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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第2章 幼少期編
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(49)   商品案



「なんだ、こりゃ……?」


 興味深げに箱の中を覗いたディカルトが、すぐに箱から視線を上げて不審そうにヴァルトに問いかけてくる。


「これは"クリップ"。複数の紙を手軽に束ねて抑えるためのものだよ。こっちは"トランプ"。数字と絵札の組み合わせでできていて、いろんな遊びができる玩具だね。こっちは"バインダー"。紙を抑えて立った状態でも筆記したりすることができる道具。これは"レトルト麺"。お湯さえあればすぐに作って食べられる長期保存に向けた保存食だよ。これは……」


 ヴァルトが次から次へと箱から取り出しながら説明しだすと、慌てたようにディカルトが待ったをかけてくる。


「待て待て待て! いきなりどんどん言われても判断しづらい!!」


「え、そう?」


「そうだ。だから一つずつ、どういったものでどういう用途に使えるもので、どの程度の価値や製造難易度があるかを教えてくれ!

 そうじゃなきゃ、こっちとしても判断できん!!」


 ディカルトのその様子に、ヴァルトはそういうものか、と思って、一つずつ丁寧に用途などについての説明を行い始める。ちなみにヴァルトがこの日、実物を箱に入れてディカルトの下へ持ってきたのは、クリップやバインダーなどの事務用品や、トランプやチェスといった持ち運べるサイズの遊具、レトルト麺や瓶詰めなどの保存食、オイルライターや使い捨てカイロといった実用品などである。それらについて、ヴァルトはひとつひとつ、ディカルトに用途や使用方法、ルールなどを説明していった。


「……なるほどな。これらをお前は商品として世の中にだしたい、ということか」


 ヴァルトにひとつひとつ細部に至るまで質問し、それらがどういうものか理解したディカルトは、そう言うと腕を組んでしばらく考えこみ始めた。


「そのクリップってのやバインダーってのは、あんまり紙を使ったりする必要がない一般には受けは悪そうだが、商人や職人の親方、いろんなギルドの職員、貴族、魔法士といったような、紙を扱うことが多い連中になら、価格と売り込み方次第でけっこういけそうな気がするな。トランプやチェスってのは、説明を聞いただけじゃいまいち面白そうかどうかわからねぇから一旦横に置いとくとして……そっちの道具に関しては、冒険者や旅人、旅商人には凄い人気がでそうだな」


 ディカルトがいうには、特にオイルライターが凄く人気が出そうだ、という話だった。


「このオイルライターってのが特に良い。旅をする上で何が一番大変かっていうと、火を起こすことだからな。だいたいは火口箱を使って火をつけるが、あれも慣れないうちは火をつけるのに時間がやたらとかかることになる。魔法で火を起こせれば手軽だがそのために消耗する触媒の費用が積み重なっていけば、結局は高くついちまう。その点、こいつなら火をつけるのもお手軽だし火口箱ほど容量もとらなくて済みそうだ。値段のつけ方次第じゃ十二分に売れ行きは見込めるだろうな」


 彼はよほどオイルライターが気に入ったのか、カチカチと何度もオイルライターのヤスリ部分を回して火をつけては消してを繰り返す。ヴァルトが見本品として作ってきたのは、フリント式のオイルライターだ。

そのお手軽さがとても良いらしい。


「そっちの使い捨てカイロってのも、この時期だと売れるだろうな。材料は鉄粉と塩と炭なんだよな。それなら鍛冶屋で研磨の際などに出る鉄粉を買い求めれば、材料は安価に入手できそうだ。こちらもこの時期の旅人や御者なんかには重宝されることだろう。あとは外で立ち番になる衛兵にも需要が十分あるかもしれないな」


 売り込み方次第にはなるのだろうが、それでも多くの買い手を期待することができるらしい。


「で、問題は……そっちの食品関係だな。レトルト麺ってのはお湯があればすぐに食べれるという話だから、まずはさっき沸かせた湯を火にくべなおしておこう。沸き立つまでの間は、その瓶詰ってやつを試食させてもらうとするか」


 そう言ってディカルトが奥に入っていくので、ヴァルトもレトルト麺と瓶詰を抱えてその後についていく。作業場を兼ねているのか、雑多に物があるようでいて、実はきちんと用途に分けて配置が整理されている土間に入ったディカルトが、竈の弱くなっていた火に乾燥藁を追加して再び燃焼させ始める。当たり前のことだが、前世のレバーを捻ればすぐに火が付いた台所などと異なり、火を常に絶やさないようにして、火力が必要な時だけ藁や薪を追加するようにしていないと、この世界では調理をするたびに火打石などで火を作るところからしなおさなければならない。それは慣れないと火を起こすだけで結構な重労働となってしまうので、火を絶やさない熾火(おきび)を用意しておくのは生活の知恵であった。

 前世ではガスコンロが普及してからそういう風習は廃れたが、火を絶やさず家に在り続けさせることがそのまま家が在り続けることと同義だったのだろう。「○○の火を絶やさない」という言葉でそういった概念だけは継承され続けていたことを、こういった光景をみるたび、ヴァルトは実感として感じるのだった。


