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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第2章 幼少期編
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(53)   3人の男女



 ディカルトに連れられてヴァルトたちは商業ギルドの3階へと移動していく。ディカルトが説明するには、商業ギルドの1階はギルドの各種手続きの受付や、ギルド員のための交流の場(という名の商談スペース)となっているそうだ。2階は貸し会議室になっており大会議室は業種毎の会議などで使用され、小会議室は交流の場では交渉し辛かったり第三者に聞かれたくない商売の交渉をしたりする場としてギルド員に貸し出されているのだという。商業ギルドは地下2階から地上4階の6層建築の建物となっており、地下1階は買い取ったりした素材の倉庫に、地下2階は特に貴重だったり高価な物の金庫となっているのが一般的だという話だった。


「よくディカルトはそんなことまで知ってるんだね」


何気なくヴァルトがそう尋ねると、ディカルトは頬を軽く人差し指で掻きながら、


「あ~、前に世話になったギルドの職員から教えてもらったんだわ」


と答えたのだった。


「まぁ、それはともかく、いまから行く部屋で待ってる奴らがいるからな。そいつらの前で昨日やったような問題や質問がそいつらからまずは出てくるから、それらを昨日みたいに解いてみせろ。そうすりゃ後は上手くいくから。あぁ、それと嬢ちゃん。あんたは俺かヴァルトが許可するまでは、何があっても静かに黙っていてくれ。それがヴァルトのためになるからな」


 ヴァルトとティアナが素直に頷くのを確認すると、ディカルトが口元を緩ませて先をどんどんと歩いていく。そんな彼の後についていきながらヴァルトは軽く己の服装をチェックしながら、先のディカルトの言葉について考えてみる。


(まぁたしかにいくらディカルトの仲介があるって言ったって、自分みたいな子どもが持ち込む話なら、大人がまじめに受け取めるかどうかは怪しいものだろう。

 それにこっちがそれなりの知恵や思考力、計算力があるって思ってもらわないと、場合によっては利益だけ巻き上げようなんて甘く見られてしまうことになるかもしれない。だから、テストを受けることで"能力がある"って理解してもらうのは、こちらの利にもなるって訳か)


 試験というのは、要は本人にその試験の問題に答えられる、内容をきちんと把握し解答できるだけの知識や知能があるということを第三者に簡潔かつ正しく伝える手段であるとヴァルトは前世の職業柄、理解している。

 前世で自分が受ける側であった学生の頃は、それほど大した意味がないと思っていた各種資格や検定なども、あれは社会に出てから働こうとしたり教えようとしたり、だれかに仕事を割り振ろうとしたりしようとした時に「あぁ、この試験を通るってのなら、最低限この程度は解ってるんだな」と判断する目安になって重宝したものだ。だからああいった資格や検定、試験といったものは本人のためにではなく、他人が己を測るための指標であり自分の価値を最低限きちんと伝えるためのセールスポイントになるものだということで、ヴァルトとしてはこういう交渉の前段階として試験を受けさせられることは、後でやりやすくなるというディカルトのセリフに疑問を抱くことはなかった。






 そうこうしているうちに3階にある小部屋へとたどり着く。その小部屋の扉をディカルトがノックして部屋の中へと入ると、小部屋の中は入り口側の手前にいくつかの書類が置かれた長机が一つ存在し、部屋の中央にある長机には、すでに3人の男女が座ってヴァルトたちのことを待っていた。

 左から順に若いかっちりした服装の若い女性。ゆったりした服装で丸々とした体形かつ長い髭が特徴の、穏やかな表情でこちらを見ている老爺。痩せぎすで冷たい印象の目をし、髪を香油でまとめているらしいオールバックの中年男性、という顔ぶれだ。


「ようこそ。ここまで上がってくるのは大変じゃっただろう。まずは席に着きなされ」


 中央の老人がニコニコと微笑みながら、まずはそう声をかけてくる。

 けれど、こちら側の長机には席がひとつしかなかった。

 なので、ちらっとディカルトに視線を向けると、彼は無言でコクリ、と頷いてヴァルトが座るようにと目線で指示を出してくる。


(あぁ、やっぱりもう始まってるってことか)


 そう判断したヴァルトは、ティアナに視線でディカルトと共に待って居るように、と告げてから、一人、席の横まで進んでいく。そして「失礼します」と言って軽く会釈をしてから「それではお言葉に甘えまして」と席についた。

