1:第一王子の家庭環境
暫く、こういった短い連載作品や短編作品は書かないつもりだったのですが、どうしても書きたくなってしまいました。
僕の名前は、アーサー・カエリス。ミドルネームは、ドレイド。ミドルネームは両親と結婚相手だけが呼べる特別な名前。
ナルス王国の第一王子。正妃の子。正妃の子は、僕と第三王子である弟。第一側妃の子は、第二王子と第一王女。第二側妃の子は、第二・第三王女。父である国王陛下は、6人の子がいる。そんな僕は現在10歳。そろそろ婚約者が必要な年頃だ。王族の婚約者を決めるのはかなり難しいのだ、と父上が母上と第一・第二側妃に語っていたのを聞いたのは、2年前のこと。
子どもの僕には「こんやくしゃ」なんて良く分からなかったから、家庭教師に尋ねてみた。こういう事を教えてくれるのは、マナーの教師だろうと思って。マナーのビル教師は、「こんやくしゃ」とは将来、僕と結婚する人だ、と教えてくれた。王族や貴族は小さな頃から婚約者を決めるらしい。
結婚する令嬢の勉強のためだとか。王族なら王子妃教育が必要で、それは僕と同じように何年もかかる勉強。特に王族の場合は貴族と違って条件というのがたくさん有るそうだ。貴族でも、結婚相手の家の事を令嬢は勉強する。貴族の方は王族より条件が少ないらしい。それで、貴族でもその勉強の期間はやっぱり何年もかかるから、子どもの頃から婚約者を決めるとか。
そんなものなのか。と僕は思ったけれど、ビル教師は僕にこれだけは忘れてはいけません。と強く言ってくれた。
「相手の方を尊重して、お互いの気持ちを伝え合う努力をする事。お互いを好きになれずとも、信じ合える関係にならないと、辛くなります」
「つらいの?」
「思ったことが言えない相手は、辛いですよ」
「僕もそうなる?」
「そうならないように、殿下は、婚約者になった方と信じ合える関係を作って下さい」
「しんじあえるかんけい?」
「嫌な事も嬉しい事も悲しい事も楽しい事も話せるように、です。婚約者の方と……結婚した方と、そういった話が出来ないと、辛くなりますよ」
難しかったけれど、大切な事だとビル教師が言っていたから、8歳の僕は「分かった」と肯いた。それから2年。何となくビル教師の言ったことが解って来た。僕は弟である第三王子にも、その他の弟や妹にも、嬉しい事や悲しい事を話した事がない。
いや、話す機会が無い。あまりにも勉強やマナーや剣の稽古や乗馬やダンスや……とにかく忙しくて、3歳下の第二王子も、5歳下の第三王子と第一王女も、ゆっくりと話す時間が無い。第二・第三王女など顔を合わせるのは、父上と正妃である母上と第一・第二側妃も一緒の朝食だけで、後は全く会わないからそもそも朝の挨拶のみだ。
そう考えると、ビル教師の言った嬉しい事や悲しい事を話せる相手は、とてもとても大切なんだ、と理解した。僕がそれを理解した頃に、僕の婚約者を決める話が出た。僕だけじゃなく、弟や妹にも婚約者は必要らしいけれど、最初の子である僕の婚約者を決めるのが、やっぱり最初らしい。
僕と結婚する子か。結婚って、父上と母上や側妃達みたいな事だよね。毎日一緒に朝食を摂る相手。
ビル教師に尋ねたら、「朝食を摂るだけの相手では無いですよ」と言われた。そうなのか。結婚相手とは、一生僕の隣にいて、僕を支えて信じてくれる人らしい。
「それに出来たら愛し、愛される関係が望ましいですが……殿下が国王陛下になられるのでしたら、それは難しいかもしれないですね」
「どうしてですか」
「国王陛下は、国と民を愛して慈しんで守ることが最優先です。正妃様や第一側妃様や第二側妃様よりも大切にするのが、国と民です。陛下のお心を知りませんから分かりませんが、正妃様や第一側妃様や第二側妃様がどれだけ陛下を一番愛しても、陛下は正妃様方を一番には愛せません。それが国王陛下なのです」
「それって国王で無ければ、女性を一番に愛しても構わないの?」
「そう、ですねぇ。ただ国王陛下……アーサー殿下のお父上様は、国と民も愛して、正妃様方も愛していらっしゃるかもしれませんけどね」
「国王って正妃と第一側妃と第二側妃の皆を愛さないといけないの?」
「……そんな事は有りませんよ。愛するというのは、愛さなくてはいけない、と思って愛するものでは有りません。心から愛する相手と出会えば、愛するものです。願わくは、アーサー殿下が愛する方を婚約者にされて、その方から愛してもらえる事を祈っておりますね」
ビル教師がなんだか辛そうに言うから、僕は愛して愛される関係を婚約者になった人と、作れたら良いな。と思った。
10歳の僕には、好きも愛するも全然解らないものだったから。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
楽しんで頂けたら幸いです。
次話は……あまり遅くならないように頑張ります。




