊装の氷は、万物を凍らせる。
それは、最高の魔法耐性を誇るオリハルコンであっても、例外ではない。
最高の魔法耐性を越えるような一撃を当てれば、いいだけなのだ。
俺は、凍結したオリハルコンゴーレムを、拳で軽く叩いた。
カイィィィィン……
甲高い音を響かせながら、オリハルコンゴーレムは粉砕された。
「プリメラ、大丈夫か?」
さっき悲鳴が聞こえたのが気になっていた。
急いで駆け寄ると、見た感じでは負傷してないようにも思えた。
「……あ、えと、大丈夫です。指を、ちょっと切っちゃっただけなので」
プリメラが、どこか恥ずかしそうに苦笑していた。
見れば、プリメラの左手の薬指に、切り傷があった。
ちょっとと言えばちょっとだが、まぁまぁ深いようで出血は止まっていない。
「いいから、治療するわよ」
ネイピアが怒ったようにプリメラの手を取って、今度は俺を見ながら「貴方も手伝ってちょうだい」と言ってきた。
そういうことなら。
「よし。セラム、洗浄と止血だ」
俺が言うのとほぼ同時に、セラムは《水》で傷口を洗い流して、血管の切れている箇所を《氷》で塞いだ。
「傷口の縫合は任せたぞ」
「言われるまでもないわよ」
ネイピアは事も無げに答えて、そして有言実行、『糸』を使って傷口を素早く縫合していった。
「こんなこともあろうかと、傷口縫合用にみんなの髪の毛で『糸』を作っておいて正解だったわね。誰かさんと一緒に居ると、何かしら怪我人が出てくるんだから」
そう皮肉っぽく言うけれど、正直、用意周到なネイピアには感謝しかない。
……って言うか。
「いつの間に、俺の毛も抜いてたのか?」
俺は思わず頭を抑えながら聞いていた。
まぁ別に俺の髪の毛は少ないわけじゃないから問題なんてないけど、それでも勝手に抜かれていたら気分は良くないわけで。
「あら。貴方の髪の毛なら、協力者からの提供があったから気にしないでいいわよ。自然な抜け毛を集めてもらっていたから」
「協力者からの、提供?」
思い付くのはふたりしか居ない。
俺は咄嗟にエレナとセラムを見やっていた。人型に戻っていたふたりは、怪しいくらいに揃って視線を逸らしていた。
「…………」
なるほど、きっと俺の部屋のベッドから拾い集めたのを渡したんだろう。
……て言うか、みんな俺が居ないところでも、しっかり仲良くなってるってことなのか。
まぁ、エレナとセラムのことだから、俺を助けるためだとか言えば、誰でも何でも協力するだろうけど。
それでも、エレナとセラムとネイピアが協力をしてくれていたんなら、それは嬉しいし、正直、ちょっと安心もした。
そう思うと、髪の毛の数本くらいどうってこともなかった。
そんな話をしているうちに、ネイピアによる縫合は鮮やかに終わった。
「す、すみません。急にめまいがしてしまったら、そこをモンスターに襲われてしまって、慌てた結果の不注意なんです……」
本当に申し訳なさそうに、プリメラは謝ってきた。
「めまい? 体調が悪いようなら、プリメラは地上に戻ってもいいんじゃ……」
「ダメです!」
俺の提案は、食い気味に否定された。
「今回、私の役割は、いざというときの最後の砦なんですから。魔王を倒せなかったとき、最終手段として封印をしなければならない、それが、今回の私の役目。私は、それを成し遂げなければいけないんです」
「……プリメラ」
俺たちは、プリメラが今回の任務に掛けている想いを聞いている。
かつて、ネイピアに負けることが怖くて逃げてしまったというプリメラ。
そこから、魔法で戦わなくても良い道として、教導士団を目指して入った。
そしてそこで、巨大魔法陣を描く能力を見出されて――
そこから、今回の魔王封印計画の要として、大抜擢された。
自分の力が、世界平和の役に立つんだ、と。
「……解った。一緒に行こう」
その想いを知っている俺は、彼女の想いに応えたかった。
何より――
「まぁ、きっとプリメラの出番はないだろうからな。のんびり後方で休んでてくれ」
「はい! そうさせてもらうつもりです」
プリメラの笑顔が弾けた。
その笑顔に、こっちも思わずほだされる。
――そうだ。
俺が魔王ゼグドゥを倒してしまえばいいだけのこと。
そうしてしまえば、何の問題もないんだから。
次話の投稿は、本日(6/13)19:00を予定しています。




