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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第2章 幼少期編
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(44)  打っておいた一手



「ヴァルト、貴方はいったいどこで"戸籍"という考え方、その知識を得たのですか?」



 そう問いかけられたヴァルトではあったが、こういった問いかけは予想できていたものであったため焦ることはなかった。

 なにせ場合によっては戸籍に限らず、様々な知識や技術をこれから先、父や兄たちに開示していくことになる。いずれ王都なり他所の街なりに行く機会があれば、そこで入手した本に書かれてあった、とか、その街にある図書館に収められていた蔵書から知識を得た、といったごまかしも行えることだろうが、今はまだそれが可能ではない。なので、ヴァルトが知識を開示する中で現状のこの世界にある技術や知識では知られていない言葉や概念を使ってしまった場合、どのようにそのことを説明するか、ということについては、ある一手を事前に打っておいたからである。


「戸籍、という考え方についてですが、その考え方の基本は、ティアナたち獣人たちの生活様式から思いついたものです」


 そう、その一手とはティアナに対しヴァルトが持っている知識について、新たに周りに開示する前に事前に彼女へとヴァルトが教育を行い、その上でそこで使う言葉や考え方について彼女と事前に打ち合わせをすることで、あたかもティアナとの交流の中でヴァルトが思いついた、もしくは学んだ、という構造にする、ということである。


「ティアナによると、少なくとも銀狼族の部族においては、部族全体が一つの家族としてまとまっており、狩りや採取などで得た物は、長にそれが一度預けられるそうです。そうして集まった獲物を、長が部族の中の各氏族に対し、その氏族を構成する家族構成や男女の割合、年齢などを加味して判断し、働き盛りの男や成長期を控えた子どもが多ければ肉を大きく切り分け、逆に老人や女性が多ければ肉の配分は少なくするが代わりに果実や村内で製作する装飾品の素材となる木の実などの素材の配分を多くする、といった形で、なるべくだれしもに負担が少ないように治められているとのことでした」


 ここまではティアナに聞いた銀狼族の生活様式についての事実である。要は原始的な共同体であるため、そういった形に自然となってしまうのである。


「そこで用いられているのが、一つの家、という考え方です。家の出入り口のことを()と言い、そこに所属し家族を構成する者たち、つまり自らの名をそこに連ねている者、籍を入れるというそうですが、それをしている者たちのことを戸籍、と呼んでいるそうです。ただ、僕はそれが特別なものではなく、てっきりこの国や領においても行われている考え方だと思っていたので、戸籍というものが使われていると考えて質問をしていたんです」


 こちらは嘘。さすがにティアナのいた部族では、話を聞く限りそこまで厳密に区分けはされていなかった。なにせ部族社会とはいえ、数の少ない者たちであるため、部族全員が同じ血族、親族同士であるため、"家"という概念自体が薄いというのが実際のところであった。なのでそんなティアナにヴァルトは、集団の単位としての氏族と家の違いなどを教える必要があったくらいだ。


「そうして長を頂点に各家が付き従い、構成される部族、氏族として生活が行われているそうですが……病人や怪我人などがどこかの家で出た場合は、その者の治療にかかる薬草の採取や薬の入手などは、部族全体で面倒をみるのが当たり前だそうです。また、その怪我や病が原因で狩りができなくなった狩人役の者などが出た場合は、傷が癒えるまで部族全体でその家の者たちの面倒を見、もし狩人として戻れない後遺症などが出た場合は、部族内のほかの仕事に就くようにする体制がとられているとのことでした。この話を基盤に質問をだしたのが治療院の話や生活困窮者への保護についての話だったんです」


 そう語るヴァルトの話を、エイオスとグレウスはとても興味深そうに聞いていた。


「なるほど……ティアナのいた銀狼族の村というのは、おそらく極度に協力体制がとられた政治構造になっていたのですね。

 そして皆が協同して支えあい、生活していかなければならない環境にあったのでしょう。だからこそ、そういう形で氏族が運用されていたのでしょうね」


「そして、恐らくはそれほど多くの民がいるわけでもなさそうだな。だからこそ、皆が協力し合い、助け合い支えあう中であれば怠け者や制度を悪用しようとする者、不正を行おうとする者がいれば、すぐに村八分にされてしまうことになるだろう。一方、我らの政治体制では領民の数も多い。そうなると制度を悪用して怠けたり不正を行おうとしたりする者も残念ながら出てきやすくなるし、皆の収益を長である施政者が把握して均等に配分するといったことは難しくなる。なので恐らく、誰しもに均一の負担だとして決まった額を税として割り当てることになったのだろう」


