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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第三部 王都で騒動

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77話 逃亡のガーシュイン

「ジーン、賢者風情が、我輩の偉大なる遺失魔法をどうこうしようだと!? 片腹痛い!」


 ガーシュインはそう喚きながら、ポケットに手を突っ込んだ。

 取り出したのは、見慣れたストーンゴーレムの素体である。

 だが、私の目は、素体に刻まれた印を見逃さなかった。


「なるほど、それは森で相手をした戦神と同じ機構を持ったゴーレムだな」


「なにっ!? なぜそれを……! ええい、構わん! これでも喰らうがいい!」


 おや、呪文の詠唱を行わないのか。

 ガーシュインは私の目の前へ素体を投げつけ、その後ろで何かを取り出した。

 手のひらに乗るサイズの、円盤である。

 木製で紋様が刻まれているようだ。


「先輩、あの円盤は魔力があります! えっと、でもこっちの石は魔力とか無くて」


「戦神の岩窟と同じだね。仕掛けは理解した。おーい、オブ!」


「な、なんじゃ? わしはわしで忙しい……うわーっ!! ジーン! お主の目の前、何かゴーレムが起き上がっているのじゃがー!?」


 ガーシュインが手にしていた円盤が砕け散り、それと同時に、素体は大型のストーンゴーレムになって動き出したのだ。

 胸には、戦神の印が輝いている。

 あれはつまり、ミニ戦神というわけだ。


「ガーシュイン、君は別に戦神を信仰しているわけでもあるまい。だというのに、こうして戦神の印と姿を使うのはいかがなものか。いかな賢者や研究者であろうと、最低限のモラルはあるべきではないかと私は思うのだが」


「うるさいぞジーン! この状況でどうして貴様はそんな事を言う余裕があるのだ!」


「それが先輩ですからねえ。えっと、足止めします! どれだけ持つか分からないですけど」


「ああ、頼む」


「ゴーレム、汝に命を与える!」


 ナオが放り投げたのは、粘土のボールである。

 それがむくむくと大きくなり、クレイゴーレムのちょっと柔らかいものになった。


「わたしが研究して作ってみた、粘土ゴーレムですよ。形が変わっても動くんです」


「ほう、タフなわけだね」


 ナオの言う通り、粘土ゴーレムはミニ戦神に掴みかかるが、すぐにねじ伏せられてしまう。

 だが、粘土ゴーレムはぐにょぐにょと形を変えると、別の方向から戦神に挑んだ。

 叩かれては潰れ、潰れても変形して再び挑み、挑んでも弾き飛ばされる。

 基本、戦神にとって脅威にはなりえていない。だが、足止めとしては充分だろう。

 この間にオブがやって来た。


「待たせたの! あれが話に聞いていた、神の印というやつか?」


「ああ、そうだ。動きが鈍くなったタイミングで、あれを削り取ることが可能かね? 具体的には、ここに資料があるのだが」


 手乗り図書館をオブの前に展開する。

 そこには神の印が映像として記録されており、これに私は手を加えた。


「このように、端のパーツを削り取るだけでいい」


「なんじゃ、それなら楽勝じゃぞ。あと少しだけ、あのでかぶつを足止めしてくれれば」


「分かった。では私も手持ちのゴーレムを使おう。ゴーレム、汝に命を授ける……!」


 私が放り出したのは、真っ白な塊だった。


「そ、それは……!」


「先輩の新作だー!」


「うむ。地底世界で手に入れた、暴れる牙の歯から削り出した素材だよ。名付けて……ドラゴントゥースゴーレム」


 白い塊は、即座にその姿を変えた。

 暴れる牙に似た、骨格標本のようなゴーレムがその場に現れる。


「な、なんだそれはーっ!?」


 ガーシュインの叫びが響いた。

 我々の目の前で、ミニ戦神にドラゴントゥースゴーレムが衝突する。

 一瞬、ミニ戦神が揺らいだ。


「馬鹿な! これは過去の偉大な魔法を再現したものなのに、たかがゴーレムに……!」


「凡庸な魔法であっても、素材が良ければいい勝負はできるのかも知れないね。これはいいデータが取れたぞ。記録だ。ちなみに、逆も言えよう。ガーシュイン、君はミニ戦神を作る際の素材に気を遣ったのかね?」


