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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第三部 王都で騒動

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75話 やっぱり裏切り者

 ようやく、王と謁見する日がやって来た。

 その朝のことである。

 トーガが私に目配せした。何か話があるのであろう。


「どうした?」


「ジーン、お前のことだから気付いてはいないと思うが、シャドウの女のことだ」


「アマーリアが何か?」


「あれは裏切っているぞ。いや、最初からお前の下にやって来て、お前のことを雇い主に流す予定だったのだろう……が」


「が? アマーリアにはそんな気配、全く無かった。それはトーガの思い違いではないのか?」


「俺の目は誤魔化せんさ。あの女は、常にお前と行動を共にしようとしただろう。ここに来たばかりのあいつの胸元に、見慣れぬ精霊力があった。妙なことをしたら殺そうかと思ったが……どうやら報告の機会が無かったようだな」


 私は、アマーリアのこれまでを思い出してみる。

 入植して、ノータイムでナオの手伝いに駆り出され、一週間もの間を建材の乾燥作業に従事した。

 スピーシ大森林に滞在しての作業が主であったため、まともに外に出ることもできなかっただろう。

 その直後、地下世界へと突入し、地上とは全く連絡が取れない状態になる。

 そして、トーガたちを迎え入れての、地下の根伐採作業。


「あの伐採の時に、見慣れぬ精霊力は消えてしまったな。根が放出する膨大な精霊力にやられてしまったようだ」


「では、結局彼女は何もできていないではないのかね?」


「そうなる……。敵ながら哀れだ。今まで黙っていたのはな、お前、この事を話したら絶対あのシャドウに直接聞くだろう?」


 トーガが同情している。珍しい。

 そして彼の推察は正しい。


「うむ。それで君は彼女を泳がせていたという訳か。この事は他にも気付いている者がいたのかね?」


「ナオがなんとなく気付いていたのではないか? 常にあの女を監視する位置にいただろう」


「なんと!!」


 ナオがそんな高度なことを……!

 驚きである。

 そうこうしているうちに、仲間たちが起き出してきた。

 身支度を整え、城へ向かわねばならないのである。


「先輩! どうですか? どうですか?」


 ナオが、このためにあつらえられたドレスのようなものに身を包んでいる。


「ほう、なかなかいいじゃないか。よく似合っている」


「えへへ!」


「でも、前のナオって普段着で来たでしょ? なんでこんかい、そんなひらひらしたの着てるの? それって人間の衣装で言うドレスってやつじゃ……」


 シーアが不思議がるのも無理はない。

 確かに不思議だ。なぜだろう。

 彼女たちの横で、アマーリアは心なしか緊張した顔をしている。

 以前なら、王との謁見だから緊張しているのだろうと思っていたが。


「アマーリア、その顔は何かを知って」


「おい!」


 トーガが私の脇腹を肘で小突いた。


「いたい!」


「お前なあ! やっぱりやらかそうとしやがった!」


「いや待て。今この機会で聞くのがちょうどいいのではないか? 恐らく、向こうは手段を選ばずに来る。確実に私を仕留めようと思ったら、謁見の間が一番だ。私には、何も備えをすることができないのだからね」


 私の言葉を聞いて、アマーリアは理解したようだ。


「い、いつから気付いてたんだい!?」


 後退るアマーリア。その背中が、回り込んでいたクロクロにぶつかった。

 彼女の黒い顔が青ざめて、紫色に見える。


「さっきトーガから聞いた……。つまり気付いていなかったのだよ」


 アマーリアとナオとシーアが、間の抜けた顔になった。


「状況から考えるに、クレイグが私への嫌がらせとして君を派遣したのではないかな? ああ、警戒しなくていい。君はろくに、あの男へ連絡できなかっただろう。クレイグはとても恨み深くてね。既に君はあいつにとって、裏切り者扱いのはずだ。ははは、思いがけず、二重での裏切りとなってしまったね」


「先輩、そこは笑うところでは……!?」


「うわーっ! もうだめだあー! あたし殺されるー!!」


 頭を抱えてへたりこむアマーリア。


「うむ、君は殺されてしまうだろう。そうならない手段は、私の庇護下に入ることだ。ところでアマーリア。君は私の妹ではなかったということで良いのかね?」


「あ、ああ。そうだよ。シャドウの数は少ないけど、そんなホイホイ肉親が出てきてたまるかよ」


「そうだったのか」


「あ、先輩がちょっとがっかりしてます」


「ジーンにも心があったのね!」


 ナオとシーアがなかなか失敬な話をしている。

 だが、今はそれどころではない。


「アマーリア。ガーシュインという男を知っているだろう?」


 頷くアマーリア。


「クレイグとその男が組み、私を狙っている。謁見の間で仕掛けてくると私は睨んでいるのだが……」


「ああ。詳しくは分かんないけど、あいつら何か仕込んでたのは確かだと思う。頼むぜ……あたしを守ってくれよ……? 兄……じゃなくて、えーと」


「兄貴で構わない。なるほど、確証は無いか。では、こちらで対策を講じておかねばな。クロクロ、いいだろうか」


「なんダ」


「武器を持ち込めないであろうから、尻尾と拳の鱗の間に魔狼粉をまぶしていいかね?」


「おかしな事をする男ダ……」


「オブ、君の髭も拝借する」


「ウワーッ、何をするんじゃー!!」


 持ち込めるものが限られている以上、取れる対策は限られよう。

 だが、できる限りのことはしておくのだ。


「兄貴、兄貴」


「どうしたねアマーリア」


「あれだろ? シャドウストーカーとかいうやつを警戒してるんだろ?」


「そうだ。謁見の間で私を暗殺するとしたら、持ち込める武器はあの魔法生物くらいであろうからな」


「だったらさ、あたしの肌にもその粉をつけといてよ。そうしたらあたしも戦えるから」


 この言葉を聞いて、驚愕するナオとシーア。


「アマーリア! それってマルコシアスのフンですよ!」


「フンを身体に……ぷぷぷーっ!」


「いいんだよ! 裏切り者としてけじめはつけないとだろ!?」


 けじめ云々は良く分からないが、アマーリアの申し出はありがたい。

 純血のシャドウは肌色が魔狼粉に似ている。

 肌に擦り付けるだけではすぐに落ちてしまうかもしれないが……。


「こことか、ここにだな」


「ほう、髪や唇、胸の谷間に?」


「先輩がアマーリアの胸を!?」


「ナオ、人聞きが悪いぞ。魔狼粉を長時間保持して置ける場所に乗せておくのだよ。君では色が違いすぎ、目立って仕方がないからな」


「あのー、わしの髭、白いんじゃけど」


「誰もダークドワーフを見たことが無いから大丈夫だ。少しくらい黒くてもいい」


「わしの扱い……!」


 シーアが自分の胸元を見て悲しそうな顔をしているが、どうしたのだろうか。

 ともかく、準備は終わった。

 これで謁見に望むとしよう。

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