66話 地底世界大決算
その後、我々は二日間を掛け、四本の根を切除した。
地底世界レイアスは広く、まだまだこの大きな根は張り巡らされている。
だが、これにばかり時間を使ってはいられないのだ。
「では戻るとしよう。地底世界の諸君、トーガが教えた、根の弱い部分を探る手段を身に着けておいてくれると嬉しい」
私が告げると、ダークドワーフたちが快哉を上げた。
「任せい! そこのエルフほど精霊は見れんが、アーティファクトを作って、そいつで判別できるようにすればいいんじゃ!」
「根の弱点を探ることだけに機能を限定すれば、やれないこともないぞい!」
「おう! エルフなんぞに負けてたまるか! それはそれとしてありがとうよ、エルフ!」
大変賑やかである。
だが、トーガが成したことは、地底においてたいへん大きな意味を持っていた。
それは、彼の持つ精霊を見抜く能力が、並外れていることで成し遂げられたわけだ。しかし、これを再現できるものがいない。
同族のワイルドエルフにすら、だ。
ということで、今後の事態解決の鍵は、発明家であるダークドワーフなのだ。
早速、わいわいと角を突き合わせて会議を始めたドワーフをよそに、我々は地上へと戻ることになる。
「先輩って、事が終わるとドライですよねえ。昨日まで、暴れる牙のことをずーっと調べてたのに」
「かなりの調査結果が得られたのだよ。まだまだ調べることはあるし、苔喰らいも興味深い。だが……。王国から使者が来てるだろう」
「先輩が悲しそうな顔をしています!! 断腸の思いだったんですね……」
ナオが背伸びして、私の頬を両手でペタペタ触った。
「兄貴もナオもいちゃいちゃしてる暇は無いぞ! 帰るぞ帰るぞ!」
背中をアマーリアに押される。
ドワーフの通り道を使い、一区切りついた地底世界を後にするのだ。
しばし、地上へと向かう道程は続く。ナオが隣を歩いているので、二人で現在の地底世界を軽く振り返ってみるとしよう。
手乗り図書館を起動する。
そこには、地底世界に来てから記録し続けてきた、我々の活動の軌跡がある。
「あ、これ、ダークドワーフさんたちの里ですよね。人がわーっと増えて、大きくなったんですよねえ」
「ああ。ついに倉庫を分解し、家として開放せねばならなくなったそうだ。そのために、溜め込まれていた魔道具群は外に放り出されたがね」
「えへへ、実はいっぱいもらってきちゃいました。わたし、魔道具も専攻してるんで」
「道理で、さっきからマルコシアスが大きな袋を背負わされているはずだ」
振り返ると、魔狼がナオ一人分ほどのサイズがある特製リュックを背負い、階段を上がっているところだった。
私の視線に気付いたマルコシアスは、大きくて太い尻尾をぶんぶん振った。
『今日の質問か?』
「あ、そうか、今日はまだ質問していなかったな。ええと、そうだな。ダークドワーフの技術で、トーガの精霊判別能力を再現したアーティファクトは、作成可能かね?」
『その質問に答えよう。可能だ。時間と人員さえあれば。そしてそれは既にある』
「先輩が作りましたからね!」
ナオが嬉しそうに、私の二の腕をぺちぺち叩いてくる。
「ああ、確かに、空間が広がったことで地底世界の種族は棲み分けが可能になるだろう。それに、食糧問題も解決した。各地に分散していた人員が集まることで、今までは困難だった活動も可能になるだろうね」
そして、ドワーフの道具が役立つことで、彼らとリザードマンとの関係も修復されていくことだろう。
事実、三回目以降の根の切除は現地民たちに任せていたのだが、ドワーフが作った弩弓を使い、リザードマンが骨の槍を撃ち出すという使用の仕方をしていた。
リザードマンたちは、ドワーフの道具の便利さ、有用さに感心し、ダークドワーフはリザードマンの意外な器用さに感心していたようだ。
互いにリスペクトが生まれれば、双方の関係が改善に向かうことも遠くはあるまい。
今後、新たな問題でも発生しない限りは、地底世界は良い方向に向かっていくと思われる。
これは、ダークドワーフ、リザードマン双方とも同様の見解であるらしい。
そのため、私と共に、クロクロとオブがついてきている。
今回の王国への報告は、彼らを伴い、開拓地のさらなる成果を伝える予定である。
「地上だー!」
先に光が見えてきて、カレラが駆け出した。
この間も一瞬だけ地上に戻ったが、やはりそこは我々が生まれた世界。
離れていれば恋しくなるものだ。
「あたしは別に、地底でも良かったんだけどね」
アマーリアはそのような事を口にし、落ち着いている。
私の妹を自称する、このシャドウ族の女性。何か事情や思惑を抱えていると見ているのだが、さて。
「はあ、まさか四日近く、ドワーフ臭い地下で仕事をする羽目になるとはな! おお、森の匂いがする。やはり地上が一番だな! 例え人間の村であろうと、カビ臭い土の下よりはましだぜ」
「おお、それはありがたい。トーガ、地上に戻ってすぐに、また王都への同行を頼もうと思っていたのだよ。先日の旅を快く思っていなかったようだから、承諾してもらえるか分からなかったが、君がそう言ってくれるなら問題はない」
私はホッと胸をなでおろす。
なぜか、トーガはとても嫌そうな顔をしているが、どうしてだろう。
「兄さん、ジーンの前で変なことを言ったらだめだって自分で言ってたじゃない! もうー!」
シーアが嘆く。
しかし、ワイルドエルフの二人に、今回も同行願えるのは大きい。
これに、クロクロ、オブを連れて、マルコシアス。
人数を確認する私の腕を、つんつんとナオがつつく。
「先輩、わたしをお忘れじゃないですよね?」
「無論、君は最初から頭数に入っている。今回もサポートを期待しているよ、ナオ」
「はい! お任せですよ!」
ナオが元気に答えたところで、ドワーフの通り道も終わりだ。
さあ、次なる仕事が待っているぞ。
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