(62) 商会の名前
「さて、んじゃまぁ売る物の目途が決まったところでだ。
次は商会の名前を決めないとな。何かいい案はあるか?」
「んー……ちなみにディカルト、商会の名前って普通はどういうふうに付けられるものなの?」
「まぁ、一般的には商会を開くやつの名前とか家名が使われるな。もしくは店主が好きなモノとか縁の深いモノの名前とかをつけるのが一般的だな。他にもまぁいくつか名づけの仕方はあるが、たいていはそのどちらかだろう」
「ふむ……」
ヴァルトは「んー……」と、そのまましばらく考え込む。そしてどうしたものか、と考えながら周りを見渡していた時に、御飯を食べてお腹が膨れ、ぽけ~、とした空気を纏いながら満足している様子のティアナの姿が目に入ってきた。
(将来的にはだれかに譲るつもりなんだし、自分の名前そのままってのは何だよな。それにアルシュタイン家の家名を使うのもダメだ。それだとすぐに父様や兄様たちに知られてしまうことになるだろうし。
いずれ知られてしまうのは仕方がないとしても、しばらくは隠しておきたいし……)
「ねぇティアナ。ティアナの名前の一部を商会の名前に使わせてもらってもいいかな?」
「ん~、よくわかんないけどいいよー」
「ありがとう。じゃあ商会の名前は『ヴァルナ商会』ってことにしようかな」
ヴァルトが尋ねると、ティアナはノータイムで許可を出してくれた。
なので、ヴァルトは自分とティアナの名前を合成して作った名前を商会の商号として名づけることにする
「……あん? ヴァルト、お前自身の名前とか家名じゃなく、その嬢ちゃんと混ぜた名前にするのか??」
「うん。できれば父様や兄様たちにいずれ知られることになるとしても、しばらくは秘密で経営して驚かせたいんだ」
「……んー、知られたくないのか。かといってそういう名づけの仕方は……いや、まぁいいか、どうせおまえらの商会になるんだものな」
どうにも煮え切らない様子で「むむむ……」と少し思案する様子をディカルトは見せたものの、ヴァルトが気になって尋ねるより先に一人で納得した様子で「まぁいいだろ」と流されてしまった。
「ま、それじゃ商会の名前は『ヴァルナ商会』で登録することにしとくか。
けどな、ヴァルト、ギルド長や商業ギルドの幹部の方はおまえが領主の身内ということを知ってるし、商業ギルドの連中はおまえをギルド員として領主側との橋渡し役に使う気でいるぜ。その点はさっきの場でおまえもわかってんだろ。そこはどうするつもりなんだ?」
「商業ギルド側から父様や兄様への提案や要望があったとしても、それが領地に有益なことならもちろん伝えますよ。そうでなければ私の段階で返すことになるだけですね」
ヴァルトがそう答えると、ディカルトが、はぁ、と大きな溜め息を吐き出す。
「それはちょっと甘い考えだと思うがな。
あのギルド長は好々爺に見える人物だが、あれでも海千山千、生き馬の目を抜く商人たちの、その中でも大きな力と影響を持っている商業ギルドの長の一人なんだぜ。利用されないつもりでいても、いつの間にか利用されているってことがあるから気をつけとけよ」
そのディカルトの忠告には、ヴァルトは頷いて同意を示しておく。あの傍にいた2名にしても、なかなかに強い個性を持った人たちだった。そんな人たちを部下として活用し御しているのだから甘く見ていいはずがないだろう。
それに前世でもそうだったが、常に穏やかで笑みを崩さない年寄りや高位の者ほど怖いものは無いのだ。彼らが常に余裕を持っているのは、その余裕の裏打ちになるだけの力を必ず持っているからなのだから。
「まぁその辺りのことは、実際に話や事が来てから考えますよ。それで、商会を立ち上げるとして、商品の取り決めと商会の商号以外に決めておくことはありますか?」
ヴァルトがそう尋ねると、ディカルトは顎を片手でさすりながら考え込んだ。