 そんなことをついつい思い浮かべていた間に、ディカルトが慣れた手つきで火力を上げ、温くなりはじめていた湯を沸かしなおし始める。そして鍋に少なくなっていた湯に水瓶から柄杓で水を移して量を嵩ませ終えると、少し離れた場所にあった小さな木製の台と、椅子を二脚持ってきて「んじゃ、試食させてもらおうか」と腰を下ろした。


「これ、中に入ってるのはもしかしてアックル(リンゴ)の実か? アックルはたしか一ヵ月くらい前が旬だったな。なら、少しめずらしいとはいえ、今の時期でも出回ることはあるよな。それをビンに入れただけで、どこがどう保存食だって……って、こっちの瓶の中に入ってるのは、まさかリュケ(スモモ)の果実か? おい、リュケの実はただでさえ足が早くて傷みやすいってことだっていうのに、なんでこれまだ原型保って、色も瑞々しいんだよ」


 瓶詰の蓋を開けて中身を皿に取り出したディカルトが、最初のアックルの実の時は、まだ旬を少し外した時期でしかないためか微妙そうにしていたが、その後のリュケの実では半年近くも前が収穫期の果実であるために目を見開いて驚きの声を上げる。


「うぉ……しかも果実そのままで食べるより熟してるのか甘さがすげぇ……どっちも傷んでる感じじゃない……」


 瓶詰の中の果実の状態をじっくりと検分したディカルトが、だんだんと驚きからいろいろと思案している様子を見せてくる。


「おい、ヴァルト……。アックルはまだしも、このリュケはどうやって今の時期に確保したんだ? この時期に食えるリュケの実があるなら、それだけで王都で大金貨になる価値があるぞ」


「んー、そのリュカの実は一ヵ月前に瓶詰にしたものだよ。リュケの実の方も、果実自体は普通に旬の時期に露店で売ってたヤツを買ったやつだから、この時期に入手した訳じゃないんだよねー」


 ヴァルトがあっさりとそう言いながら、ディカルトが皿に出した残りのリュケの実を摘まんで口に入れる。シロップの甘味が加わった果実の強い甘味が口の中に広がった。


「は? おいおい、さっきも言ったがリュケの実は傷むのが早いんだぞ。たとえ氷室に入れていたとしても一ヵ月もすれば確実に傷んじまうはずだ。

 いったいどんな手を使いやがった??」


「んー、まぁそんなに大した方法じゃないよ。お湯さえあればできるものだからね。けど、そうか。こっちは王都にもってけば大金貨くらいにはなりそうなんだ。なら、いい商品にはなりそうかな」


「お湯さえあればいいのか……? けど、熱湯をビンに入れるだけじゃ意味がねぇよな……蓋を開けたときに、ベコッて音がしたのと関係はありそうだが……普通に蓋をしただけじゃ開けるときにあんな音はしねぇしなぁ……」


 ディカルトがブツブツと考え込み始めるが、その音についての悩みは気圧や熱のことを理解してなければわからないだろうし、ましてや腐敗の原因である雑菌のことなどは知識自体がないだろう。

 ヴァルトは教えたところで理解してもらえるかわからない上に、仮に理解されるとしたらされたで、今度はなぜそのようなことを知っているのかという質問で時間を取られることになるだろうとさっさと見切りをつけ、ディカルトに瓶詰の作り方としての湯煎の仕方だけを説明する。細菌といった詳細な説明はわざと省き、単純に腐敗する元を湯の熱で煮殺すのだとだけ説明した。


「沸騰した湯で瓶を過熱して、腐敗する要因を排除するのか。んで、そこに詰めたい物を詰めてシロップっていうこの甘い液か食用油、お湯を入れる……そして完全に蓋をしてからもう一度その湯煎ってのをしてから逆さにして自然に冷えるのを待つ、と。……その程度のことで、傷みやすい果実をここまで長く保存できるようになるってのかぁ……」


 いまいち不思議さが抜けないようで、うーんとうなりながらその手順についてのメモを読み返していたディカルトだった。


「きちんと密閉されて瓶詰の中がきちんと熱されていたら、その最後の冷えた時に瓶詰の蓋が気圧の影響でぺこってへっこむんだよね。で、その状態だと中の材料にもよるけど、長いと一年くらいは十分に保つことになるよ。実際、そのリュケの実は半年前のものだけどきちんと保っているでしょ。でも、一度蓋を開けて密閉度合いがなくなっちゃうと普通に傷みやすくなるから、その後はなるべく早く食べきるようにしたほうがオススメだねー」


「……これは肉でもだいじょうぶなのか?」


 少し黙り込んだ後、やたらときつい目線をヴァルトに送ってきながら、ディカルトがそう尋ねてきた。なぜそんなにきつい目線になるのだろうか?と疑問に思いながらもヴァルトはその問いに答える。


「ん~、肉はシチューとかにしてそれらの液と一緒にってのならたぶん。でも、冷暗所に置いてもせいぜい二週間から一ヵ月が関の山だろうし、傷み具合がわからないから避けたほうがいいかも。それなら素直に干し肉にして食べるときに湯で戻すようにしたほうがまだ安全じゃないかな」


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