32話 神像作りと開拓進捗
ワイルドエルフから提供された食料を使い、粥を作る。
肉類などは無いため、それらは自分たちで用意する必要があるだろう。
豆類が入っているため、栄養分は足りている。
「夕食が終わったら、寝るまでの間で神像は完成しそうだな」
「そうですねえ。先輩、割と手先が器用ですよね?」
「ああ。何かと指先を使うことが多かったからな。動物の解剖などは、指先が狂うだけで重要な器官が傷ついてしまう。気遣いは常だよ」
「なるほどー。だから、先輩の作った神像は繊細なんですねえ」
「ナオの神像もなかなかではないか。大胆なデフォルメを施されながらも、どっしりとした重厚さを備えている」
「ええ! 建築は構図やデッサンから勉強しますからね!」
我々のやり取りをよそに、本職たる神官サニーはがっくりと項垂れている。
「どうして二人とも、そんなに上手いの……。あー、私の神像なんか奇怪なオブジェですよ……」
「サニー、気をしっかり持って。ほら、サニーの神像だって見ようによったら味があるし」
「慰めになっていません……!」
何を落ち込んでいるのだろう。
神官の本業は、祈ることであり、信仰を広めることだ。
神像を作ることは、信仰を広める内には入るだろうが、そこに技術的巧みさが伴っている必要はない。
シミュラクラ効果というもので、それっぽく顔を彫っておけば、人間はそこに顔を見出す。
顔があれば、それは既に偶像である。
信仰の対象足り得るだろう。
「不思議だ」
「どうしたんですか先輩? あ、お粥美味しかったー。エルフ麦って、お湯に浸してもモチモチ感が薄れなくて食べたーって感じがしますよね!」
「ああ。ワイルドエルフはこれを、粉にして加工するらしいが、我々はまだそういった道具を用意できていない。開拓が軌道に乗れば、細かな所に手が回るようになるがな」
「先輩、食は後回しですもんね」
「うむ。食事など、胃に溜まればいい」
「そういうのダメですよー!」
「おいジーン! お前、飯に興味が無いのか! こういうのはわしらドワーフに任せればいいんだぞ!」
ボルボが会話に割って入ってきた。
そうか、ドワーフとは、食や酒に貪欲な種族である。
彼にそういうものを任せるのも良いな。
冒険者諸君は、それぞれが独自の職能に長けていよう。
これも適材適所というものだ。
私は食べられさえすれば良いのだが、他の者たちはそうもいくまい。
食事のクオリティが上がれば、働き手の労働効率も上がる。
「ではボルボ。食事関係は全面的に、君に任せよう」
「おう! 任されたぞ! それでな、ジーン。わしは気になってたんだが」
「何かね」
「酒が無いのだな、ここは。エルフどもに酒を無心するのは、ドワーフとしての誇りが許さん。ならば、わしが作るしか無いのではないか、と思ってな」
「ほう……。だが、酒の素になるものはあったが、酵母があるまい?」
「そう、それよ……。ちょっとな、ロネス男爵とか言うたか? あちらに行って、買い付けして来ても良いかのう」
「ふむ。よし、許可しよう。脱走はせぬようにな」
「するか! このボルボ、仲間を置いて逃げたりはせぬわ!!」
「ならばよし」
私とボルボのやり取りを聞いていたらしい。
マスタングが話に入ってきた。
「じゃあよ、俺、農具の類を増やしたいんだけどさ、ついでに買い付けに行っていいか?」
「よし。二人に行ってもらおう」
「任せてくれ!」
マスタングとボルボを、ロネス男爵領へ買い付けに行かせる、と。
それによって、ボルボは食料関係と酒造を。
マスタングは農具の補充を行う。
彼らの他、女性陣も街へ行きたがったが、大人数が出てしまっては開拓作業の進捗に差し障りが出る。
「順番でな、順番で」
そのようなことになった。
そして、寝るまでの間に神像のチェックを行う。
決まった手順で、足の裏に印を刻む。
判子に、色を付ける。
これは、魔術師のビートルが発見した、濃い色が出る花を潰し、染料とする。
「足の裏が凸凹になっていますから、判子を押しても全面に跡をつけるというわけにはいきません。なので、足りないところはフィーリングでいきましょう!」
「フィーリング……! 判子の意味は……?」
サニーが不安そうな顔をする。
「大丈夫。サニーは私が手伝うから。あの賢者二人が器用過ぎるのよ」
私、ナオ、サニーとカレラのコンビ。
三つの神像の仕上げに掛かることとなった。
判子は、神像に刻む印を可能な限り正確に象っている。
これをなぞって刻んでいくのである。
「これは慈愛神の紋章か。だが、私が知るものと少々違うな」
像を神像足り得させる、印である。
これに、祈りを集め、魔力として集積していく効果があるのだろう。
言わば、小さな魔法陣と言えよう。
「できました!」
「私もできたぞ」
「こちらもです。今度は……うん、大丈夫。ちゃんと印に見える……」
サニーも終わったようだ。
直接彼女が彫らなければ、効果を発揮しない。
そのため、カレラはサニーの作業をチェックする役割である。
「……よし! どこにも切れ目はないし、ちょっと線がのたくっているけど、これなら大丈夫」
「良かったー……!」
「ではいよいよ、魔力を込める段だな」
「奇跡の力ですから! ごほん。では、参ります。いと優しき慈愛の神よ。その御手にて、写し身に力を与えたまえ……」
サニーの指先が光る。
その光は印に乗り移り、やがて神像全体をぼんやりと輝かせた。
見ていると、すぐに光は収まってしまう。
「ナオ、解析できたかね?」
「はい。あれは単純に、魔力を注ぎ込んでいるだけですね。多分それが、印を発動させるきっかけになるのだと思います」
ナオがメガネを触りながら言う。
生来の魔力感知能力を持つ彼女は、魔力感知を増強する力のあるメガネと合わせることで、魔力の流れを正確に読み取ることができるのだ。
「なるほど。では我々もやってみよう」
「はい! 詠唱省略、えい」
「魔力よ、指先へ集まれ」
我々の指も、サニー同様に光る。
光は印に飲み込まれ、像全体をぼんやりと輝かせた。
無事に発動したようだ。
「ナオ、サニーの神像に集まる、魔力の流れをチェックしてくれたまえ」
「はい。ええと……森からの魔力は……大丈夫です、来てないですね。成功です!」
「やったあ!」
サニーがガッツポーズをした。
「よくやったわね。偉い偉い」
彼女の頭を撫でるカレラ。
私とナオの神像も、当然ながら作成に成功している。
これは、自分で魔力を込めるなどして、実験してみよう。
それはそれとして……。
私は外に繰り出し、放り出されている元神像を取り上げた。
サニーが足裏の印を削り取っているが、完全に無くなってはいない。
うっすらと形が残っているのだ。
「あの印を、どういじれば、無差別に外部の魔力を吸うようになるのか。これがヒントになるのではないか? 記録をしておかねばな」
手乗り図書館に映像として記録し、後に解析を行なうこととする。




