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5:勇気を出してその一言を(ミーティア視点)

その記憶が蘇ったのは、遠くから第一王子であるアーサー殿下を見た時だった。私は日本という国で生まれ育った高校生で。病に倒れ成人前に死んだ。入院生活では本を読むのが大好きで両親や友人からいつも本をお見舞いとしてもらっていた。友人達がくれた本の中には異世界転生物というジャンルがあって。乙女ゲームに似た世界に転生したヒロインの恋愛物語や悪役令嬢に転生して断罪からの婚約破棄を阻止すべく奮闘する物語などがあったけれど、どちらかといえば、勇者になって魔王退治とか賢者になって魔法をバンバン使って冒険とか、美味しくない食べ物を美味しくする食べ物チートとかそんな話の方が好きだった。


死ぬ直前まで思っていたのは、食べ物チートか冒険者で生活していく物語に転生したい。……というものだった。だから日本人だった記憶が蘇った私は、食べ物チートか⁉︎ と思ったのに、既にご飯は美味しい。では冒険者で生活⁉︎ とか思ったら、魔法は使えないしそもそも公爵令嬢。冒険者生活も無い。……詰んだ。


そう思いながらショックで熱を出したのは良い思い出だった。仕方ない。政略結婚で誰かに嫁ぐならば令嬢として恥じない人生を生きよう、と諦めた。その矢先ーー。アーサー殿下の婚約者探しとしてお茶会に私は招かれた。……なんか嫌ぁな予感がするんですケド。そう思いながら出席したお茶会で、我が家は見事にアーサー殿下の婚約者になってしまった。……なんですと⁉︎


もしやコレって乙女ゲームだかラノベだかの異世界転生恋愛物ですか⁉︎ この立ち位置ってもしやヒロインを虐める悪役令嬢ポジですかぁ⁉︎ え、ヤダヤダ無理無理。婚約破棄は構わないけど断罪からの処刑ルートコースは遠慮したいっ!


そんなわけでお父様に甘えて然りげ無く断る方に話を持って行ってもらうことにした。お父様は公爵家当主だけど、王家との繋がりは要らない、と仰る人だったから、私がこの婚約に困っていると言えば、白紙にしてもらおう! と意気込んでおりました。結果は惨敗です。


仕方なく私から殿下に婚約白紙を願い出てもダメだった。でも期限は区切ってくれたから可能性はある。それまでに私が出来る事はアーサー殿下と良好な関係を築く。何処で出会うか分からないけれどヒロインとアーサー殿下が出会ったらその仲を邪魔しない。なんだったら速やかに婚約解消して2人の恋愛を応援する!


ーーそんな決意をした事もありました。


だけど。婚約して4年。今年から学園に入学したアーサー殿下。大体においてこの学園という場所が身分違いの2人の出会いの場や恋に落ちて行く逢引の場所になる、というのに。殿下はちっとも変わらない。


どういうことか。

婚約者として月に1度の交流会も欠かさないし、手紙も届く。贈り物も誕生日以外にも欠かさない。なんだったら学園に入学したら、週一回だった手紙が3日に1度に増えた。……えっ。なんで。他の女性と恋に落ちたなら手紙なんて減りそうなんだけど。


それどころか、贈り物も増えた。元々誕生日以外には筆頭婚約者候補者として殿下主催のお茶会や王妃様主催のお茶会時には、ドレスや靴や装飾品をセットで贈ってくれていたし、季節の便りと共に花束や小さな贈り物が。それなのに殿下が学園に通い出してからは、その贈り物の頻度も上がった。……何故に? 他の女性と恋に落ちたなら(以下略)


とにかく、アーサー殿下からの手紙も贈り物も何故か増えた。それどころか。


「今、なんて仰いました?」


私は淑女にあるまじき顔つきになっていたと思う。私にその話をしているお父様は気まずげに視線を逸らした。


「だから、その、アーサー殿下が、な? 学園に通い出して色々忙しいようで癒しが欲しい、とのことでな? それにはその、月一回の交流会ではなく、ノアとの交流会を週一回くらいに増やしたい、そうだ」


お父様が気まずげなのは、私がこの婚約を心から喜んでいないから、だと思う。未だに私はアーサー殿下との婚約は消極的。でも恐らく国王陛下に押し切られたのだろう。ちなみにノアというのは、私のミドルネーム。この国では家族か恋人(婚約者・既婚者含む)はミドルネームを呼び合うのが一般なのです。


「週一回……ですか」


増やすのは別に出来ない事では無いのです。王子妃教育……おそらくアーサー殿下が王太子になられるでしょうから王太子妃教育を受けています。正式な婚約者では無いため、婚約解消になっても問題の無い、国の歴史やら他国の言語習得やら、ダンスマナーやら礼儀作法やら。そういったものの勉強をするために城へ3日に1度は上がっている。そのうちの1日のどこかでアーサー殿下と城でお茶会をすれば良いから。だけど。他の女性と恋に(以下略)


