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TOKYO異世界不動産 3軒め  作者: すずきあきら
第四章 サラマンドラは火を噴かない
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4

物件の決め手は意外なところにあった・・?

 ガラッ! 表戸が壊れるのでは、と思うほど勢いよく開いたと思ったら、そこにはいつものマレーヤ。


「す、すいません。いつもよりうるさくて、ごめんなさい」


 アスタリもいる。ふたり、手にしたトレーに、コーヒーポットとカップをいくつも載せていた。


「だぁぅあ……、最悪のタイミングで、こいつら……。おい、おまえら、今日はダメだ。いま大事な話でせっかくいいところなんだ。出直して……」


 そう言って源大朗がマレーヤたちを追い払おうとしたのも無理はない。


 ところが、


「ぇ、うっそ~、なに、誰? 美少女じゃ~ん! かわいさ、マレーヤたちとタメだね~! おっ! 熱っ! けどヤケドするほどじゃないし、冷たいよりいいかな~! マレーヤ、こう見えてけっこう冷え性だし! ね、友だちになろっ!? 決まり! あはは~!」


 あっという間に距離を詰めたと思うと、もうザッラの髪にさわったり手を握ったりするマレーヤに、


「ぁ、おう、ぅ……ん。まぁ、な……」


 面食らって、退く隙も与えられない。


「メンタル強過ぎだろ、あいつ。なんでも突破しちまうのかよ」


 源大朗も感心するほど。そのうえ、


「ぎゅぅ」


 アスタリの肩越しにクロが現れると、


「は? な、なに……、ひぁわっ!?」


「にゅぅうっ!」


 にゅうがさっそく飛び掛かる。


 じつは部屋の隅で丸まっていたにゅう、クロを目ざとく見つけると、ザッラの身体をスロープ代わりに駆け上って、そこからジャンプしたのだ。


 しかしザッラ、怒るどころか、クロとにゅうをじっと眺め、目を細めている。


「これはうちのクロです。そっちはにゅう。かわいいでしょう、はい!」


 いきなりアスタリにまとめて渡され、


「ぅうっ! あ、ぅ……、んっ! はぅ! ……ぅううっ」


 手の中で暴れたり、身体をよじ上ったり、羽ばたく羽で顔を叩かれたりしても、ザッラ、少しもイヤそうでないどころか、ますます顔がとろけていく。


「そうだったんだ」


「かわいいものが、好きなんですね、ザッラさん、やっぱり女の子ですね」


「う、うるせ……、こいつら、ふわふわでふにゃふにゃで、匂い、甘くて、あー、ちくしょー、かわいー!」


 もう隠せない笑顔が弾ける。


 なんだかいろいろ遠回りした結果も、クロやにゅうなら最初からこんなふうに和ませていたのかもしれない。


「部屋はまだ見に行ってもいないけどな」


「え、なになに? どんな部屋探してんの? え、サラマンドラ? それでさっき熱かったんだ! だったら決まりっしょ!」


 マレーヤの言葉に、源大朗、


「嫌な予感しかしねえな」


「発電所! 火力発電とかさ、火を燃やして熱いんだから、ぴったりだよ! ね!」


「このバカ、思いっきり地雷を踏みやがって……」


 頭を抱える。せっかくのいい雰囲気も台無しか。しかし、


「そうか、いいかも。発電所、あたしに向いてるっつーか」


「はあ!? なんだそれ。さっき発電所なんかぜったいイヤだ、言ってたろ!」


「あー、でも発電所ってきっとすごーく遠くなんだよね。山ん中とかさー、せっかくザッラと友だちになったのに、それじゃいっしょに遊べないじゃーん!」


「それすっごく残念だっつーの。やっぱ発電所マジないわ」


「そんなに遠くなかったろ。品川とか海の近くの都会だろが」


「だよねー! だったらさぁ、やっぱり、うーん……」


 源大朗の言うことなど耳に入っていないふたり、発電所はどうやらなくなったらしいが、一度悩んで、


「あ! こういうのはどうでしょう! 発電所がダメなら……」


 そこでアスタリが思いついた、その考えとは……。




「それでうちへ来たっていうのかい」


 ギロッ、シワだらけの奥の目ににらまれて、ザッラも思わず口ごもる。


「て、てか、あたしは別に……、はぁ」


「わたしが、提案したんです。いいかな、って。けど急に、すいません!」


 アスタリが何度も頭を下げる。


 ここは富士見湯。


 番台のお時を挟んで、


「話は聞こえたんだろ。理屈はなかなか通ってると思うぜ」


「そうだよー! ザッラがここで働けばさー、あたしたちの喫茶店にも近いし、超いいと思うんだー。ねー、オーナー、いいでしょー!」


 源大朗が男湯側から、マレーヤたちが女湯側から、言い募る。


「まったく、急に大勢で押しかけて来たと思ったら。少しは考えな、お客さんのいい迷惑だよ」


「まだ開店まえだろ。それに昼間のこの時間、来てもいつも貸し切りみたいなもんだぞ」


「そうだそうだー! だいたいオーナー、いつも暇そうじゃん! 少しはマレーヤたちの話、聞いたって……、ぅっ!」


 しかしお時の眼光に射すくめられてマレーヤの口も止まる。


 お時、


「つまりなにかい、そのサラマンドラの子がいれば、お湯は沸かし放題、風呂屋は大助かりってことかい」


「はい、そうです。燃料代がまるまる全部、とはいかないまでも、かなり節約できると思います。お風呂屋さんなら、いちばんかかるのは燃料代と水道代ですから、これはかなりお得だと思うんです」


