(63) 販売形式
「そうだな……まぁ当初の運営資金は俺から貸し出す、つーか、あの株式ってのの購入代金として引き渡すことで解決できるだろうな。
販売方法は当面は既存の店に卸しで売ることにすることするってことだったよな。そっちの卸しを行う先についての伝手はヴァルトにはあるのか?」
「ええ、それに関しては教導院の友人で商店を経営している子が何人かいますからね。そちらに声をかけて手数料を支払って軒先を少し間借りさせてもらおうかと思っています。
加えて販売方法については、商品の値段はこちらで定価を決めておいた上で、間借りするお店に販売に関する業務は全面的に委託します。
その代わりこちらの商品が一定数量売れるたびに、販売利益から一部をその店舗に委託料として支払うやり方でやっていこうと思います」
ヴァルトがそう提案すると、ディカルトがぴくりとこめかみのあたりを動かす。
「あん、それって……」
「それって、つまりヴァルトは『間借りするお店に向けて商品を売る』っていうのじゃなくて、『間借りするお店自体に販売させる』っていうことだよね」
何かに気づいた様子のディカルトが言葉にするより先に、それまで傍で話を聞いていただけのティアナが唐突に話に加わってきて、そう質問を投げかけてくる。
そのティアナの問いに、ヴァルトは首を縦に振ってみせた。
「そう。店舗を新たに持ったり、販売するための店子を雇うってのは、最初の段階では厳しいからね。
かといって、お店に卸しで売るっていうのも、事前に長い売買取引や販売実績があったりして明確に『どれだけなら売れる』っていうのが判っているものでもなければ、相手となるお店側が簡単に了承してくれるとも思えない。
もちろん、ヴァルナ商会として扱う予定の商品は十分に売れると僕は思っているし、たぶんディカルトも判ってくれるとは思うから『商会を作れ』なんて言って手筈を整えてくれたんだとは思うけどね、それは必ずしもだれもがそう考えるとは思えないさ」
「そうだよね。ヴァルトがどんなものを売ろうとしてるのか知らないけど、それまで取り扱ってるものと全然違う新しいものなんでしょ?
だったらお店の人だって、ヴァルトからその商品ってのを買ってみても思ったほど売れなかったら困るだろうから受け入れてもらいづらいはずだよね」
「そう、あくまで『卸し』でお店相手に売るのだとしたら、お店の側がその後に売れる!と判断してもらえなければ買ってもらえないからね。
けれど、軒先……というか、お店の空いてるスペース、空間を間借りさせてほしい、そこに商品を置かせてほしい。その場所の分についてはお金をきちんと払うし、そこに置いた僕たちの商品がもしも売れたら、委託料としてさらにお店側がお金をもらえる、っていう話であれば、よっぽど元のお店と相性の悪い商品だとかでなければ十分に交渉してお願いできる余地があると思うんだよね」
そして、商品については十分に売れる物であるとヴァルト自身は踏んでいるし、ディカルトからもそこは認められているはずだ。
「場所を借りる際の場所代と委託料については経費や人件費として考えて、それを踏まえて材料費とかほかのもろもろの費用と合わせて販売予定の個数から原価を割りだす。そのうえで利益を加えた額を定価として設定するんだ。
委託をお願いするお店の側としては、こちらの商品が仮に売れなかったとしても、それまで空けてるだけだった場所から『場所代』という形で利益が入ってくる物になる。それだけでも利益になるし、売れれば委託料も入ってくるので、卸しで買ったのに売れなくて損をしてしまう、という問題がなくなる。
こちらとしては新たにお店を建てたり買ったりしなくても済む上に、店子を雇ったりしなくても、すでに長年、商人をしてきた人にお客さん相手の商売を任せることができる。なのでそういった経費を削減できる上に、売買を任せられるから僕やティアナがお店に常駐していなくても商品を売ってもらえるようになる」
「あ、それにその方法だと、いろんなお店にお客さんとの店頭での取引は任せられるってことだよね。ということは、複数のお店で置かせてもらえれば、それだけ販売するために必要なお金を減らして、いろんな場所で広く販売してもらうことで大量に売りに出したりすることができるようになるってことだよね」
ティアナの言葉にヴァルトは驚きながらも頷いて肯定する。まさかこれだけの会話で、これまでさほど興味の薄そうだったこの販売手法の一番の利点に、ティアナが気がつくとは思ってもいなかったからだ。
「そう……だよ。もちろん、この手法で売るとしたら前提として委託したものがある程度以上きちんとした数が売れると確信できる品物でなければ、ただただ場所代が経費として出ていくだけになって利益が出せずに逆に借金だらけになっちゃったりすることがあるからダメなんだけどね」
「けど、ヴァルトが商会ってのをつくってまで売ろうとしてるものは、『ある程度以上きちんとした数が売れる』って判断してるんだよね?」
「最終的には蓋を開けてみなければ、中身はわからない、ってことになるけどね。それでも、十二分に勝算はあると思ってるよ」
「なら、それでいいんじゃないかなー」
ヴァルトとティアナがわいわいとそう話していると、横からハァ……とあきれたような吐息が吐き出される。
「場所代払っての委託販売なぁ……たしかに言われてみればそれで十分商売できそうな手法だよな。特に委託先にも利益があるってのが悪くねぇ」
そう肯定してくれるディカルトではあったが、その声音にはどこか不満そうな様子が見え隠れしていた。
「しかしヴァルト。おまえさんの頭は一体全体どうなってるんだ?
んな販売形式初めて聞いたぞ」
どうやらディカルトが不満そうだったのは、意外にもこういった販売形式を自身が知らなかった、思いつかなかったのにヴァルトが出してきたせいであるようだった。
「とはいえ、おまえに商会を作れってのは、さっき俺がおまえを驚かすつもりもあってさせたことだ。なのに事前にそんな話してなかったってーのに、すぐにそういうやり方を考えだしやがって……」
ぶつぶつとそう言ってディカルトが愚痴りながら、明後日の方向に視線をむけて独りごちる。
けれどヴァルトとしては前世のネットショップやネットオークションの販売形式や同人誌即売会などでのサークル同士での委託のやり方を参考に思いついただけのことであったため、そこまで目新しいだとか気にされるとは思ってもみなかったことだった。
この分だと、ある程度以上、商売が軌道に乗った時には、さらにその先として前世のコンビニのようにフランチャイズ式での商会運営方式を……とか言おうとしていたのは、当面は止めておいた方が良さそうだなぁ、と、ぶつぶつとなにやら呟いき続けているディカルトのことを見ながら、ヴァルトはそう思ったのであった。




