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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第三部 王都で騒動

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68話 荷馬車出発

 大型の荷馬車を作り上げた、我が開拓地の建築チーム。

 ナオの号令に従い、オーガのバルガド、ポルトナ夫妻が大荷物を次々に運び込んでいる。

 子供オーガであるバル・ポルは、まだ人間の子供と背丈が変わらないため、今日は見学である。

 いつ頃、大きなオーガになるのだろうか。


「旦那、こんなもんか?」


「うむ、ありがとう。これ以上積み込むと、我々が乗れなくなってしまうからな」


 感謝の言葉を述べておく。

 この大型荷馬車は、ゴンドワナとユーラメリカの二頭の荷馬で牽引する。

 ちなみに、魔狼マルコシアスも荷馬車を牽くのが好きらしいので、彼専用の牽引ロープも用意してある。


 マルコシアスは、ゴンドワナとユーラメリカと何やら鼻先を近づけあって、会話でもしているかのようである。

 我が開拓地の荷馬は、どうしてか魔狼と仲が良い。


「ほらみんな、そろそろ荷馬車に繋ぐからねー」


「こっちに来てー」


 カレラと神官のサニーが、馬と魔狼を誘導してくる。

 マルコシアス、今回も馬車を牽く気らしい。大人しく、荷馬車に繋がれる。


「……ビブリオス騎士爵領の荷馬は変わってますなあ……」


 イールスがしみじみと呟く。

 そうだろう。伝説の悪魔を荷馬代わりに使っている地方など、他にあるわけがない。


 荷馬車の中には、側面に座席が設けられている。

 一部は穴が空いており、これはどう使うのかと私は一瞬疑問を感じた。


「これはですね、クロクロさん専用席です」


「おお、なるほど! この穴から尻尾を出すのだね」


「そういうことです!」


 クロクロが座ってみると、この席は実に塩梅がいい。

 外側には尻尾を覆うためのカバーがついており、むき出しになる心配もない。

 乗り手に対応した、ホスピタリティ溢れる荷馬車である。

 かくして、我々は荷馬車に乗り込んだ。

 いざ、出発の時。


「よいしょ」


「ナオ、それなーに?」


 ナオが抱えてきた、ピンク色の袋に興味を示すシーア。


「スピーシピンクフラワーで染めた布を使ってですね、中にわらをたくさん詰めたんですよ。こうやって使います!」


 荷馬車の床にそれを置いたナオ、勢い良く、その上に座り込んだ。


「クッションか。これは居住性が上がるな」


「でしょー。シーアのぶんも用意してあります!」


「ほんと!? ありがとうー!」


 ナオからピンク色のクッションを受け取ると、シーアもまたそれを尻の下に敷いた。


「あー、柔らかーい。これなら馬車がガタガタしても大丈夫そうねえ」


「でしょー」


 女子二名が盛り上がっている。

 これを見て、硬派なトーガはふん、と鼻を鳴らす。

 対して、オブはちょっと羨ましそうだ。


「あのう……わしも、馬車は初めてなので、尻が心配で」


「オブさんもですか!」


「えー、ドワーフもー?」


「なんじゃエルフ! ドワーフが尻の心配したらいかんのか! ダークドワーフは研究者肌じゃから、肉体的には繊細なんじゃぞ!」


「二人共、落ち着きたまえ。ナオ、どうかね?」


「えっと、麻袋にわらを詰めた試作品があります! これで良ければ」


「おう、それでいいぞ! ありがたい……! うほお! ふかふかじゃあ!」


 髭面の真っ白なドワーフが、クッションを尻の下に敷いてはしゃいでいる。

 オブもあれで、人間にしたら十代らしいからな。あの仕草も年齢相応ということであろう。


 こうして荷馬車は出発する。

 以前よりも、ずっとスムーズな道行きだ。

 開拓地の資材は潤沢になり、住民も増えた。そのぶん、人材だって多い。

 新型荷馬車の乗り心地はとても良かった。

 以前はガタガタ来ていた衝撃が、随分軽くなっている。


「板バネを使って、車輪から来るガタガタを軽くしてるんです。これ、師匠が考えたサスペンションっていう装置を真似してみたんですけど」


「おお、建築学の賢者トラボー殿か。彼は優秀な建築家だった。そうか、このような装置も考えていたのか」


 賢者トラボーは、ナオの師匠である。

 彼女に建築学と、錬金術を教えた人物で、賢者の塔でも有名な気難しい御仁であった。

 私とはそこそこの交流があり、私が主催する生物学の研究会にはよく顔を出していた。

 賢者の塔を追われたあの日以来、一度も会っていないが……。

 王都に戻った機会に、顔を見に行くのも悪くはなかろう。

 彼に見せたいものも多くある。


「ビブリオス卿! ビブリオス卿!」


 荷馬車の外から声がする。

 我が荷馬車は幌がかけられており、外からは内を伺う事ができない。

 声の主であるイールス卿は、彼の馬車を前に進め、覗き込むようにして声を掛けてきた。


「どうしたのかね、イールス卿」


「今宵には、ロネス男爵領に到着する。男爵は、ビブリオス卿に何か見せたいものがあるようでしたぞ! ちょうど良いので、宿も男爵からお借りしようと思うのですが」


「私も賛成だ。ロネス男爵とは積もる話もある」


 例えば、彼に持ちかけられた、紋章の話など、である。



□□□



 我々は、イールス卿の見立て通り、夜半にロネス男爵領へと到着した。

 馬車はすぐさま、男爵の屋敷へと通され、夜着姿の男爵が出迎えてくれた。


「おお、ビブリオス騎士爵! 貴君、健勝であったか! 何よりだ!」


 男爵は大仰な仕草で歓迎の意を示すと、私をハグしてきた。


「まっ」


 ナオが変な声をあげる。

 男爵は私よりも、頭一つ分背が低いので、彼のつむじが見える。


「そしてイールス騎士爵、歓迎するぞ」


「お世話になります」


 イールス卿が頭を下げた。


「やって来るなら、事前に連絡をもらえれば、こんな夜着姿でなく万全の準備をして待っていたというのに」


「いや、男爵のお手を煩わせる事もないでしょう。一夜の宿をいただければそれだけで。そして、こちらはお約束の魔狼粉です」


 マルコシアスのフンを乾燥させたものを差し出すと、男爵は鼻を膨らませながら、これの詰まった木箱を受け取った。


「ありがたい。こちらも、明日には貴君に見せるものがある。以前話していた、紋章の話だ。恐らく、今回の報告で、貴君は確実に准男爵位を叙勲されるだろう。絶対に紋章が必要になる。そこで、おれは紋章官を前々からこの土地に呼び寄せていてな」


「ほう……」


「明日、貴君の紋章を作ろうではないか。紋章とは家の顔。大事だぞ」


「なるほど。ピンとは来ませんが、そのようなものなのでしょうな」


「そうとも! だが、今宵はもう遅い。簡単な食事なら用意させるから、貴君らもすぐに寝るがいい。おれは夜に一杯やってから床につくのが習慣でね。貴君らもやるかね?」


 晩酌の誘いであった。

 ここは、丁重にお断りしておく。

 私は酒類をほぼ嗜まない。頭の切れを悪くするものだからだ。

 イールス卿だけが、嬉しそうに男爵の後をついていったのだった。 

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