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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第2章 幼少期編
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(50)  意外な評価と指摘



 ヴァルトの答えを聞いたディカルトは、その答えにきつくしていた目線を少し和らげる。その様子は、どこかホッとしたといった感じであった。


「そうか……だが、果実とかだけだとしても、これは十分に商品になるな。それも王侯貴族相手への取引材料に十分になりえるくらいのだ」


「え、そこまでのものなの?」


 ディカルトの言葉にそこまでとは思っていなかったヴァルトが驚きの声をあげてしまう。


「そこまでのものだ。

 ヴァルト、お前がどんなふうに考えてたのかは知らないが、果実なんて旬の時期のものしか王侯貴族でも口に入らないのが普通だ。一部の地域や王都の王城では、巨大な氷室を使ってある程度の時期までは保存して時季外れにだすことも可能だが……そこまでやるには経費が膨大になる。一つ聞くが……おまえの家の食事だって、旬でない時期の果実が食卓にでてくるってのは普通にありえるのか?」


 言われてみて、ヴァルトはふとアルシュタイン家での食事を思い返してみる。たしかに旬でない果実が出てきたことはなかった。思わず、ぽん、と手を打って「おぉ」と驚きの声を上げる。


「……ってことは、やっぱこれもお前の発案であって、あの親父さんや兄貴たちは知らねぇってことだよな」


 その様子を見ていたディカルトの目が、冷たく細められる。ヴァルトは思わず、あははは、と笑ってごまかそうとしながら明後日の方向へ視線を向けたが、しばらくして視線を戻してもなお、ディカルトはジッと冷たい視線を向けてきているばかりだった。


「はぁ……まぁいい。お前の妙さ加減については、この数か月でよく分かってるつもりだ。そこんところは追及しねぇ。

 で、その分だと、こっちの"レトルト麺"ってのも同じなんだろ?」


 そのディカルトの強調に、ヴァルトは黙って首を縦に振って肯定する。


「あぁ、くそっ……口に入れるのが躊躇われるぜ……けど、ここまで来たんだ、毒食えば皿までっていうしな! ちょうど湯が沸いた、さぁ、ここからどうすりゃいいんだよ!!」


 やけくそ気味な様子で言ったディカルトに、ヴァルトはレトルト麺を器に入れて、そこにお湯を加えて三分待つだけだ、と指示をする。

 それだけでいいのか? と問いかける視線を送りながらお湯を注ぐディカルトだったが、ヴァルトは静かにその様子を見守るだけである。しばらくして、お湯が注がれたレトルト麺から、ダシの味と色素、そして麺に残っていた油がお湯へと溶け出し、一方でそれまで硬くなっていた麺がお湯を吸って柔らかく伸びてくる。そうしてお湯に溶け出した鶏ガラダシの素朴な、けれど胃にガツンとくる暴力的な香りが器から湯気とともに立ち上り、ヴァルトとディカルトの鼻と胃へと襲撃をかけてきた。


「うぉ……こりゃ涎が出てくる匂いだな……」


 まだ三分経っていないにも関わらず、匂いに一発でノックアウトされたディカルトがうずうずと食べたそうに木製のフォークを手に取る。


「まだ三分も経ってないよ?」


「うっ……」


 ヴァルトの静止にディカルトが動きをピタッと止める。そのまましばらく我慢させてからヴァルトが「もういいんじゃないかな」というと、ディカルトは早速、あちあちっ、と言いながら器をもってスープや麺を啜り始めた。そして一口目を口に入れて味わった途端、びくんっ、と身体を震わせて動きを止めたあと、もぐもぐとじっくり一口目を口の中でしっかり味わい、ごくん、と喉を鳴らすと無言で食べ続ける。そうして麺を全部食べつくして、さらに器を傾けてスープをごくりごくりと一滴残らず飲み干してから、ふはぁ~、と余韻をゆっくりと吐き出し、静かに器を手近な台の上に置くのだった。


「どうだったかな?」


 しばらくの無言の時間が過ぎた後、ヴァルトがディカルトの様子から反応の予測をして、わくわくとしながらそう尋ねると、ディカルトは自身の目と目の間を指で摘まんでしばらく揉み解しだした。そしてジッとヴァルトのことを真剣な目つきで見つめながら口を開き始める。


