78話 知識の力で殴れ
私が去る寸前、兵士たちが尻餅をついているクレイグに集まっていくのが見えた。
彼が連れてきた魔術師が暴走したのだ。
今度はクレイグも、責任を取らされることであろう。
その光景を尻目に、私は王城から出る。
仲間たちが後に続いた。
「おう、ジーン殿」
「ややっ、トラボー殿。進展はいかがですかな」
「ものが眼の前にあるのだ。遺失魔法の賢者バッシュホールの蔵書を勝手に読んでものにしてやったぞ」
「ほう、バッシュホール殿の蔵書を? よくぞあの防衛機構を抜けましたな。彼は賢者の塔の一角を勝手に改造していたでしょうに」
「力ずくで突破してやったわ」
城を出ると同時に、賢者トラボーと合流する。
「うっわ、変なの出た」
シーアが露骨に嫌そうな声を出した。
「シーア、一応わたしのお師匠様なんですからー」
「あれに師事して、ナオがいい子に育ったのが私は不思議だよー」
「賢者は人格を見習いませんからね!」
「なるほど」
ナオの言葉に、ワイルドエルフ、ダークドワーフ、リザードマン、シャドウの五人は納得したようであった。
さあ、王都の空を飛んでいるガーシュインを追うとしよう。
かの魔術師は、思ったよりも低いところをふわふわと飛んでいる。
どうやら、あの空を飛ぶゴーレムではガーシュインの重さを支えきれないらしい。
翼の大きさから見るに、それも頷ける。
魔法的な力で浮遊しているのだろうが、人を運ぶ事を考えれば、さほど速度が出せないようにするのも理解できよう。
「先輩! 考え事しながら走らないでー! 足元、足元ー!」
「にゃん」
「おっと!」
真っ白な猫につまずくところだった。
慌てて飛び上がると、猫は私の股間を抜けて走っていった。
「ジーン、先に行くぞ。あれが俺たちの森に神を放った魔術師だろう? 舐めた真似をしやがって」
「ま、待ってえ、兄さん!」
俺たちの森と来たか。
駆けていくトーガを見ながら考える。
我ら試練の民の森ではないのだな。これは、我が開拓地も彼らに認められたと考えても良いのかな。
「ちょっと兄貴! ドワーフが遅れてるんだけど!」
「オブは足が短いからな。大丈夫、魔術師は逃げないし逃さないよ。ゆっくり来てもいいと伝えてくれたまえ」
「へいへい!」
アマーリアをオブ担当、と。
「空を飛ぶとハ。実にやりづらいナ」
横に並んだクロクロが唸る。
「クロクロの吐息は遠くまで届くガ、高い所ハ風に流されてしまウ。槍を投げるしかなイ」
「なにっ、君は炎を吐けるのか。それは魔法的な?」
「ヌウッ」
トラボー殿が目を見開いたので、ファイアリザードマンが警戒態勢になった。
この顔のトラボー殿はとても顔が怖いからな。
種族を超えて伝わる迫力。
ここは私がクロクロの言葉を代弁せねばなるまい。
「トラボー殿。クロクロの炎は、火の精霊を纏った力だと思われますぞ。つまり魔法の炎を生成している」
「なるほどっ。では俺が作り上げたあれを載せることができるな」
トラボー殿はそう言いながら、懐から陶製の壺を取り出していた。
「シャドウストーカーですかな?」
「あれは再現できなかった! まだ不確定要素があるのだろうな。とりあえず、この粉を一瞬だけゴーレム化させることには成功したぞ。ただし瞬間的に高い魔力が必要になる」
「なるほど……。そのための、炎の吐息」
「いかにも」
「流石」
「いやいやそれに感づくジーン殿こそ」
私とトラボー殿で、顔を見合わせてぬふふ、と笑う。
「お二人とも、そこまでに!」
ここに割り込んできたのは、騎士イールスであった。
彼は馬に乗り、我々に歩調を合わせている。
「今、エルフの方々が攻撃を仕掛けているようですが、反撃する魔術師が街に被害を出しています!」
「なんと!」
顔を上げてみれば、いつの間にか家々の屋根を駆けているトーガとシーア。
並行して飛行するガーシュインは、互いに魔法でやりあっている。
風の魔法が放たれ、ガーシュインがそれを遺失魔法の何かで防ぐ。
すると風の魔法の余波が、周囲の家々を切り刻む。
あるいはガーシュインが懐から撒き散らす粉が、空気に触れるや否や炎の嵐になる。
これをシーアが風で散らし、周囲の家々が燃え上がる。
「なんたる迷惑な戦いだ。だが、彼らはワイルドエルフ。人間の事情など知ったことではないからね。仕方ない」
「仕方ないで済まさないでください! このままでは、城下町が瓦礫の山になってしまいます。そうなれば、陛下からの賜り物も危なくなりますよ」
