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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第三部 王都で騒動

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79話 ジーン、大いに語る

 隠し玉があったとしても、それを出されては困ると言っているのに。

 ガーシュインは倒れた姿勢のまま、何かを出そうとごそごそしている。


「やめたまえ」


 私は慌てて駆け寄った。

 それは私がもらう研究資料なのだ。

 あまり使われては困る。


「ふはは! もう遅いぞ! このキルストーカーを使って」


「先輩あぶなーいっ」


 ナオが何かを投げつけた。

 ミニサイズのウッドゴーレムである。

 それはびゅんと空を切って飛び、ガーシュインの手首にぶつかった。


「うぎゃあー!」


 ガーシュインが握りしめていたものを落とす。

 袋に包まれた、粉らしきものだ。

 キルストーカーと言っていたが、聞いたことがない響きだ。


「手乗り図書館、検索。キルストーカー」


 情報を探りながら、私は手早く袋を回収する。

 開いてみると、中には赤錆びた金属粉が入っていた。

 錆びていないものがシャドウストーカーになるのだから、錆びているとまた別の魔法生物になるのだろう。

 この錆にも何か、魔法的な構造があるのかも知れない。


「ナオ、これを預かっておいてくれ」


「はい!」


「馬鹿、やめろ! それは我輩の」


「あれが君が新たに生み出したものであるならば、世の中に発表する際、ガーシュインが作り出したと必ず伝えよう」


「何だと……!? 貴様、我輩の遺失魔法を横取りしようとしているのでは無かったのか?」


「馬鹿な! 素晴らしい研究成果は、それを生み出した者のものだ。その研究を行った者を讃えつつ、これを足がかりとし、我ら賢者は新たな研究を行うのだよ。素晴らしい研究を行った者に敬意を表さずして、何の進歩があるものか」


「先輩、そういうところフェアですよねー」


「常に私はフェアだぞ。人間も亜人も区別しない」


「区別はしたほうがいいんじゃないですか?」


 私とナオのやり取りを見て、ガーシュインが毒気を抜かれたような顔をした。


「聞いていた話と違うぞ。貴様はバウスフィールドの地位を狙い、汚い策を弄し、賢者の塔で発言力を得た奸物ではなかったのか」


「誰から聞いたのかは分からないが、私は地位に興味が無いし、人付き合いは得意ではないぞ」


「本当か?」


「本当だ。私は嘘はつかない」


「ほんとですよ。先輩、ほんとに嘘つかないですもん。嘘ついて欲しい時でも嘘つかないですからね」


「ナオ、嘘をついてしまったら、その研究は無意味になるのだよ。学問とは、真実か、あるいは真実を探求する曇ない姿勢で構成されていなければならない」


「おおー! さすが先輩です! っていうかそれを普段の暮らしにも実践してるから人付き合いが難しくなるんじゃないでしょうか」


「君は三年の人生で、どうしてそこまで社会のことをよく分かっているのだね……?」


 私は心底不思議になって、ナオに問う。

 彼女は笑うだけで答えてはくれなかった。

 そうこうしている間に、ガーシュインが立ち上がる。


「ジーン。貴様に一つ謝る事がある」


「何かね?」


 謝ると言うならば聞く。

 私の基本姿勢である。


「我輩は、自ら何かを生み出してはおらん。先代から、遺失魔法を受け継いだだけだ。故に、貴様らが手にしているキルストーカーもまた、遺失魔法の一つに過ぎん」


「そうだったのか。だから君は、私によって一度破られたシャドウストーカーや、戦神などを何度も繰り出してきたのだな」


 苦虫を噛み潰した顔で、ガーシュインが頷く。

 

「既に対策を講じられたものを、再び使う。これは用途が戦闘行為になる場合、あまり褒められた事ではないな。なぜなら、対策が講じられているため、脅威とはなりえないからだ」


「いや、それは貴様がおかしいのだ。そもそも、本来ならば最初の襲撃で貴様は死んでいるはずだった。どうしてあれに対応できた!?」


「それについては彼のおかげだよ」


 私の隣に、トーガが降り立った。

 屋根の上から飛び降りたのだが、風の魔法で軟着陸したのだ。


「何をやっている、ジーン! この男を殺すのだろう!」


「待つんだトーガ。今、彼とはこうして話をできるようになってきたところだ」


「話す必要があるか!? この男は神を使い、森を焼き払おうとしたのだ!」


 トーガが凄い剣幕である。

 だが、彼は大体、いつも怒っているので特別な事ではない。


「あれは私が君たちと共に防いだではないか。それに、結果論だが、戦神の火力では大森林を焼くことは叶わなかったよ。不完全だったのさ」


「ふ、不完全だっただと!?」


 驚愕するガーシュイン。


「確かに、受け継いだ書物に従って儀式を行なったはずだ! それが不完全!?」


「ガーシュイン。神がかつて現れ、人とエルフを焼いたのは千年以上前だ。それが遺失魔法となり、これに関わった者が魔法を書にしたためたとしても……千年は長すぎたのではないかな? 受け継がれるうちに、内容は削れ、不正確になり、神は人に倒される存在となった」


