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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第2章 幼少期編
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(56)   ヴァルトの解答:白紙の紙を高値で売りましょう



「ということで、ディカルト。これを1大金貨で買ってみませんか?」


 そうしてヴァルトがピラピラと手にしていた紙を振って見せつけると、ディカルトが目を細めて質問を投げかけてくる。


「さて、どうだろうな?

 俺はその紙がこのギルドにありふれた紙だって聞いて知ってるんだぜ。

 なのにそれを1大金貨まで払って買いたいと思うか?」


 そのディカルトの問いかけに、ヴァルトはしっかりと頷いてみせる。


「ええ、この紙に目を通していただければディカルトであれば間違いなく買ってくれると思いますね」


 ヴァルトのその答えに、ディカルトが纏っていた雰囲気を商売人としての気配に切り替えた。


「ほう……そこまで言うのなら、見せてもらうとしようか」


 そうして差し出したディカルトの手にヴァルトが紙を置くと、すぐさまそこに書き込まれた内容へ目を走らせていく。そうして目で読み進めていきながら、空いている片手を口元へと持っていって、己の表情や声を読み取られないようにしたのだった。

 彼の瞳の動きや時折息を飲む様子から、ディカルトがヴァルトの書いた内容を高速に、かつ何度も真剣に吟味している様子が受け取れる。

 そうしてたっぷり2~3分ほどディカルトは検討を重ねた上で、答えを出したらしく、しばらくの間深く瞑目してから、彼の出した結論を口にした。


「……これはいい手だな。たしかにこれなら欲しいと思うやつはいることだろう。そして、そういうやつらなら大金貨だろうが出してあっさりと買うことだろうな。

 実際、おまえのことをよく知っている俺が、これをおまえから本当に持ちかけられたとしたら、大金貨1枚、いやもっと出してもいいと判断することだろうな」


 そのディカルトの言葉に、部屋の奥側に居る3人がかすかに身じろぎした様子が感じられた。


「……それほど、なのですか?」


 しばらくして、その3人の中から声を発して問いかけてきたのは、出題者でもあるからだろう、クラリッサであった。それにヴァルトではなく、ディカルトが返事をする。


「あぁ。これなら第三者の一ギルド商人(・・・・・・)として見てみても、金は出す奴はいることだろうな。

 そして、この話を持ち掛けられた奴がこの坊主のしようとしていることをしっかり説明を受け、その商売の価値を知っているのであれば、ほぼ確実になることだろう。

 ……加えて言っておくと、この解答はこの坊主の件以外でも使える仕組みだ。あぁ、そうそう、一応言っておくが、この仕組みについての発想だけでも、十分にギルド側が大金払って買っていい内容となっていると思うぜ」


 そこまで絶賛するディカルトの返答に、奥の三人が身体を少し硬くした。

 けれど三人が固まってしまっていたのは一瞬だけで、「ふむ……それでは我々にも見せてもらえるかね?」と老爺が代表してディカルトに声をかけたことにより、すぐに元通りの様子に戻っていく。

 そんな一瞬ピリッと尖ってしまった空気をまったく歯牙にもかけない様子で、ディカルトが「はいよ」と言いながら老爺へと近づいていき、手にしていたヴァルトの解答をギルド長へと差し出した。


 解答の用紙を受け取った老爺は、サッと一読すると、「ほぅ」とだけ呟き、軽く眉を上げるとクラリッサへとヴァルトの解答用紙を引き渡して、少しの間黙考し始めてしまった。


 一方、老爺から解答用紙を渡されたクラリッサは、その内容に目を通して「えぇ……これはどうなのでしょう……」と判断に困った様子をみせて悩み始めてしまう。そしてそこで用紙が止まってしまったことで、一人取り残された形となったロイドという中年男性が、しばらくしてしびれを切らしてしまったのか、困った様子を見せているクラリッサへと声をかけた。


