67話 王都への旅路、再び
「やあやあ、お待ちしておりましたよビブリオス卿!」
相変わらず、全体的にひょろりとした、のっぺり顔な騎士イールスが駆け寄ってきた。
そしてまた、息が上がってしばらく喋れなくなる。
「いや、王都にいると、あまり体を動かす機会がありませんのでね。馬上なら幾らでもいられるが、自分の足で歩くとなるとこれです」
「ああ。無理に話さなくていい。お待たせしてしまったね」
「お気になさらず! ここまでの片道で半月掛かっているのです。今更、数日ばかり増えたところで陛下も気にされますまい。して、こちらの方々が今回同道されるので?」
「そうなる。紹介しよう。私の第一の家臣であるナオ」
「どうもです!」
ナオを紹介すると、イールスは首を傾げた。
「……奥様ではないので?」
「みょ!?」
ナオが妙な声を上げた。
「ナオが私の妻だと、どうして思ったのかな」
「王都では、既にそういう評判ですよ。ホムンクルスに命を与え、人に変えた辺境賢者ジーンは、彼女を妻に娶って魔境のワイルドエルフと結び、未踏の大地に新たな領地を作り上げた、と」
「大仰に過ぎる。私がやったことなど、ほんの僅かだよ。せいぜい、マルコシアスの脅威を森から取り除き、現れた神を倒しただけだ」
「それは僅かとは言いませんな! ともかく、ナオ嬢は国ではそのような目で見られております。それに、賢者の塔から彼女への、いらぬ手出しを防ぐため、立場の上でも騎士爵夫人としておくことは、利点しか無いかと思いますが?」
イールスの言葉を受けて、私は唸った。
なるほど、ぐうの音も出ないほどの正論だ。
よくよく考えれば、ナオを妻の位置に置いて、私が困ることは一切無い。
問題は、彼女の心情であろう。
「どうかね、ナオ」
「どどど、どうって何がですか先輩」
「ふむ。イールス卿。ありがたい話だが、私にとってもナオにとっても、寝耳に水の提案だ。前向きに善処するとして、この場は棚上げさせてもらいたい」
「そ、そ、そうですね。先輩って呼べなくなっちゃうし」
ナオがこくこくと頷く。
すると、後ろで女性陣の溜め息が聞こえた。
なんだ……?
「話を続けよう。次に、ワイルドエルフのトーガとシーア。我が開拓地の相談役として、とても頼りにさせてもらっている」
「また人間の村に行くのか。臭くてかなわん」
「今度はちゃんと、エルフ向きの食事を用意しておいてよね。人間の餌は下品でだめ」
極めて人当たりが悪い、エルフ兄妹。
この開拓地の者以外には、このような対応である。彼らの歴史を思えば仕方あるまい。
イールスは、引きつり笑いをしている。
「そして、ダークドワーフのオブ。ファイアリザードマンのクロクロ」
「よろしくのう! 人間の里に行くのか。何か新しい物を作るためのインスピレーションが得られるといいのう!」
「人間の巣にハ、クロクロや炎の部族ではなイ、別のリザードマンもいるそうだナ。楽しみにしていル」
白髪に白い肌、目玉ばかりがぎらぎら輝く異相のドワーフと、巨体に炎のごとく赤く輝く鱗のリザードマン。
イールスは圧倒され、後退る。
「以上の人員で……」
「待った! 兄貴、あたしも行くから! ほら、人手が足りなくなったりしそうだろ? 人里慣れしてるのが、実質兄貴一人じゃん」
アマーリアが飛び出してきた。
言われてみればそうだ。ナオは賢者の塔を出てすぐ、この開拓地にやって来た。
他は人間嫌いのワイルドエルフに、地底世界の住人たちである。
アマーリアの申し出はありがたい。
「よし、私からも同行を頼んでいいだろうか、アマーリア」
「もちろん! 地底ではあんま大したことできなかったけど、役立つってところ見せてやるよ!」
「ということで、以上の七名だ」
「は、はい。凄い顔ぶれですなあ……」
「誰一人として欠かす事ができぬ仲間たちだよ。ところで問題があってだね。この人数を乗せられる乗り物が無い」
「ああ……。私が乗ってきた馬車も、せいぜいあと三人ですし」
ここに来て、問題が発生か。さて、どうしたものか……。
「簡単ですよ先輩!」
「そうじゃ。わしらに任せよ!」
ナオとオブが、並んで胸を張る。
「君たち二人が……。そうか!! 作るのだね!?」
「その通りです!」
「その通りじゃ!」
そう、ここは開拓地なのである。
足りないものや、無いものは、作ってしまえばいいのだ。
以前はそれを可能とする技術者が、ナオしかいなかった。
今は、ダークドワーフがいる。ドワーフのボルボの手も借りようではないか。
「イールス卿、あと一日待ってくれたまえ。馬車を仕上げる」
「そ、それは構いませんがね……」
「よし、作業開始だ! ……ということは、あと一日レイアスを調査する余裕があるということだな……。ちょっと行ってきていいかね」
「先輩だめです!! オブさんはこっちのお手伝いなので、ドワーフの通り道はありませんから! あと、イールスさんと色々相談とかすることあるでしょ!」
「ぐぬぬ」
ナオがしっかりしている……!?
私は大変な衝撃を受けた。
かくして、空いた一日で地底世界を調査に行く事は叶わず、私は王都への旅路の計画を立てることになったのである。
ダークドワーフとドワーフは、驚くべき速度で意気投合し、建築談義を交わし始めた。
そこに平然とホムンクルスの娘が混じり、大人数を運搬できる馬車の作成を話し合う。
家を増やすために置いてあった、予備の建材も潤沢にある。
この三名が角を突き合わせ、設計図をあっという間に書き上げていく。
「意見のぶつかり合いなどは無いのかね?」
「みんな専門分野が違いますから。わたしが建築、オブさんは細工や道具作り、ボルボさんは広く浅くなので」
全体の設計図をナオが作り、これをオブが細部においてブラッシュアップし、ボルボが双方について、突っ込みどころを探すと。
なるほど、いいチームワークなのかも知れない。
さらに、ナオは錬金術の技を使い、ゴーレムをコントロールすることに長けている。
建材そのものをゴーレムとしてしまえば、命令するだけで勝手に組み上がるのだ。
「ゴーレム、汝に命を与える! そして命令を与える! がったーい!」
ナオの指示に従って、形状を整えられた建材ゴーレムが集合していく。
それらはあっという間に組み合わさり……大型の荷馬車が完成してしまった。
「おお……! 本当に一日で……!」
イールスの驚愕する気持ちはよく分かる。
私とて、驚いているのだ。
ナオ一人なら、随分時間が掛かったことだろう。
だが、今は彼女と肩を並べて仕事ができる者が増えている。
彼らが手を取り合えば、仕事のペースは加速度的に増していくのだ。
開拓地において、人材とは宝である。
「ね、先輩。レイアスに行ってる余裕はないでしょ? さあ、準備しましょう!」
ナオは、とてもいい笑顔で私に告げたのだった。