「ザッラはすごいんだよー。四大元素のひとつ、火を操るんだもん。火力発電所からだって引っ張りだこなの! それをこんなしょぼい……、じゃなくて! ステキなお風呂屋さんで働こうっていうんだから、超大歓迎じゃん!」


「言うに事欠いて、おまえは、口がそのうちひん曲がるよ、まったく!」


 ため息を吐き出して、ザッラの顔を改めてじっと見つめていたが、


「うちはねえ、別に金に困っちゃいないんだよ。この風呂屋なんて暇つぶしの道楽みたいなもんさ」


「悪徳大家でたんまり儲かってるからな、ここら一帯の物件の」


「誰が悪徳だい! 店舗の家賃を三か月も待ってやってる大家が悪徳だったら、払いを滞らせてる店子はそのまま地獄へ落ちても文句は言えないねえ」


「うっ!」


 こんどは源大朗が声を詰まらせる。


「おまえさんはどうなのさ」


 お時の視線はザッラから一瞬も離れない。まるで試しているようだ。


「あ、あたしは……、お湯を沸かすのくらい、簡単だ、けど」


 チラ、とお時を上目で見る。


「ふんっ」


 お時がかぶりを振って目を逸らした。


「あのっ!」


 あわててアスタリが言葉を継ごうとする。それをザッラが制した。


「あたしは、こんなだし、働いたこともまだないし、ひとり暮らしも初めてだけど……、けど! 友だちは、裏切らない! 初めてできた友だちは、ぜったい裏切ったりしない。マレーヤやアスタリや、キアやラウネアが考えてくれて、紹介してくれた仕事は」


「オレは入ってなかった」


「ぜったい、やり通すんだ! さぼったりなまけたり、ぜったいしない。だってあたしの友達を、がっかりさせたくないから!」


 こんどはしっかりとお時の顔を、目を見つめる。


 お時、


「なるほど、友だちかい。けどね、おまえさんの気持ちはどうでもいいのさ、仕事は結果だからね。それと、うちは金に困っちゃいないんだよ。経費が減るとお上に払う税金が上がっちまうくらいでね」


「そんなぁ! せっかくザッラが」


「くっ、金に汚すぎだろ、婆あ」


「黙っておいで!」


 ここでお時が一喝。改めて全員を見た後、ザッラに視線を戻した。


「うちじゃ要らない、と言ったのさ。けどね、このご時世、こういう銭湯はどこも客が減って経営は苦しいもんさ。知り合いにそういうところがあったのを思い出したよ。続けたいんだが客足は伸びない。せめてもう少し経費が、ってところがね」


「えっ、そんな銭湯が」


「それじゃ、そこで働けるんですか!?」


 色めき立つマレーヤ、アスタリ。


「どこなんだ、その銭湯」


 源大朗の問いには、


「さぁて、どこだったかねえ。ふふん、東洋だったか西洋だったか、江東区のそんな駅のあたりだよ」


「どっちだよ!」


「東陽町。葛西からは電車で十分も、かからない」


 キアが言うと、


「わぁ! やったぁ! 良かったね、良かったね、ザッラ!」


「東西線で高田馬場まで出て、池袋、このあたりだってすぐですね!」


 歓声が上がった。


「う、うん。あたし」


「まだ喜ぶのは早いよ。そこの店主にはあたしから連絡しておくから、きっちり今日中に面接を受けてきな。それと、ただ水をあっためるだけじゃないよ。洗い場や脱衣場の掃除、ボイラーの管理、番台、ひととおり全部やれるようにならなきゃ、本採用にはしてもらえないよ。わかったかい!」


 お時の檄が飛ぶ。


「はい!」


 ザッラの返事は、明快で明るかった。その肩に、


「ぎゅ」


「にゅぅう」


 クロとにゅうが、いつのまにかくっついている。


「ふん。その子たちに礼を言うんだね」


「えっ」


「フェアリーとカーバンクルがなついてるんだ。そう悪いサラマンドラじゃないんだろうさ、おまえんさん。わかったら、しっかりおやり」


 お時の目が、少しだけ笑ったようだった。


「は、はいっ!」


夜遅めにも更新予定です。

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