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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第三部 王都で騒動

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76話 波乱の謁見

 謁見の間に通された。

 今回も、多くの貴族が見物に訪れている。

 いや、前回とは様子が違うな。

 貴族たちは、大きな書物とペンを抱えた伴を連れてきている。お抱えの賢者であろう。

 何人かは、賢者の塔で見たことがある。


「かなり感じがかわりましたね」


 ナオも驚いているようだ。


「陛下は知識や文化に興味がある。だから、その点を突けば覚えがめでたくなるわけだ。ようやく、呑気な貴族たちもそれに考えが至ったということかも知れないな」


「うわあ、狙ってやってるところがダメダメですねえ」


 ナオが顔をしかめる。


 さて、謁見の間への入場は、正装した私とナオ。

 特に、ナオが身につけたドレスは上質なものである。

 ホムンクルス特有の薄い色素と、ドレスの清楚な色合いが合わさり、彼女はとても美しく見えた。

 あまり女性の装いに興味がない私でも、これは目を惹かれてしまう。

 かと言って、どうこれを形容すればいいのか思い浮かばないので、「なかなか似合っている」と標準的な表現で留めるわけである。

 ところで、自然界では主に、雄が華美な姿をしていることが多い。

 だが、人間を始めとした人の世界においては、雌が着飾ることが多い気がする。

 これは、同性の目を気にしての事であるという説があるが、だとすると、やはり着飾ること、装いを美しくすることは女性の審美眼に耐えるためであると言えるのかも知れない。


「ふむ」


「先輩、また別のこと考えてますね?」


 私とナオで、こそこそ話しながら進んでいく。

 普段であれば、その姿を見咎めた大臣などが、咳払いをしてこれを諌めるのだが、今日ばかりはそうはいかない。


 私に続いて、ワイルドエルフの兄妹が入ってきた。

 相変わらず、王に対する敬意など欠片もない様子である。

 千年に近い時を生きる彼らにとって、短い寿命しか持たない人種は、全て下等なものなのだ。

 ただし、極稀に彼らは短寿命の種族を、同等の友人として認めることがある。

 それは私自身がよく知っている。


 だが、集まった観客の目を惹きつけたのは、次に入ってきた一団だった。

 真紅の鱗を纏った、ファイアリザードマンのクロクロ。

 真っ白な髪、肌、髭をした、ダークドワーフのオブ。

 そして、明らかに緊張してガチガチになっている、シャドウ族のアマーリアである。

 大変カラフルな三名だ。


 アマーリアの唇が、「やべえよ、やべえよ」と呟いているのが分かる。

 こういう改まった場は初めてらしい。

 貴重な体験であろう。ぜひ楽しんでいって欲しい。


 クロクロは、落ち着いたものである。

 彼は人間の長に会うという事の重要性を理解しているため、彼なりの敬意を払ってこの場に臨んでいる。

 オブは面倒臭そうだ。そうだな、彼はそういう性格だな。


 私は目線を巡らせる。

 謁見の間で、ツナダイン三世陛下に背を見せることは、本来は無礼である。

 だが、それを推しても確認したいことがあったのだ。


 ……いた。


 貴族の取り巻きを連れ、若き黒髪の伯爵がこちらを睨んでいる。

 クレイグ、我が腹違いの弟だ。

 そして、彼はアマーリアを見ると、目を見開き、歯ぎしりした。

 裏切られたことが分かったのだろう。

 それからもう一人。


 じっと私を見つめる者がいる。

 クレイグが連れてきた賢者であろうか。

 黒いローブを纏った、赤毛の男。

 目の周りに濃い隈があり、ひどく痩せている。

 だが、眼光はギラギラと鋭かった。


「なるほど。ガーシュインとは君か」


 彼以外であるはずがない。

 私に、ここまで強い意識を向ける賢者、あるいは魔術師など。


「静まれ! 陛下の御前である!!」


 大臣カツオーンが、大音声で告げた。

 私は正面へと向き直り、周囲は静かになる。

 私とナオ、クロクロが跪いた。

 慌てて、アマーリアも続く。


 トーガとシーアはいつも通り、立ったまま。それどころか、柱に寄りかかってすらいる。

 オブに至っては、鼻をほじっている。

 無礼などというものではない……が、そういう性格だから仕方ない。


 カツオーンのこめかみに、青筋が浮く。


「カツオーン大臣、文化が違うのです」