 そのヴァルトの動作を向かって右端に座っている中年の男がじろりと眺めていた後、羽ペンを小さく動かして何やら手元の紙に書き込むのが、ヴァルトの視界の端に入ってきた。


「ディカルトさま、彼がそう(・・)なのですよね?」


 事前に何やら話が通っていたらしく、確認するようにかっちりした服装の女性が部屋の入口に佇むディカルトに問いかけた。その声は女性特有の声の高さに加え、見た目通り硬く仕事ができるキャリアウーマンといった印象の、ハキハキとした声音だった。


(鞭とか持たせたら思いっきり似合いそうな人だなぁ。あと三角吊り上がり眼鏡とかあったらピッタリはまりそう)


 思わずそんなこの場にまったく関係ないことを思ってしまいながらその女性のことを見てしまっていると、ヴァルトの背後からディカルトの「あぁそうだ。つー訳でさっさと頼むぜ」という返事が女性へと投げかけられた。

「そうですか」と女性が応じると、今度は真ん中に座っている老人が「うむ、それでは始めるとしようかの」と言って机をトン、と軽く叩いた。

それを合図に、中年男性が立ち上がり、インク壺とペンを持って立ち上がると机を回ってヴァルトの方へと近寄り、手に持っていたそれらを机の上へと置いていく。


「時間は半鐘を予定している。まずはその時間でどれだけできるかを見せてもらう」


 ジロッとした目つきでそれだけ言うと、男性はサッサと自分の席へと戻っていく。

 その様子をヴァルトが目で追っていると、席に着いた男性が「どうした? すでに始まっているぞ」と言ってきたので、ヴァルトは彼から視線を外し、自分の手前に置かれた紙を一枚表替えしてみた。


 その用紙には、昨日離れでディカルトから出された問題よりも少しレベルの高い計算問題……とはいえ、それでもせいぜい前世の小学校高学年の算数の問題程度のものでしかないのだが、そのようなレベルの問題が記されている。念のため、他の伏せられている紙も捲って中身を確認してみると、だいたい小学校2年生~中学生くらいのレベルの算数の問題が記載されている。といっても図形問題などはほとんど存在せず、商売や為替や両替に関していそうなシチュエーションが計算問題として出されているものや、いくつかの慣用句などについてその意味を答えろという言葉にまつわる問題ばかりであった。


(こんなものか。これなら余裕だな)


 そう思ってヴァルトがペンにインクをつけてさっさと暗算で答えを書きだすのと、女性がヴァルトへ何やら声をかけてきたのはほぼ同時だった。


「持ってきてないようなら、計算符は貸し出し……」


 問題に意識が向いていたため、女性がかけてきた声がよく聞き取れず、ん? と怪訝に思ったヴァルトだったが、暗算で答えをささっと書いていくと、それを見た女性が何か言っていたのを止めて黙りこんでしまった。なので、少し首をかしげてから、結局そのまま問題を解き続けていく。しばらくの間、部屋の中にはヴァルトが問題をサラサラと解いていく筆使いの音だけが響いていた。


 そうして体感で10分前後で出されていた計算や言葉に関する問題をすべて解き終えて、ヴァルトがペンをカタリ、と置いて前方へと視線を向けると、中央の老人は相変わらずの微笑みながらヴァルトのことを見ているだけであった。だが、その両サイドの者たちの反応がどうにもおかしな感じだ。

 女性の方は眉を顰めて強い視線でヴァルトのことを射抜くように見つめてきており、中年男性の方はどうにも不満そうに顔を歪めている。


(いまの問題を解いていた間に、何か不手際でもやっちゃったっけ……?)


 そうヴァルトが戸惑っていると、背後に佇んでいたディカルトがくっくっくっ、と人の悪そうな笑い声をあげだした。


「まぁ、そういう反応になるのもしょーがねぇとは思うけどよ。そいつはちょっと規格外なんだよ。ほれ、たぶん全問きちんと解けてると思うぜ」


 ディカルトは部屋の奥に居た3人にそう声をかけながらヴァルトの傍にやってくると、ヴァルトが解いたばかりの問題の束をまとめて掴み上げ、そのまま神経質そうな中年男性の方へと持っていく。そうして中年男性の目の前に解答用紙の束を並べるように広げてみせた。




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