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TOKYO異世界不動産 3軒め  作者: すずきあきら
第五章 そして不動産「夷や」は続く
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3

ラストです。異世界不動産・夷やの運命は

 暮れゆく空にも似た、どこかくすんだ黄金の光が、ときおり光をやけに強める。呼吸のように明滅していた。


 マレーヤとアスタリの住み込む喫茶店の地下室。


 もう時計は深夜の三時を回っている。


 源大朗が入り込んですぐに、異変は始まった。部屋全体がぼぅっと鈍い光に包まれ、じょじょにそれは強くなる。


「こいつは……ただのゲートにしちゃあ、ちと妙だが、な。ちっ、あの婆あ、なにを隠してやがるんだ」


 近づくだけで身体と意識が分離しそうになる。


 あまりいい譬えではないが、超高層ビルのてっぺんから飛び降りようとしているのに、意識はさらに高空へ、宇宙のそのまた上へと昇って行くと確信する、そんな感覚。


 わずか八坪ほどの部屋の奥が、はるか遠くに感じる。


 進んでもとてもたどり着けない。なのにそのはるか先へと、いまにも吸い込まれてしまいそうだ。


 吸い込まれれば、吸い出される。


 どこか別の世界、別の宇宙、別の次元へと、危うくも繋がっているのか。


 その先は、


「オレの……」


 かつて暮らした世界、故郷、家族の待つ土地に。


 近ごろ源大朗は夢を見る。


 夢の中身は醒めると忘れてしまうのに、心の中には寂寥感と渇望感だけが残って、日に日に大きくなっていく。


 この世界ではない、別の、あの世界へと進みたい、戻りたい……! それだけが澱のように堆積して、意識の中がいっぱいになる。


 弾けそうに膨らんで、もう限界をとうに超えているのだ。


 だから、行くしかない。他に選択肢はない。


 たとえこの世界に戻って来れなくとも。二度と、会えないとしても。


「アストリア、クローナ……」


 いつのまにか心に住み着いていた名前。


 名前だけで、顔も、思い出もない。けれど忘れることはない。これが源大朗の妻と娘の名なのか。


 確証はなくとも、確信と衝動だけがあった。


 ならば……。


「ぅん? やっぱりおまえか」


 部屋の向こう、黄金の空間にぽっかりと浮かぶフェアリー。


「ぎゅぅ」


 クロが鳴いた。


 少女の形はしていても、それが姿どおりの内実を持っているとは限らない。黒目だけの瞳が濡れ光って源大朗を見つめている。


「ベルゼブブ……、じゃねえのかもしれないが、どうやらこの一帯の地下に巣くってるようだな」


 マレーヤが育てていた旅館の、最初にいたらしい地下室。そこからここまで、距離にして一キロほどはある。


「本体を地下に隠しておいて、分身が地上を動いて回る。なるほど、いい仕組みだ。おまけにそんな恰好じゃあな。まんまとだまされたってわけだ。いまごろこの辺りはまるごと、おまえの能力で、気づかないまま次元の歪みに呑み込まれる、か」


 そうならないためにも、行かなくてはならない。


 源大朗ひとりか、街の何百、何千もの住人の命か。


(オレと引き換えになるか、できるか、わからねえが、やってみる価値はあるかもな。まして……)


 あの光のゲートの向こうに、懐かしい世界があるのなら。ほんの一握りでもその確率があるのだったら。


「ぎゅ」


 クロの姿のフェアリーが首をかしげる。と、


「源大朗さん、源大朗さん!」


 声が届いた。外から、地上から。


「まさか、ラウネアか。意識があるのか」


「おっさん! おーい、生きてる!?」


「すいません、大丈夫ですか!?」


 マレーヤ、アスタリの声も。


「なんで……、そうか、ラウネアの根が、みんなを」


 地下に根を張るアルラウネのラウネアは、地下からの異変に敏感に気づいた。また、その根を張り伸ばすことでマレーヤたちをも覚醒させたのだ。


 だが、


「悪い。行かなきゃならねえ。オレが行かないと」


「源大朗ぉ! 行っちゃダメぇ!!」


 その声に、源大朗は振り向いた。


 キアの渾身の叫び声だった。ふだん、ささやくようにしか話さない少女の、これまで上げたこともないような大声。


 しかし、目の前の光はますます強く、部屋を満たし、源大朗を包む。


 光に全身が溶けていく。


 視界が白い闇に染まり、自分の手や足さえも見えなくなる。


(遅かったか。いや……!)


 光の先に見える。かすかな、風景。人と、景色。それが、


(ああ、そうか。そうだったんだ)


 源大朗は不意にわかった。


 ラウネア、キア、マレーヤ、アスタリ……、アウストラ、クローナ、そして……。


「そこにいたのか、みんな。最初から、ずっと前から、オレの……!」

 ついに光が源大朗を呑み込む。


 天使が微笑む。


 地下の世界を満たした光は、そこから地上へと爆発するように拡散する。

 天までも、光の矢が伸びていく。



(了)


これまでお読みいただきありがとうございました。

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