 私が囁くと、彼はぷるぷる震えながら頷き、胸を押さえながら深呼吸した。

 これに対して、ツナダイン三世は微笑みすら浮かべている。

 見たこともない異種族が多くやって来たのだ。

 知識を愛する王は、好奇心で胸がいっぱいなのだろう。

 普段であれば、我々が入場したあとからやって来るのが王だ。

 それが、先に玉座に腰掛け、ワクワクしながら私を待っていたのである。


「面を上げよ、ビブリオス騎士爵、辺境賢者よ」


「はっ」


 王直々の言葉である。


「余はそなたからの報告を聞きたい。早くするのだ、早く」


「はっ。では、報告をさせていただきます」


 私は手乗り図書館を展開する。

 そこから浮かび上がる映像は、スピーシ大森林を襲った戦神のもの。

 過去に起こった人とワイルドエルフの諍いの話。人造の神の話。

 そして、神を混ぜた土が大変滋養に富んでいるという話。


 この場には、各神殿の長もやって来ており、彼らは青くなったり赤くなったりしている。

 だが、戦神がゴーレムである話が出ると、ホッと胸を撫で下ろしたようだ。


「次に、地底世界レイアスに赴きました。それは、ここにいるダークドワーフ、オブの申し出があったからです」


「地底世界!? ダークドワーフとな!! それに、レイアとは古き大地の神の名ではないか!」


 陛下が目を輝かせる。

 玉座で足をばたばたさせており、大変興奮されている様子が伺える。

 これは喜んでもらえそうだ。

 私は用意しておいた映像を展開し、陛下へのプレゼンを開始しようとした。

 その時である。


「来るゾ」


 クロクロが告げた。

 なるほど、このタイミングか。

 ガーシュイン殿は、どうやら我慢できなかったと見える。

 そして、地底世界レイアスの話の始まりに仕掛けてきたということは、彼は新たな世界の話に興味が無いのだ。

 これは気が合わんな。


「陛下、大臣、失礼します。この場で我が仲間が、狼藉者を撃退致します。少々騒がしくなります」


「な、何を言っているのだ?」


 カツオーン大臣は、いきなりの話に目を白黒させる。

 謁見の間も、騒がしくなった。

 だが、それもすぐに、喧騒どころかパニックに変わる。

 立ち上がったクロクロが尻尾を振り回すと、何もない空間に真っ黒な人影が出現し、尻尾の一撃を受けて弾き飛ばされたからだ。


「ようし、がんばりますよ!」


 ナオは鼻息も荒く立ち上がり、ドレスの胸元から隠していた魔狼粉を取り出した。

 本当にそこに入れていたのか。


「こんなこともあろうかと、小さい袋を挟んでおいたんです!」


「備えがあったか。成長したなナオ」


「えへへ、先輩から学びました!」


 この言葉に、ちょっとじーんとくる私である。

 ナオは魔狼粉を手に取ると、


「クロクロさん、どっちですか!」


「右ダ」


「はいっ!」


 粉を右に向かってぶちまけた。

 すると、そこからシャドウストーカーが出現する。

 粉を浴び、膝ついて苦しみだす魔法生物。


「姿さえ現してしまえば、恐ろしくもなんともないな」


 これを風の魔法で粉々にするトーガ。

 向こうでは、オブがシャドウストーカーに攻撃されていたが、髭にまぶされた魔狼粉で攻撃したシャドウストーカーが逆に苦しんでいる。


「うわーっ! わし自体が囮じゃったのかー!?」


 そして、魔狼粉をまぶした腕を振り回し、シャドウストーカーを探し出すアマーリア。


「出た! 頼むよ、シーア!」


「任せてっ!! シルフ!」


 シーアもまた、風の魔法でシャドウストーカーを散らす。

 既に、暗殺者対策はバッチリなのだ。

 ガーシュインはこれを、目を血走らせて眺めている。

 まさか、シャドウストーカーがあっさりと倒されていくとは思ってもいなかったのだろう。


「ガーシュイン殿と見た。君が使う古代の魔法は素晴らしい力を持っている。だが、対応する知識を得てしまえばこのようなものだ。未知でなくなったものは、脅威足り得ない」


「ジーンッ!!」


 人混みを掻き分け、その男は私の前へと躍り出る。

 おや、クレイグが突き飛ばされているではないか。


「我輩の遺失魔法は、無敵だ……!! お前ごとき、知恵しか無いものが……!」


「知恵と、そして知識。それこそが人の最大の武器だよガーシュイン。さて、ここで決着をつけるのかね?」


「望むところだ……!」


 さあ、遺失魔法の継承者とやらの手の内を拝見することとしよう。

 

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