(57) 商業ギルド長
そのセリフにヴァルトが若干半眼になりながらディカルトを見上げる。
「さて、何のことでしょう?」
「とぼけるなよ。あいつらがおまえの商売の委託相手として俺が呼んだ商人たちじゃないってことはとっくに気づいてるんだろう?」
「……まぁ、薄々は」
「やっぱりか。じゃあ、おまえが予想しているあいつらは何だと思ってるんだ?」
ディカルトの言葉に、ヴァルトは半ば確信を得ながら答えを返す。
「この商業ギルドの上級職員、もしくは幹部といったところではないかと」
ヴァルトの答えに、ディカルトは目を細め、「少し惜しいな」という。
「あの両脇のが幹部なのは正解だが、真ん中のジジイは違う。あれがこの商業ギルドのギルド長だ」
ディカルトの答に、ヴァルトが驚いて凝視するように目を大きく見開かせると、ディカルトは我慢しきれなくなったといった様子でくっくっくっ、と笑い声を挙げた。
そのディカルトの様子でこちらをほったらかしにしてたことに思い至ったのか、クラリッサとロイドの両者が喧々諤々と議論していたのを止める。
そんな彼らへとディカルトが問いかけた。
「で、どうだ。この坊主についての加入試験の結果は?」
彼らが商業ギルド長と商業ギルドの幹部だと聞いた時点でなんとなく予想はついていたものの、ディカルトのその言葉でヴァルトは「やられた」と確信する。
とはいえ、ディカルトの企みにいまさら気づいて睨みつけたところで、まだ子どものヴァルトでは迫力も無いのだろう。ヴァルトの視線に気づいてもディカルトは、にやにやとした様子を崩そうとはしなかった。むしろより面白がるような様子で見返してくる。
そしてその間に、商業ギルド長がディカルトへと答えを返した。
「うむ、年齢の幼さはギルド員としては前例がないとは思うが……ワシはギルド員として加わるだけの資質は十分あると思われる。構わんじゃろうの」
髭を撫でながらそう言ったギルド長だったが、その言葉を聞いて慌てた様子で椅子を大きく跳ね飛ばしながら中年男性が慌てた様子で立ち上がり、異議を口にし始める。
「ギルド長! しかしあの子どもは年齢だけでなく、三男とはいえ領主の子どもなのですよ!!
そ、そのような貴族、それも貴族の子どもが商業ギルド員になるというのはっ……」
「ロイド君。商業ギルドにおいては、ギルド員になることにおいて本人の資質を問うことや、貴族またはすでにギルド員である者からの推薦が必要である、という条件はあるが、貴族であることや子どもであること自体を撥ね退けるという決まりはないはずじゃが」
「で、ですが……」
「無論、そなたの懸念もわかる。才有る子とはいえ、貴族、それも領主の一族に連なる者をギルド員にすることで、ギルドに対する領主からの干渉が強くなるのではないかということは、な」
なるほど。そういった懸念をもっていたから、あのロイドという人はずっとこちらにどこか警戒するような目で接してきていた訳なのか。ヴァルトがそう納得していると、ギルド長の言葉が続けられる。
「じゃがの、さっき言ったことじゃが、貴族だとか領主の一族の者であるからという理由で、商業ギルドに加入しようと希望する者を拒むという規則は、我らのギルドには存在しておらぬ。それにの、領主の一族に連なる者を入れたことでギルドに対する領主側からの干渉が強くなる可能性があるのと同時に、その逆に商業ギルド側から領主側へ意見や陳情を伝えやすくなる可能性があることも忘れてはならんぞぃ」
途中からロイドにではなく、ヴァルトに視線を向けながらそう言って、呵々、と笑うギルド長に、ヴァルトは苦笑してから言葉を返す。
「いやいやいや、僕は先ほどそちらの方が言われたように、領主の子とは言っても三男ですよ。過度な期待はかけられても困りますね」
「ふぉふぉ、まぁそう言わずにのぅ」
「そもそも、そういう話は普通、僕に聞こえない場所でこっそりそちら側だけでやって、僕が気づかないうちに利用するものじゃないんでしょうか」
「そういう手を使う場合もたしかにあるのぅ。じゃが、利と理と損をよく判る者相手であれば、きちんと知らせた上で利用する方が両者に後腐れなく事が進むこともあるからの。相手を見て手法を選択するのは大事なことじゃろう?」
「あははは。たしかにそれもそうですね」
「ふぉふぉふぉ、これは先行きが楽しみな子じゃのぅ」
ヴァルトとギルド長が二人して意気投合したように笑いあうと、それを見ていたロイドやディカルトが、まるで苦い物でも口に入れてしまったかのように顔を顰めたり戸惑う様子をみせる。そんな中、一人だけ表情も雰囲気も変えなかったクラリッサが、彼女の手元にあった数枚の紙をまとめて整理しながら、口を開いた。
「では、彼のギルドへの加入は許可ということでよろしいですね」
その確認の問いかけにギルド長が「うむ」と頷く。
「問題なかろう。推薦者兼初期保証者はディカルト殿じゃしの。先ほどの応答も十分じゃしの。申請にあった取り扱う品目は、旅具や玩具、筆記用具などじゃったかの」
「ええ、申請ではそうなっておりますね」
「ふむ。それでギルドへの加入を行いたい動機としては、必要な工房の紹介じゃったの……それではワシがアルベルトのやつへの紹介状を出すとしようかの。あやつの工房なら、たいていの要望には応えてくれることじゃろう」
どうやらいつの間にやら、ヴァルトが商業ギルドに加入すること自体は認可されたようである。ギルド長が許可を出したのをきっかけとして、クラリッサとギルド長との間で事務的な手続きらしい事柄が矢継ぎ早に確認されあっていく。
そんな二人の様子に置いてかれるかたちになったヴァルトは、ディカルトに視線を向けると、その視線を受け止めたディカルトが相変わらずにやにやとした笑みを浮かべていた。
「ま、細かいことは後で教えてやるよ」
「ええ、きっちりと話してくださいね」




