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TOKYO異世界不動産 3軒め  作者: すずきあきら
第五章 そして不動産「夷や」は続く
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ラス1になります。果たしてどんな結末が

 見ると、多くの幟を掲げ、プラカードを持ち、口々に何か大声で叫んでいる。総勢は四、五百人もいるだろうか。


「ありゃあ、何だ。ただのデモにしちゃ妙だな。あの大きいのはヘカトンケイル族の亜人だし、飛んでるのはユニコーンか」


「亜人の、デモ」


「こいつがそうか。聞いちゃあいたが、なぁ」


 源大朗が表情を硬くする。その間にもデモの隊列は近づき、源大朗たちの前を通っていく。


『亜人自由解放機構』


『デミフリー!』


『亜人は人間の奴隷じゃない!』


 どれも幟に大きく掲げられている言葉だ。ほかにも同じ意味の、もっと激しい主張がプラカードに書かれていた。


 デモは亜人だけでなく、人間もいる。数は人間のほうがずっと多そうだ。


「いつかこうなる気はしてたがな」


「外国のほうがずっと多いらしい、けど」


 言っている間に、列が終わりにさしかかる。と、急に、


「社長? 夷やの、社長!」


 話しかけられた。その声に振り向く源大朗の前に、覆いかぶさるような巨人の姿。


「おー! おまえたしかゴーレムの」


「うす、ボーナムですよ。お久しぶりで、源大朗社長!」


 以前夷やに部屋を探しに来た、ゴーレム族の男だった。


「元気か。あのときはいい部屋が見つけられなくて、悪かったな。最近、倉庫の出物があったぞ。どうだ、今から店へ来るか」


 見上げながら源大朗が言う。


「いやぁ、ありがたいんすけど、じつは最近、行先が決まったんですよ」


「行先? 部屋じゃないのか」


「それが、限界集落を亜人の力で立て直そうって。政治家の先生の肝いりでしてね。タダで家までくれるっていうんで、俺らゴーレムだけでなく、キュクロプスのやつとか、レヴィアタンなんかも海から来るとかで」


 大型の亜人が多いようだ。限界集落の再生、というなら建築やら土木やらの工事は必須なのだろうが。


「そうか。そいつは、良かったな。それはそうと」


「失礼します。『デミファーストの会』の三田村と申します」


 源大朗が言おうとしたときだ。急に男が割って入って来たと思うと、そう名乗った。まだ若い。メガネをかけ、髪を整え、その目はまっすぐに源大朗を見る。


「おぁ」


「我々はデミヒューマンの権利拡大のために活動しています」


「で、デミ?」


「デミヒューマン、亜人のこと」


 キアが説明する。


「どう思われますか。この世界のデミヒューマンは、差別され搾取されています。この世界で働き、社会に貢献しているのに、人間と対等な権利があって当然なのに、おかしいと思いませんか」


 そこまで言って三田村、かたわらのキアが亜人なのに気づいたようだ。


「あなたは! 純人間型のデミヒューマンの方ですね。いちばんこの世界に適応しやすいとされている分、劣悪な環境で働かされる場合も多いんですよ。とくにフィーメールの方はね。どうですか、差別的な扱いを受けたり、各種のハラスメントを受けたりしていませんか?」


 一気にまくしたてる三田村に、


「ない、です」


「こいつはうちの従業員だ。優秀でな。いまじゃうちの、いちばんの」


「仕事に見合った報酬はもらっていますか? 各種社会保障は? 現在、デミヒューマンの社会保険加入は使用者の任意ですが」


「おい、待て。少しは話を」


 源大朗が三田村の腕をつかもうとした。それを制してキア。


「別にない、です。不満とか、不安とか。会社は小さいけれど、仕事は楽しいし、よくしてもらっている、から」


「仕事は順調なんですね。けれど、最低賃金とか、社会保障の面では」


「うちの! ……うちの社長は、ぶっきらぼう、だし、見た目は、いまいちだし、よくさぼって公園で寝るし」


「おい、オレのいいとこは」


「けど、だけど、仕事になればすごく、がんばってるし、亜人のお客さんのために、一生懸命で、採算とかもときどき無視するし、だからあんまり儲からないけど、でも契約したあとも、いろんなお客さんがまた店に寄ったり、連絡してくれたり……、従業員の、ことも、命がけで守ってくれる、そんな、人だから! だから、ぼく……、わたしは、好きだから、大好きだから……」