「クラリッサ、私にもその紙を見せてもらえるかね?」


 トントン、と若干神経質そうな苛立ちを見せながら催促する彼に、クラリッサが「はい、どうぞ」と返事してヴァルトの解答用紙を引き渡した。

 クラリッサから回ってきた紙を苛立ちを隠さず、ひったくるように受け取ったロイドだったが、ヴァルトの解答の中身を速読していくうちにだんだんと目を大きく見開かせていくのだった。

 忙しなく視線を動かして読み進め、すべてを読み終えたロイドは、渋面になりながらディカルトとヴァルトへと不機嫌そうな視線を向けてくる。

 そうして全員が読み終え、しばらく沈黙の時間が過ぎたところで、閉じていた瞼を開かせた老爺が、ヴァルトへと問いかけてきた。


「のう、少年。興味本位で尋ねるのじゃが……この仕組みはだれに教わったのかね?」


 その質問に、ヴァルトはにっこりと微笑みだけで言葉では返事をしないでおく。しばらくしてヴァルトが答える気はないと受け取ったのか、老爺がディカルトへと視線を向ける。だが、ディカルトは首を振って「俺じゃねぇよ」とだけ返事をした。


「ふむ、そうか……。まぁ、彼女の質問はこの紙を一金貨で売る方法を考えよ、というものでしかなかったしの。まぁよいかの。

 それよりもその質問に対するこの答えじゃが……ワシは良いと思うの」


 老爺のその言葉に、場の空気が和らぎそうになる。だが、その決定に異議を唱える者の姿があった。


「そ、それはいかがかと思います!

 ひとかどの実績がある商人や商売についてであればともかく、この子ども自身は……その、いまは何の権限ももっていないはずではないですか!」


 そう叫んで異議を唱えたのは、ロイドだった。彼はなぜか焦ったような様子で声を荒げ、手や腕を大きく振り回しながら老爺の決定を覆そうと言葉を重ねていく。


「そ、それに売る相手として選んだのもここに連れてきたあの者ですよ!

 これは彼らが試験を通させるために、あの子どもの考えに乗ってそれらしく体裁を整えただけではないのですか?!」


 けれど、そんな焦った様子のロイドに対し、冷ややかな視線を向けたクラリッサが「そうでしょうか」と尋ね返した。


「たしかに売る相手としてディカルト殿が選ばれました。また、そのディカルト殿の推薦で試験を受けているという点で考えると問題があるかのように受け取るのも仕方ないかと思いますが……この場合は問題ないと思われます。

 わたくしは彼の質問に売る相手として想定するのは『だれでもいい』と、先に答えてました。そうである以上、彼が売り手としてあの方を選んだところで、そのことについては問題がない、ということになります。

 それにあの方も彼が『買いませんか』と問いかけた時に、一ギルド商人として見てみても、と言った上で受け入れてましたから、そこは公平に判断された上で応じたモノであると受け止められます。以上の点から、この件に関して彼には何ひとつ問題とするところは存在しないものだと思われます」


「う、だ、だが、しかし……」


「それに、この仕組みを紙に書き込んで用いたこと自体が、この問いかけの本質に当てはまるものではないかと。そしてこの仕組みのアイデア自体、ディカルト殿がおっしゃったようにギルド側で買い取り、もう少し精査や様々な規則を加えた上で使用してもかまわないものではないかと考えますが」


「ぐっ……」


「そうじゃの……それにしてもこれは中々に面白い発想が詰め込まれたものじゃのう」


 そう言うと、老爺はヴァルトが用紙に書き込んだ内容を一つ一つ読み上げる。


       金:1大金貨 ,-


 一、この用紙を甲より購入する乙は購入時に甲に額面にある金額を支払うものとする。


 一、この用紙を購入した乙は三ヵ月ごとに甲よりこの用紙の額面の一割にあたる金額、もしくは甲がこの用紙を発行した全枚数に対し1分以上の割合でこの用紙を乙が確保していた場合、乙は甲よりその期間に売り上げた額のうち仕入れなど経営に必要とする費用を抜いた利益からその保有割合に応じた金額を配当として受け取ることができる。乙はこの権利は三ヵ月に一度のみ、どちらの方法で受け取れるかを指定することができる。