「こいつは、最初は旅人や冒険者、旅商人たちに売れると思う、と言ったな……ありゃ撤回する。ダメだ、このままじゃ旅する連中には売れねぇ」


だが、ディカルトの口から出てきた反応は、ヴァルトの予期せぬものだった。


「いや、売れねぇ、じゃねぇ。売っちゃいけねぇ、だな。正確には。

 たしかに美味いし、旅の道中でこれを食えるとなりゃ、いまの石みてぇに固い黒パンとかの食事よりは断然にいい食事にはなる。

 けどな、旅人だったからこそいうが、こいつはちょっとばかり旅をする者たちが旅の途上で口にするには難点がありすぎる。そういう点で、これは売り物にしちゃダメなやつだな」


 そう言ってディカルトがジッと空になった器へと視線を送る。


「まず、匂いだ。あの暴力的な良い匂いは腹が減るし食欲も刺激する。けどな、あれだけ匂いがするってことは、野外じゃ獣や怪物を引き寄せる原因になりかねねぇ。そういう点でまず旅をする者の食事としては不適切だといえる。加えて美味いってのもだ。美味いってことは、それを欲しがるヤツが出てくる。だれも旅の食事は美味い物を食いたいからな。けど、そうなるとこれを持ってるやつは持ってないヤツが旅の仲間にいたら欲しがられる。そうなると時にはメシを巡っての喧嘩になりかねない。そうなると旅の最中に仲間割れなんてのに発展することもあるからな。もちろん、逆に分け合うことで仲良くなることもあるかもしれないが、食い意地ってのは張ってることが多いし、食い物の恨みってのは一度生まれると長く続きかねないからな。悪い方に考えといたほうがたいていは良い」


「う……それじゃ、これはダメなのか……」


 ディカルトの理由説明に、ヴァルトはしょぼーん、と肩を落とす。けれど、ディカルトの言葉には続きがあった。


「あぁ"このままなら"な」


「え?」


「匂いの問題は野外でなら、だ。町の中だとかのように安全がある程度確保されている場所でなら、保存が効くってのなら保存食としては十分だろう。

 それにお湯をかけるだけですぐにできあがるってのも良い点だ。町の食堂だとか屋台で売るのなら十分に売り物にはなるだろう。

 あとは、軍とか騎士団、傭兵団とかだな。少人数の旅行者だと獣や怪物の襲撃が起きかねないのは問題だが、軍隊や騎士団、それなりの規模の傭兵団なら、そもそもそういう連中が食事中に来てもだいじょうぶなようにローテーションを組んで部隊に食事をさせるからな。そういう組織だった状態でなおかつ大量に食事の手間がかかるところが相手なら、むしろ積極的に相手の側から求めてくる品になるだろう、これは」

 

 ディカルトはヴァルトに説明しながら、思考がどんどん湧いてくるのか、顎を右手でさすりながら独り言のようにどんどん語りだす。


「匂いの方は……あのスープのせいだよな。ちっ、かといってあのスープの味わいになってるのがないのなら、ただの乾麺と同じだよな……それだと新規性がそれほどあるとは見受けられねぇから、やっぱ無理だな、旅人相手は……だが、さっき言ったように軍や騎士団……傭兵団とかのようなデカい相手に向けてなら、大きな取引が期待できるよな……けど、そうなると……」


 最後の方はブツブツと聞こえないような小声になってディカルトが考え込み始める。

 そのまま目をつぶってしばらくディカルトがあぁでもない、だがあぁなって……と一人の世界でいろいろと考えをまとめようとしている様子になったのを、しばらく見ていたヴァルトではあったが、数分経ってもディカルトが一向に思考の海から戻ってこなさそうなので、あきらめて勇気を出して声をかけてみることにする。


「ディカルト……ディカルト!」


「……ってなるよな……あん?」


「ディカルト、それで、結論はどうなのかな? 旅人とかには売れないって言ってたけど、町中とか、さっき言ってた軍や騎士団相手ならだいじょうぶそうなの?」


 ヴァルトが声をかけたことで思考を一旦切り上げたっぽいディカルトではあったが、ヴァルトが反応が返ってきたことでそう尋ねると、一気に渋面になって目を閉じてしまう。

 そして、はぁ~、と大きくため息を吐き出した後に、ディカルトが逆にヴァルトへと唐突な質問を投げかけてきたのだった。


「ヴァルト、おまえ戦争を引き起こしたいって思ってるのか?」



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