 そこまで言ってキア、不意に気づいて顔をうつむける。頭の上のネコ耳がギュッ、と伏せられて、こわばって見える。


「もういい。もう、な」


 そう言うと源大朗がキアの肩に触れてうながし、自分の方が三田村に相対する。三田村、急に興がそがれたような表情になって、


「ちっ……、まぁとにかく、なにかあったら事務所に連絡してください」


 それだけ言うと、もうかなり先へ進んでしまった列へと戻っていった。大きな身体で所在無げに残っていたボーナムも、


「そ、それじゃ社長、どうも、すいませんっ」


 あとを追いかける。


「おう、がんばれよ」


 源大朗の声が聞こえるにはもうずいぶん離れていたが、ボーナムは一度振り返ると手を振って見せた。


「戻るか」


「……」


 ふたり、再び夷やへの道を歩き始める。


 しばらく無言が続いたあと、


「まぁ、なんだ。いろんなヤツがいる。この世界の人間からしたら、亜人はよその世界、次元から来た、本来会うはずのない存在だからな」


「源大朗も、そう思ってる、の」


「さあな。けど、ゲートが開いちまったんだ。もう戻れないなら、進むしかない。向こうの世界へだって、こっちの人間がいっぱい行ってる。いいことも悪いことも、折り合いをつけてかないとな」


「あの人、嫌い」


「あいつか。ああいうヤツらもいる。目をつむってても、いるもんはいるし活動してるってことだ。けどな、オレはボーナムに、ゴーレムのあいつに部屋を見つけてやれなかった。あいつらは行政だの政治家だのと繋がって補助金も引っ張れるし、亜人を集めて村おこしもやれる。さて、どっちがいいのか」


 源大朗、そこまで言うと、ふーっ、と息を長く吐き出した。


 黙ってうつむいていたキアが手を伸ばす。その手が、迷いながら源大朗の上着の袖の端をつかんだ。


「ぅん? ……うん。まぁでもおまえ、言い過ぎだぞ」


 源大朗の言葉に、キア、首を振って、けれどなにも言わない。その代わり、より強く袖を握った。


「物好きだな。まぁ、好きにしろ。いたいだけ、いればいい。どこにもいかないさ、オレも店も、ラウネアも」


「……ほんと?」


「ウソ言ってどうする。儲からない不動産屋だが、続けてりゃなにかある、かも、な。……ぅん?」


「なに」


「店ってこんな遠かったか。おかしいな」


「……道、間違ってる」


 キアの正しい道案内で、それから五分ほどでふたりは夷やにたどり着いた。


「えらい遠回りだったな。しっかし、道から外れたとか、おまえならすぐわかりそうなもんだろ」


 源大朗が言っても、キアは答えない。


 夷やの店の前にはラウネアが出て待っていた。


「なんだ。外まで、珍しい、な……」


 言い終わらないうちにラウネアが近寄り、そのまま身をぶつけるように、源大朗の胸に顔を埋めたのだ。


「ぉい」


「ごめんなさい。いまはこのままで、許してください。お願い……」


 言葉とともに、ラウネアのやさしい香りがふわりと立ち上る。


 こんなとき、自分からスッといなくなるキアは、今日決して離れない。源大朗の袖だけでなく、上着の裾も強くつかんでいた。


 ふたりにぴったりと挟まれた源大朗、笑って、


「どうしたんだおまえたち。そんなにしたってボーナスなんか出ないぞ。ははは! はは、は……」


 だが軽口もそこまで。


 源大朗もまた、言葉を忘れたようにたたずむ。


 キアとラウネアの、ふたりの体温を感じたまま。ふと顔を上げると、べったりと朱を刷いたような夕方の空に、


「ぎゅ」


 フェアリーが真っ白く、空を抜いたように漂っていた。


今晩最後の更新です。

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