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第四章のラストは間取り付き!
「……はぁ、はぁ、はぁ」
夜。
ひとりザッラが専用デッキブラシで洗い場の床を擦っている。もう浴槽内、各カラン、それに脱衣場の掃除は終わっていた。
「あとは壁と、鏡」
つぶやくザッラは、長い髪をゴムで根元から結わえ、服装はTシャツと短パン。アクセサリーもいっさいない。
一部の照明を落とした、ふつうの洗い場よりも暗い中、ザッラはもくもくとブラシを動かす。体重の乗せ方、さばき方もここ二週間でだいぶわかって来た。
住居は銭湯の二階。以前は何人もいた従業員の控室や、物置だったりした部屋のひとつを使わせてもらっている。
周りは空き室で、二階全部が実質ザッラの貸し切りだが、水回りがない。階下は湯舟といい洗い場といい、あふれるほどの水が使い放題なのに、それは唯一不便で不思議に感じるところではあった。
時間を忘れて作業していると、不思議と気持ちが晴れてくる瞬間がある。
亜人スクールから帰ってボイラーの調整。ボイラーの温度は最小限の設定で、あとはザッラが過熱する。
営業中でも洗い場、脱衣場などでこまごまやることは多い。近頃は番台に立つことも増えた。番台からでも、湯船の湯の温度を管理するのは容易だ。
「ふーっ」
ようやく床を全部掃き終えて、ホースの水で流した、ときだった。
「ザッラちゃん! スイカ切ったわよ、もういいから上がんなさい」
庭を通して老婦人の声。
オーナーの老夫婦は、浴場の建物と続きになった家屋に住んでいる。
「はーい! いま、行きまーす!」
大きく返事をして、掃除用具を裏へと仕舞いに行く。
ふと見る、作業中はテーブルに置いたままだったスマートフォンに、キアからのメール着信の報せが届いていた。
その日の昼間。
夷やには新たな亜人の客が訪れていた。
「リュールカさんね。ええと、オンディーヌ族、なのか。つまり」
「はい。水を操るのが得意ですの。プール一杯分くらいの水なら、いつでも出してみせますわ」
カウンター席で微笑むのは、腰までもあるウエーブした金色の髪の女性。
その言葉のとおり、レジャープールの会社で働いていたのだが、能力を超えて水を供給することを求められ、その割に給料は安すぎて、最近辞めたのだという。
「なるほど、そりゃ辞めて正解かもな。けど水を出せるんなら……、ぅン? 水を、出せる……」
「水と火があれば、お風呂が、沸かせる」
源大朗の隣でキアが言う。
水はオンディーヌのリュールカが。そして火は……。
「わたくし、火は扱えませんけれど」
いぶかるリュールカに、源大朗がグッ、と身を乗り出した。
「いいんだいいんだ! あんた、いや、リュールカさん、銭湯で働いてみる気はないか?」
明日も更新予定です。