と、とにかく。今の私とアーサー殿下は関係が良好です。という事は、この申し出を断るのは得策ではありません。良好な関係を築いたままなら婚約破棄に持ち込まれても、断罪からの処刑はないでしょう。国外追放ならそのまま冒険者生活を送りたいのでオールオッケーなんですけど。いつでも冒険者生活が送れるように庶民の生活を知る事や金銭感覚等を身につけましたよ。まぁ多分それだけでは冒険者生活は送れないと思うので、何が必要なのか情報を集める必要が有るんですけど。


それにしても。前世の私はあまり異世界恋愛物に興味を持たなかった所為で、この世界が乙女ゲームだかラノベだかの恋愛系の世界なのかどうなのか不明なんです。だからいつ婚約破棄をされるのか予備知識が全く無くて。私が学園に入学してから、なんでしょうかね。困りましたわー。ヒロインは誰なのでしょう。もうアーサー殿下にお会いしているのでしょうか。それとも未だなのでしょうか。取り敢えずは……アーサー殿下の恋模様を知るためにも週一回の交流会は欠かせませんわね。




「ええと、あの、殿下?」


「アーサー」


「アーサー、様」


「様は要らないけど、まぁいっか。それで何? ミーティア嬢」


「ええと、何故私は殿下専用の応接室で殿下の……」


先程から私が殿下、と呼びかける度に名前を呼ぶように仰る。今もやはりムッとされました。ですので呼び方を変えます。


「アーサー」


「何故私は、アーサー様専用の応接室でアーサー様のお膝の上に乗っているのでしょう……?」


そう。お忙しい殿下……じゃなかったアーサー様の癒しとかで、私は増えた交流会(といっても殆どがお茶会ですが)として王子妃教育終了後、アーサー様をお訪ねしたのですが。お訪ねしたら、挨拶もそこそこにアーサー様のお膝の上なのです。


「何故って、私の癒しとしてミーティア嬢は来てくれたのだろう?」


「は、はい」


「もうね、私は我慢しない事にした」


「我慢、ですか?」


「うん。私はね、ミーティア嬢に一目惚れしたんだ。婚約者を決めるためのお茶会で、私は君に一目惚れした。その時はこの気持ちに気付かなかったけれど。今は解る。私はミーティア嬢が好きだ。あなたを婚約者に、ゆくゆくは結婚して王妃として私の隣に居て欲しい。あなたのミドルネームを呼ぶ権利が欲しいし、あなたを独り占めする権利も欲しい」


……な、な、な、なんて恥ずかしくなることを仰るんですか、アーサー様⁉︎


「好きだよ、ミーティア嬢。約束の時間まではまだ1年有るけれど、私は君を婚約者にしたい。君はどう思う?」


耳元で囁かれている私は、絶対真っ赤になっているでしょう。何て言えば良いのやら、わかりません。でも。一つだけ理解している事があります。その一言を口にするのは勇気が要りますけど。頑張ります。


「私も……アーサー様をお慕いしています。こんな私で宜しいのでしたら隣に置いて下さい」


「ああ! 必ず、死ぬまであなたは、私の隣だ。側妃も愛妾も置かぬ。だからあなたも私以外の男に心許してはいけないよ」


観念しました。ここまで言って下さっているのに、いつまでも断れません。好き、なのですから。いつの間にかアーサー様を好きになっていました。アーサー様からは、他の男性に目移りしないように、と言われます。アーサー様も他の女性は不要だと仰いました。


「はい。私はアーサー様だけです」


「うん。ドレイド」


「えっ?」


「2人だけの時はミドルネームのドレイドで呼んで? 公の場では敬称で良いから」


「ドレイド様……。では、私もノア、と」


「ノア」


どうしてでしょう。この方にミドルネームを呼ばれるだけで胸がキュンと締め付けられるようです。苦しいのに嬉しくて痛いのに幸せで。これが恋、なのかもしれません。もし、この先ヒロインが現れても、婚約破棄されても、嫌ですけど、凄く凄く嫌ですけど、この方を好きになった気持ちは確かですから。


処刑で無ければ、この気持ちを抱えて生きていきます。


ーーと思っているのですが。この告白から1ヶ月経っても3ヶ月経っても、一向に殿下がヒロインらしき女性と出会う感じは無さそうです。もしかして……私が勝手に乙女ゲームだかラノベだかの世界に転生したと思っているけど実は全然関係ない普通の(?)異世界だった、とかってオチ、でしょうか……。

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