「ぬ、ぬぐぐうっ」


 スピーシ大森林の土であればこそ、現れた神は強力なゴーレムとなり得た。

 だが、巷にあの土に匹敵するほど、濃厚な魔力を纏った石などはそうそう無い。

 あったとしても、既に魔法によって精製された物が多い。

 こだわりある魔術師や賢者であれば、それでも時間と労力を掛けて最高の素材を探すだろう。

 だが、どうやらガーシュインはそうではなかったようだ。


「ようし、動きが止まったぞい! 行ってくるわい!」


 ミニ戦神とドラゴントゥースゴーレムが、真っ向から組み合ってその力が拮抗する。

 これを狙って、オブが駆け出した。


「名付けるぞ! ノームよ応えよ! わしの足場になれい!」


 オブの足の下に、石でできた階段が生まれ始めた。

 なるほど、王城は石造り。

 土や岩の精霊が存在していると見ることができるのか。

 それはまさに、ダークドワーフのホームである。


「そおおいっ!」


 手にハンマーと楔を持ったオブ。

 階段を駆け上がりざま、戦神の胸にそれを叩き込んだ。

 戦神の印にある、外から魔力を呼び込む箇所が、この一撃で欠けてしまう。

 途端に、ミニ戦神の動きが鈍くなった。


「よし、行け、ドラゴントゥースゴーレム! そして兵士の諸君、ガーシュインを捕らえるならば今だ」


 今まで、我々を取り巻くようにして状況を見守っていたのは、国の兵士たち。

 彼らにとって想像もできない戦場が生まれていたため、思考停止していたようだ。

 だが、私の掛け声をきっかけに、彼らもまた動き出した。


「うおおおー!」


「魔術師を捕らえろー!」


 襲いかかる兵士たち。

 後は、我々の仕事ではあるまい。

 ミニ戦神は、粘土ゴーレムとドラゴントゥースゴーレムに抑え込まれ、オブが印を削り取る度、その動きを鈍くしていく。

 すぐにもとの石ころに戻ってしまうだろう。


 周囲にばら撒かれていたシャドウストーカーも、我が仲間たちによってほぼ駆逐されたようだ。

 パニック状態となっていた貴族たちは、落ち着きつつある状況にすっかり正気に返り、今は野次馬と化している。


「これがビブリオス騎士爵の力なのですなあ」


「大したものだ! まさに辺境賢者!」


「見よ、あの骨のゴーレムの美しいこと……」


 彼ら貴族は、基本的に誰の味方でもない。

 面白いことがあればそれに乗り、扇動されたり、流行を追ったり。

 そんなごく普通の人間である。

 彼らが興味を示すような事を、こちらが行えば、容易に味方につけることができるのだ。


 貴族たちの中にあって、クレイグは一人、苦虫を噛み潰したような顔で私を睨んでいる。

 この場では、自分がガーシュインの雇い主だなどと名乗り出られまい。

 いや、クレイグがガーシュインと共にいたのを見た者が何人もいよう。

 彼はじきに、貴族たちからその事を糾弾されることになるだろうな。


 さて、話題のガーシュインは……。


「ええい! 研究の助けとなるかと思い、セントロー王国に間借りしていたがそれもこれまで!」


 頭上から声が聞こえて来る。

 見上げると、翼を持った戦神のようなものに掴まったガーシュインの姿があるではないか。


「むっ! そ、それは何だねガーシュイン! どういう原理で空を飛んでいるのかね!?」


「先輩! 今はそれを聞く状況じゃないですよ!」


 ナオが私の袖を引っ張ってくる。

 むう、そうか……。

 あのミニ戦神、素材は石ではなく、細工物を使っているように見えるのだが……。

 何をどうすれば、あの翼で自分とガーシュインを浮かせるほどの浮力を得られるのか。

 不思議だ。


「ジーン! 我輩はお前を許さんぞ! 散々我輩をコケにしおって! この報いは、賢者の塔に取らせてやる!」


「それはとばっちりではないかね?」


「うるさい! そしてはるかな昔にマルコシアスがやったように、王国を火の海に変えてやる! 見ていろ!」


 そう叫びながら、ガーシュインはミニ戦神に進む方向を指し示した。

 そこは、華美な飾りガラスが嵌められた窓である。

 ミニ戦神はそこを体当たりで突き破ると、ガーシュインをぶら下げたまま飛び去ってしまった。


「何ということだ……!」


 大臣カツオーンの声が響き渡る。


「謁見はやめとする! 騎士たちを呼べ!」


「はっ、騎士イールスここに」


 今まで気配を消していたのか、存在感が無かったうなぎのような騎士が現れる。


「よし、騎士イールス! そなたをこの状況の責任者に命ずる。兵士と騎士を率い、あの魔術師を追うのだ!」


「はっ、かしこまりました! そしてわたくしから、それについて希望がございます」


「なんだ?」


 イールスは私をちらりと見た。


「こちらにおわす、ビブリオス騎士爵の協力をいただきたいのです! かの、怪しげな魔法を行使する魔術師であろうと、辺境賢者がいれば恐るるに足らず!」


 何ということを言うのだ。

 私は賢者であり、荒事は専門外である。

 だが、騎士イールスの口車は、大臣カツオーンとこの場を見事に丸め込んでしまったようだ。


「確かに!」


「ビブリオス騎士爵がいれば安心だ!」


 これは逃げ場が無いのでは?

 そこに、玉座にてずっと黙していた、ツナダイン三世が立ち上がった。

 満面の笑みとなり、手を叩く。


「それは良いな! 辺境賢者ジーン! そなたに、かの魔術師の追撃を命じる! ……そう嫌そうな顔をするな。本来ならあの魔術師、危険な研究をしておったようだから、その資料は焼却となるであろうよ。だが、余の権限を使い、あの魔術師が使っていた資料はそなたにやろう」


「陛下、また勝手に!」


 カツオーンが目を剥くが、国王が公の場で一度口に出したものは引っ込みがつかない。

 ツナダイン三世は私に問う。


「どうだ、ジーン。やってくれるか」


 考える必要などない。

 希少で、なおかつ古代の真実の一端が記された資料を報酬としてぶら下げられ、燃え立たぬ賢者などおるまい。


「御意。このジーンにお任せあれ」


 謁見の間にて発せられたこれは、決定事項なのである。

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