「そんな……まさか……」


 呆然とするガーシュイン。

 トーガはちょっと真顔になった。


「ジーン。いくら神の力が落ちていたとは言え、あれは我らワイルドエルフでは倒せんぞ。あれを倒したお前がおかしい」


「えっ。しかしこれは、岩窟の寺院に残された壁画や、古老たちの言葉を聴けば分かることではないか? それに我が開拓地の神官が、神像に刻む印のシステムを教えてくれたからね。これだけの情報が集まれば誰でもできる」


 私の言葉に、ナオとシーアは顔を見合わせた。

「できなくない?」とシーアの声が聞こえる。

 トーガがその言葉に頷いたようだった。


「一つ一つを行うことは容易だろう。だが、それらを紐づけて、一つの目的に向けて研ぎ澄ましていくこと。それこそがジーン、お前という男ではないのか?」


「当たり前の中にこそ、状況を打破するヒントが隠されているものさ。私がやったことは、賢者として当然の仕事に過ぎない。……ということで、ガーシュイン」


「ぬう」


「受け継ぐだけでは、知識も伝統も擦り切れ、やがて本質を失ってしまうだろう。知識は生かしてこそ意味がある。座学だけでは足りないのだよ。実学が必要なのだ」


 私は彼に手を差し出した。


「君が遺失魔法に懸ける矜持、よく分かった。そしてその魔法がこれ以上失われる前に、それらは保全されるべきなのだ。君の力を貸して欲しい」


 ガーシュインは顔をしかめて、唸った。

 そして宙を見て、足元を見て、周囲を見回して……。

 騒ぎが収まり、駆け付けてきた騎士や兵士たちに囲まれるに至って決断したようだ。


「良かろう。これ以上遺失魔法が失われていくことを、我輩は望まぬ。貴様に手を貸そう、ジーン」


 彼は纏ったローブで自分の手をごしごし拭いた後、おずおずと、私の手を握りしめたのだった。






 ちなみに、私の方で話が纏まったとしても、国としては別である。

 謁見の場を乱し、王の命を危険に晒し、王都に混乱を振りまいた魔術師ガーシュインは、当然ながら国の法として処刑せねばという話になった。

 確かに、彼は危険な人物であり、危険行為を働いた。


 彼を雇っていたバウスフィールド伯爵は、厳重な注意を受けることとなった。

 近年拡大していた領土の多くは取り上げ。

 クレイグはしばしの間、謹慎を命じられたのである。

 これで、バウスフィールド伯爵の派閥は大いに弱体化することだろう。


 だが、ガーシュインについて、私は処刑してしまうことに反対だった。

 なぜなら彼は、貴重な過去の文献や知識を有しており、さらには会話が通じる相手なのである。

 これを死なせてしまうことは、世界の損失である。


 私はツナダイン三世、そして大臣カツオーンと秘密の席を持った。


「どうやら、人に見えるゴーレムというものが遺失魔法にあるようです。これを処刑して下さい」


「あの男を生かすというか?」


 カツオーンは憮然としている。


「彼は我が開拓地で引き取りましょう。背後はスピーシ大森林であり、常にワイルドエルフの協力者たちが彼を監視しています。脱出もできなければ、遺失魔法を狙った者が侵入することも困難でしょう。それに、遺失魔法はかつて、我々人類が築いていた大いなる時代を今に伝える貴重な資料です。これの専門家を失ってしまうことは、世界の損失だ」


 私はじっと、陛下の目を見つめた。


「このジーンに任せていただきたいのです」


 ツナダイン三世、にやりと笑う。


「いいぞよ」


「陛下!」


「しかし、こちらからも監視をつけさせてもらう。騎士イールスをそなたの領地に駐留させよう。常に報告を送ってくるようにな」


「御意」


「それからジーン」


「はっ」


「そなた、今から准男爵だ。より一層、国のために励めよ」


「謹んで、お受けいたします」


 こうして、私はガーシュインの身請けをすることになった。

 ついでに准男爵になったのである。

第三部、残り二話です。

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