(59) ディカルトの思惑
ヴァルトとディカルト、両者は腹の探り合いによる緊張状態にあった。だが、それは長続きせずに済むことになった。
「ねぇ、もうよくわからない話とかは終わったの?
おなかすいたから、何か食べたいよヴァルト」
それまで朝からずっと、黙ってヴァルトたちに付き添っていたティアナがそう発言し、ぐで~、と長机の上に上半身を寝ころばせてしまったからだ。さらにその姿勢のままお腹を押さえ、半眼になってヴァルトとディカルトに文句ありありといった視線を向けてきているのだ。
そんなティアナの姿と視線に思わずヴァルトたちは一瞬あっけに取られてしまった後、互いの毒気を抜かれ、「ぷっ」と小さく噴き出してしまう。
それにより急速に緊張していた空気が拡散し、互いへと視線を向けなおした両者は、ほぼ同時に肩をすくめあった。
「やれやれ。ま、嬢ちゃんがこう言ってる訳だし、この話はここまでとするか」
「そうですね。こちらとしてもあなたが僕たちやこの領に害意を持っていないということが判明したことですし。
あぁ、でもあとひとつだけ教えてください。どうして僕を商業ギルドに所属させようとしたんですか?」
「そりゃもちろん、俺の時間を確保するために決まってるだろ。これ以上おまえの代わりに売り込みや指導だの交渉だのが重なってきたら、俺が細工作りしてる時間が無くなるじゃねーか。だからおまえにギルドで商人としての資格を与えて必要なツテの紹介してもらえるように手配しとけば、今後は俺の負担が少しは楽になるだろ?」
「それだけ、なのですか?」
「あぁ。それと、騎士団の連中から聞いたが、おまえがその娘を守るって誓ったんだろ。なんでもスゲー儀式みたいな誓いを交わしあったとか聞いたぜ」
「ぐはっ」
ディカルトのその言葉に、ヴァルトは猛烈な精神的ダメージを受ける。あのティアナとの出会いの日の誓いの様子は、その後しばらく騎士団や騎士団員経由で知った家族たちに弄られるネタ元となっていたため、ノリでやったとはいえ時間が経ってから言われると顔から火が出る思いなのだ。
「なんで『ぐはっ』なんて言うのか、追及すると面白そうだが……まぁそれは横に置いといてだ。守るってのなら、金や利権をしっかり持っておけばいい。金や利権ってのは道具だ。金や利権ってのを持ってさえいれば、大事な"何か"を守るためにはそれらを差し出すことで代わりにそれ以上に大切な他の何かを守ることができたり、それ以前に狙ってくる相手を潰したり牽制したりできるようになる。世の中、騎士さんたちのような武の力だけじゃやり過ごせない問題ってのは多いんだ」
そこまで言うと、ディカルトは一度大きく深呼吸をして溜めを作った後、まっすぐにヴァルトのことを見据えて語りかけてきた。
「――ヴァルト、おまえ、まずは自分の商会を作れ。
最初は小さな商会からでいい。それでも、貴族だという背景とおまえの知識や知恵、隠し持ってるだろう他の商売になりそうなネタとかを駆使すりゃ、すぐに大きな商会に発展させれることになると俺は思ってる。そうなりゃ、その子を守ってやれる手段がより大きく、広くなるだろうぜ」




