2:好きより先に婚約者
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ビル教師の願いとは逆に、僕は父上と母上から婚約者を決めるお茶会を開くと聞かされた。僕の婚約者は後の正妃になる事が決まるため、周辺国の王女か国内外の公爵家・侯爵家のご令嬢ではないと、身分が釣り合わないらしい。ビル教師ごめんね。愛する人を見つけるより先に婚約者が出来るみたい。
お茶会に招待されたのは、周辺国の王女が5人。周辺国の公爵・侯爵令嬢が8人。我が国の公爵・侯爵令嬢が4人の全部で17人。この中から最低でも1人は婚約者を選ぶ。気に入った相手なら、3人まで婚約者として内定出来る。3人の中から正妃1人側妃2人を決める事になるらしい。でも絶対ではなくて、正妃になれそうな子だけは必ず選ばなくちゃいけないそうだ。
周辺国の王女殿下方は、国名を聞くと我が国より国力が低い所だった。多分、政治的さくりゃくってやつだろう。使用人達がコソコソと話していたのを聞いた。さくりゃくの意味を後で言語のゼフ教師に尋ねよう。
とにかく僕は全員の王女・ご令嬢方と少しずつ話をして、どの人が良いのか決めなくてはいけない。でも、思うんだ。少し話したくらいで、決められるわけが無いって。だから父上と母上からのアドバイスとして、僕が可愛いとか綺麗とか優しいとか思った子で良いって言われた。そういう事なら、なんとか。
そうして僕は1人の令嬢を選んだ。
彼女は、我が国の公爵家で、お父君は外交大臣を務めている令嬢。真っ直ぐな銀色の髪が太陽の光を浴びて綺麗で、僕は父上に似た黒に見える紺色の、自分の髪があまり好きじゃなかったんだけど。彼女の銀色の髪と一緒だと好きになれそうな気がしたんだ。何故なのかは分からない。それから、彼女のヘリオドールという黄緑色の宝石のような瞳もなんだか気に入った。ちなみに僕の瞳の色は、母上と同じアクアマリンという水色の宝石で、自分の瞳の色は割と気に入っている。
そんな彼女の名前は、僕より2歳下なのに精一杯のカーテシーと共に告げられた、鳥の囀りよりも綺麗な声で教えてもらって一度で覚えた。
ミーティア・ユグノー。
ヒイル公爵領主ユグノー家のご令嬢。彼女を選んだと父上と母上に告げたら、父上から「良くやった!」と褒められた。なんでも、ヒイル公爵は外交大臣なのに、あまり出世がしたいわけじゃなかったらしくて、本当は公爵という爵位も返上して侯爵位か伯爵位に降爵したい、と常々言っている変わり者らしい。手腕は見事なのに、欲が無くて大臣職も辞めたいと周囲に、いや父上に話しているらしい。父上は何とか引き留めたくて仕方なかったから、僕がヒイル公爵の娘を婚約者に選んでくれれば良いのになぁ……と思っていたとか。
言ってくれれば良かったのに、とは思ったけれど、自分で選んだ相手でないと、相手を大切に出来ないから、と父上が苦しそうな顔で説明してくれた。なんでも父上のお祖父様の頃までは、親が決めていたからもっと早くから婚約者が居たんだけど、お祖父様の弟……僕からすると、父上の大叔父だね……は、その相手を、親が勝手に決めたから……と大切にしないで、相手を傷付けていたらしい。
なんでも、「お前は綺麗じゃない」とか「居なくなれば良いのに」とか。時には、頬をぶっていたとか。……女の子に酷いと思う。そうして父上の大叔父は、成人してから夜会で色んな女性と仲良くなって、とうとう婚約者の女性に婚約を辞める、と告げて別の子と結婚してしまったとか。
父上の大叔父の婚約者だった女性は、王子妃になるために勉強だって頑張っていたけど、結婚出来なくなってしまって。しかも結婚するまで後少し、という所だったから、他の結婚相手を探すのも大変だったらしい。父上のお祖父様が探してあげたけれど、見つからなくて、それで父上のお祖父様が側妃に望んで結婚したんだって。
そんな事があってから、婚約者は10歳で自分で決める、と父上のお祖父様が決めたとか。確かに、そんな事があったら自分で決める方がいいよね。父上の大叔父は、好きになった女性と結婚したけれど、王家に恥をかかせたってやつで、王族を辞めさせて、その女性に婿入りしたらしい。でもその女性は王子妃になれるって思っていたから、ケンカばかりだったとか。それって愛して愛される結婚じゃなかったのかな。
それと、父上のお祖父様の側妃になった女性は、どんな気持ちだったのかな。僕が、もし、ミーティア嬢にそんな事をしてしまったら……ミーティア嬢は泣くかな。それは嫌だな。お茶会の時、僕に名前を名乗ってくれたみたいに笑っていて欲しいな。それと、いつか、彼女のミドルネームが知りたいし、僕のミドルネームも教えたいな。
この国を含めて周辺諸国もだけど、ミドルネームは、家族しか呼べない特別な名前だから、僕のミドルネームも僕の家族しか呼ばないもんね。僕はミーティア嬢のミドルネームを呼びたいし、僕のミドルネームをミーティア嬢に呼んでもらいたいんだ。
次話は……まだ1文字も書いてないので、あまり遅くならないうちに書きたいと思います。年内には次話をお届け出来る……予定です。