「それはいかん! 行くぞ、トラボー殿!!」
「うむ、なんだか分からぬが、ジーン殿がやる気になったようだ」
「クロクロ、炎の吐息を!」
「うム! がアッ!!」
大きく口を開いたクロクロは腹を膨らませた。そこから胸、喉と、何か赤く輝くものがせり上がっていく。
「クロクロさんの身体の中で、魔力が膨れ上がってます!」
「ああ、これがファイアリザードマンの炎の吐息なのだろう! トラボー殿!」
「うむ」
「がぁぁぁぁアッ!!」
クロクロの口から、赤熱した吐息が螺旋を描いて吹き出す。
伸び方からすると、これは恐らく、射程距離は大人の男の足で二十歩ほどか。
この吐息の中に、トラボー殿は陶器の中身をぶち撒けた。
「ゴーレム、汝に命を与える」
しかめっ面で彼が呟くと、陶器の中からさらさらと溢れ出した黒い粉が光り輝いた。
そしてそれは、炎の吐息を受けると一気に膨れ上がる。
生まれたのは、丸い形をした良く分からないものだ。
おそらくはゴーレムなのだろう。
それは炎の吐息に乗り、そしてそれを吸収して飛翔していく。
「あれを落とせっ」
トラボー殿が、ガーシュインを指差す。
すると、丸いゴーレムはそれに向かって一直線に飛ぶ。
飛翔するたびに、ゴーレムの見た目がどんどん小さくなっている気がするな。
あのままでは無くなってしまうのでは?
だが、幸い、ガーシュインは低空飛行している。
ゴーレムが無くなりきる前に、それはガーシュインが掴まっている有翼のゴーレムへと炸裂した。
爆発が起こる。
「おお!」
「少々勿体無いが、使い捨てのゴーレムの矢弾といったところだ。使用されている成分が魔力を帯びた特殊な金属粉であるが、構造的に内部は中空になり、そこに魔力を溜め込む。これを吐き出しながら推進し、衝突と同時に魔力を四方に吐き出しながら自壊する。爆弾とでも名付けようか」
爆発する矢弾、爆弾である。
なるほど、分かりやすい。
「ぐわーっ」
トラボー殿の解説を受けている間にも、ガーシュインが墜落していく。
「おのれ、おのれえーっ!!」
遺失魔法を継承する魔術師は、そう叫びながら懐から様々なものを取り出しては放り出す。
これはなんであろうか?
地面に投げ捨てられると同時に、それらは巨大化し、ゴーレムのようなものに変わっていく。
「かかれーっ!」
騎士イールスが叫んだ。
彼に付き従う兵士や騎士たちが、ゴーレムの群れに向かっていく。
「諸君! ゴーレムの弱点は、身体の何処かにある印だ! それを傷つけ、形を崩したまえ! これだけでゴーレムは無力化される!」
うおーっという叫びが私に応える。
敵の物量は、こちらの物量で相殺するとしよう。
私はガーシュインを目指すとする。
「ちょ、先輩! 戦ってるところですよここ!」
「なに、ゴーレムの見た目で、彼らの可動領域は分かるだろう? 自然と通り道は決まっているものさ」
兵士とゴーレムの殴り合いの間を抜けていく。
ガーシュインが作り出したのは、ほぼ全てが特殊なクレイゴーレム。
ストーンゴーレムよりも可動領域が広いが、彼らは胴回りが動かない。
真横を抜けてしまえば、攻撃を受ける心配は無いのだ。
軽く身を屈めて、振り回されるゴーレムの腕の下をくぐる。
ナオは立ったままで抜けられる。
ゴーレムが大きいと、隙も大きくなるから通過が楽だな。
この要領で何体かをやり過ごすと、すぐ目の前にゴーレムの壁がある。
その向こうでガーシュインがこちらを睨んでいる。
「先輩、これは抜けられないのでは……?」
「ああ、確かにこれは無理だ。だから、こちらも奥の手を使うぞ」
取り出すは、暴れる牙の歯である。
「ゴーレムよ、汝に命を与える」
生まれ出るのは、ドラゴントゥースゴーレム。
亜竜と呼ばれる、強大なるドラゴンの眷属の力を持ったゴーレムだ。
真っ白な巨体は、私の意思に従って一直線に突き進む。
前方に展開した敵が、白いゴーレムになぎ倒され、突き倒され、あるいは踏み潰される。
「さあ、これで君が展開した全ては突破したぞ。それとも、まだ隠し玉があるのかね? それはそれで私が嬉しい。出したまえ」
「ジーン……! 貴様……!」
「いや、出すのはやめてもらおう。君を捕えた後、それは陛下が私に下さると仰っているからね。故に、私が得られるものがこれ以上減る前にここで決着をつける」
「先輩、その決め台詞、かなり身勝手です……!」
残り三話。
第三部ラストまで、毎日更新します。




