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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第2章 幼少期編
55/67

(54)   "商売"と"金"



「……きちんと正解しています」


 目の前に広げられたヴァルトの解答を見た男性が、しばらくして絞り出したかのような声でそう言葉を発した。そして隣の老人へとヴァルトの解答用紙を手渡すと、それに目を通した老人が「ほぉ」と片眉を持ち上げて感心する様子を見せた。その後、解答用紙は隣の女性へと手渡され、女性はその解答用紙に目を通すことなく、淡々と用紙の端を揃えて丸めてから、彼女の手元にあった赤い紐でギュッと縛りつけた。


「ふむ、なるほどな。

 では、資質についてはどうじゃろうの……少し質問をさせてもらうぞい」


 女性がヴァルトの解答用紙を縛り付けた後、足元にあった箱の中へと片付けるのを確認した老爺は、そう言うとヴァルトの眼に視線を合わせ、その奥底まで見通すかのような眼でジッとヴァルトのことを見つめてきた。

 すべてが見透かされてしまいそうなその視線に若干の居心地の悪さを感じながらも、ヴァルトは目を逸らすことなくジッとその視線に対抗する気持ちでまっすぐに視線を返してみせる。すると、そのヴァルトの様子にニヤリと微笑んだ老爺が、それまでの穏やかな雰囲気を一変させ、まるで抜身の刃を突き付けてきているかのような空気を纏わせながらヴァルトへと質問を投げかけてきた。


「では、問う。そなたにとって、商売とは、いったい何が大切であると思うか。

 端的に答えよ」


 ジッと見つめてくる視線の圧力に、ゴクリと唾を飲みこみながら、ヴァルトは質問の意図について考えを巡らせてみる。


(……これは、こちらの器を測ろうとしている問いかけなのかな)


 商売をしたことも社会で買い物をしたこともないような普通の子どもであれば、ここで何と答えるべきか迷ってしまい、声を発せられるようなものではなくなってしまうことだろう。こんな風に圧迫面接みたいな心理的圧力をかけられてしまえばなおさらだ。

 だが、ヴァルトは前世の記憶を踏まえ、この問いかけに対する自分なりの答えを出すことはできたし、圧迫面接には前世の就職試験で慣れている。


「"得"ですね」


 ヴァルトがそう答えると、中年男性は顔を顰め、女性の方も若干視線の温度が下がった様子を見せてくる。

 けれど、老爺はにこにことした表情を変えずにさらにヴァルトへと問いかけてきた。


「得、とな。それは何故じゃ?」


「単純な理由です。商売、つまり自分が持っているものと他人が持っているものをお互いが取引しようとするのは、互いに得をしたいから行うからです。だれしも損を、害を得たくて取引することはありません。仮に第三者からみて片方だけが損をすることがあったとしても、当事者にとってはそれが利益と、己の得となると思うことがどこか、もしくは何かがあるからこそ、その者も取引に応じているはずです」


「ふむ」


「なので、商売をする上では、"自分にとっての得"、"取引相手にとっての得"、そしてその取引には関わっていなくても"社会にとっての得"が何であるのかを見極め、捉えたうえで行うのが大切だと思います」


 ヴァルトがそう答えると、老爺の両サイドに居る者たちの表情から険が少し薄くなる。


「己にとっての得、相手にとっての得、というのはよく分かるの。じゃが、なぜそこに社会にとっての得、という要素が加わるのかね?」


「将来に禍根を作らないためです。たとえ自分と相手が得をしても、社会に害や損を与える取引をしてしまえば、それは他の人たちから恨みを買うことになり、それは他の取引や助けが必要となった時に、ツケとなって手痛いしっぺ返しとなって跳ね返ってくることになるでしょう。

 それに売り手にとっての得は、商売を続けていく上で必要な資金や販路の維持・拡大、買い手にとっての得は、満足感や必要としている物を得ることで解消されることです。そして社会にとっての得は地域の発展や活性化、促進に繋がります。これら全てが得られる商いというのは、景気を向上させ商売の質を向上させていくことにつながると考えます」


「ふむ……なるほどの」


 ヴァルトの答えに一応の納得がいったのか、老爺はそれだけ言うと目を閉じて思案し始める様子を取り始めた。また、ヴァルトの答えを聞いた中年男性と女性の方は、少しヴァルトを見直したのか視線や表情が少し柔らかくなる。

 そして老爺が考えこみ始めたので次の質問に移ろうとしたのか、女性と男性が同時に「「では……」」と言ってしまい、いったん両者が黙り込んだ後、中年男性の方が改めて口を開き質問を投げかけてくる。


「コホン……では、私からの質問だが……キミにとって(カネ)とは何かね?」


 ジッと測るようにヴァルトの眼に向けて視線を強く飛ばしながらの問いかけ。

 少し考えた上で、ヴァルトとしてはこれ以外に答える言葉はなかった。


「道具です」


 端的なヴァルトの答え。その答えに男性は静かに頷き、さらなる説明を暗に求めてくる。


「お金というのは、人が社会の中で他のだれかと物を取引しようとする時に、その物に対する価値評価を共有認識するために使われる道具です。

 お金というのは、それ以上でも、それ以下でもないものです」


 このヴァルトの答えには満足がいかなかったのか、男性が苦虫を噛み潰したかのような顔で「うぅむ」と唸り声を上げる。


「だが、道具というには、金で人生を棒に振ったり失ったりするものがあまりにも多くいる。そのことをどう考えるのかね?」


「それは武具や薬と同じでしょう。優れた武具、効果の高い薬、そういったものを手に入れたからといって増長して暴れまわったり無謀なことをしたり、薬の副作用を考えずに適用量以上に使えば、それらの道具もまた持ち主を滅ぼす未来をもたらしますよね。一方、貧弱な武具ではよほどの腕前の持ち主でなければ身を守れませんし、薬効の少ない薬では病にかかっても治療できません。

 お金も同じです。大金は普段は自制し、使うべき時にはためらわずに使う。小金であればきちんと考え適切に最善を狙って用いる。それができなければ人生を棒に振ってしまうことになるだけでしょう」


 ヴァルトがはっきりとそう答えると、男性は「ほぅ……」と感心したような声を漏らした後、黙り込んだ。

そうして最後に残っていた女性が問を投げかけてくる。


「では、わたくしからの質問です。

 ……ここに一枚の白紙の紙があります。この紙の正規の値段は1銅貨です。これを1金貨で売る方法を考えてみてください」



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