「ですが、それはきっと、社会を構成する人数が多くなり、収益を一旦回収した後に配分するというのが量的に難しくなっていったことで生まれた手法だったのでしょうね。おそらく当初は集団の中での貧富の格差も小さく、同程度の負担であったからこそ取られた策であったのでしょう。あまりに配分する物の量が多くなってしまえば、均等に分けようとしている間に足の早い肉や野菜などは腐ってしまいますし。なのでそれを避けるために、腐らない貨幣で税をとることにした。そして貧富の格差が小さいからこそ、同一の価格として税が定められていったのでしょう。

 ……そしてそういった税制を何代もの間、長く受け継いできたことで、そういったものが『当たり前』のこととして認識していたのですね、我々は」


「だが、時代が進み、貧富の格差が大きく広がっていった今の時代で考えれば、貧富の差を無視して同一の価格として課す税というのは、税の本来の目的である、全体のために個々に均等となるように収益を長が回収しそれを分配することで均等にその益を受ける、といった考え方には合わないものになっているということか」


「いろいろと考えさせられる話ですね……どうやらこの分では、ほかにも慣習だからとして受け止めていたがために、時代に合わなくなっている制度などもありそうです。父様、ここはひとつ色々な事柄について、なぜそれを行っているのか、という原点に立ち返りながら今の時代にその制度が合っているのかどうかを分析、修正していくことで改善されるものが施政においても色々とでてきそうですね」


グレウスがそういうと、エイオスが大きく頷く。


「そうだな。……それにしても、最初はちょっとした息抜きのつもりでヴァルトの質問に応じるつもりであったのだが、いや、逆にそのおかげでこちらが教わることとなってしまうとは何やらおかしな気分だ」


そう言ってエイオスが、ははははは、と大きな笑い声をあげる。

グレウスもそれに伴うように小さく頷いて、


「ええ、戸籍の話を聞いた時は、またヴァルトが夢で見た謎の知識だったりするのでしょうか、などとも思いましたが、聞いてみればティアナの影響だったのですね。

 それならば納得というものです。」


そう言ってにっこりと微笑むグレウスを見て、ヴァルトは内心で(手を打っておいて夢でとか言わなくて良かったっ……)と安堵したのだった。

恐らく、夢で得た知識だ、などと再度言って煙に巻こうとしていたなら、この分だとグレウスはきっと追及の手を緩めなかったことだろう。


「ところでヴァルトは、他に領政のことで聞きたいことはないのですか?」


そうグレウスに尋ねられたヴァルトは、話題を変えるべく他の領内の政治や地理、施政の方針についてあたりさわりのない事柄について尋ね、ほどほどの時間が経ったところで領主室を出ていくことにしたのだった。






 後日、アルシュタイン領では大々的に税制の変更についての告知がなされることになる。

 当初、税が増えるということで反発の声が大きく出たものの、同時に布告された治療院への補助制度や急な生活困窮状態に陥った者への生活支援制度によりそれらの声の勢いは一時的なモノで収まった。

 また、この変更がなされた翌年に周辺国をも巻き込む広範囲での悪性の流行り病が発生したが、アルシュタイン領では治療院から早い段階で流行り病の兆候が報告されたことで被害の迅速な封じ込めに成功したこと、その流行り病で失業することになった者たちが生活支援制度のおかげで盗賊に身を持ち崩したり娼婦へと身売りすることなく新たに再出発することができたこと、それにより他領では街道での盗賊被害が増えたが、アルシュタイン領では盗賊は増えずむしろ巡回騎士による治安の向上が実績としてでたことなどから、当初は他領への引っ越しを考えていた富裕層たちからもこの制度改革の有効性が受け入れられ、アルシュタイン領の税制改革は広く受け入れられることになっていったのであった。










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