 一、この用紙の発行および取引は商業ギルドにおいてのみ行われ、その記録は商業ギルドに提出される。


 一、この用紙の購入者である乙は額面にある金額または合意の額で、第三者に対し乙としての権利と共にこの用紙を引き渡すことができる。

   ただしその引き渡しのための取引は商業ギルドで行わなくてはならない。


 一、この用紙は最初、甲により同一の用紙が100枚が発行され、その発行用紙における額面はすべて同一とする。

   その後追加で甲が同一額面の用紙を発行する場合、その際に乙がこの用紙を保有していたならば、甲の全発行数に対する乙の保有割合に応じた追加発行枚数分を乙は甲から受け取る権利を保有する。

   もしその追加発行分に対する乙の保有割合にあたる分の用紙の引き渡しが不可能であるならば、甲は乙にその不足分に応じた金額を支払わなければならない。


 一、乙は甲に対する三ヵ月毎の配当の支払いを商業ギルドに委託することが可能である。


 一、甲は乙に対し、この用紙を買い戻すことを交渉することは、両者の合意の上で行うことが可能である。


 以上をの条件を踏まえ、商業ギルドに対し、


        甲: ヴァルト=フォン=アルシュタイン は


        乙:                  とし、誓うものである。


  また、この用紙に関する取引が行われる際には、その写しを商業ギルドに保管するものとする。


             年    月    日                 




 用紙の内容を読み終えた老爺が、かかっ、と笑う。


「それにしても、しっかりと考え込まれておるのぅ。

 これならば商業ギルドを巻き込んだ上での契約となっておるのじゃから、この用紙を売った後、売り主が買い手に対し知らぬ存ぜぬを通すことはできぬじゃろうの。そして商業ギルドとしては、この契約に応じ売り主に買い主への支払いを指示することができる。

 仮にそれに売り主が従わなければ、商業ギルドとしては既存の商人に対する貸金業務の形で売り主の借金として買い手に対する代理で支払いを行った上で、以後は粛々と貸金滞納者として取り立てに向かえばいいというのがしっかりと考えられていることが特に面白い」


 そう言うと紙をパン、と軽く片手で叩く。


「じゃが、その一方で、売り主側は自分の商売や自身に高い価値があることをきちんと買い手側に示すことさえできれば、多額の資金を一挙に集めることがこれならば可能となろう。そうなれは自身の商売を興したり大きくしたい者が資金を集めたい場合に、既存の地道にコツコツと長い時間をかけて稼いだり、大金になればなるほど審査を通るのが難しくなるギルドの貸金事業へ依頼するよりも良い手となることじゃろうな」


「ですが、いくらそれらの利点があると言っても、それならば既存の貸金と程度の差はあれ借金であり、商品として売る、という定義には当てはまらないのではないのでは!」


 老爺に反対意見を言うのは気が引けるのか、中年男性の声は若干弱弱しいものではあったが、それでもそう否定の言葉を口にする。

 だが、その反対意見にクラリッサが異議を唱えた。


「いや、これは立派な商品です。これを買った者は別の者により高くこの権利を売りつけても良いのだし、逆に安く手放しても良いのですよ。この用紙がもつ権利(・・)そのものが十分な商品となっています。いわばこの用紙の発行者の信用という、目に見えない、物質として存在していないモノを商品としてこの用紙を経由して成り立たせているのです。これは画期的な発明と言っても良いことですよ。あの方が商業ギルドが大金を出して買っていいというはずです」


 その後も喧々諤々と老爺とロイドという中年男性、そしてクラリッサという女性がヴァルトたちをほったらかして互いに意見を交わしあう。

といっても、ほとんどがロイドとクラリッサによる意見の交換であったが。まぁ、そうなるのも仕方がないことだろう。

 ヴァルトが持ち出したのは、株式売買、株式投資と言ってもいい内容の概念なのだから。ヴァルトが予想している通りの彼らの立場なら、自然な反応だとも言える。


 ひとまず彼らの結論が出るのを待ちながら、ヴァルトが静かにしていると、そんなヴァルトの傍に近寄ってきたディカルトが小声で問いかけてきた。


「で、いつから気づいてたよ?」




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