(35) 神々と魔法
「導師にお尋ねしたいのは、この世界における神について、のことです」
ヴァルトがそう質問を投げかけると、ミッシェル導師が眉を少し持ち上げ、「ほぅ?」と興味深そうにヴァルトのことを見つめてきた。
「先日、他国には神を名乗る王がいるという話を教わりまして。それも唯一神だとか名乗っているとか。
でも、この教導院にもあるように、礼拝堂などでは複数の神を祭っていたのではなかったかと思いまして。それで少しばかり神について知りたいと思いまして」
ヴァルトがそう尋ねる表向きの理由を口にすると、老師は「ふむ」と小さく呟きながら白い己の顎ヒゲを右手で漉き通した。
そう、教導院は子どもたちへの教育の場であると同時に、大人に対しての人生相談や祈りの場、葬儀や婚儀などといった人生の導きを神々の名の下に執り行い、道を導くための場であるはずだった。
「唯一神と名乗る王というのは、プロスト聖国のことじゃな。神の血を引く王族じゃとか、現人神であるとか言っておるもののことかの……
本来、一般的に神と呼ぶのは、ヴァルトくんが思ったように教導院などで祭っておる複数の神々のことを指すものじゃから、そちらについてを知りたいということじゃな」
そう確認するように言うと、ミッシェル導師はヴァルトに「ちょっと待っておれ」と言って部屋を出ていった。しばらくしてやってきた老師の手には、一冊の使い込まれて破損が目立つ古い本が存在した。
「神々について知りたいということじゃったが、ワシもあまり神について講義することは稀じゃからの……ちと資料を持ってこさせてもらったぞい」
そう断りを入れてきてから、ミッシェル導師が神について語り始める。かと思えば、導師の口から最初にでてきたのは、属性魔法についてのことであった。
「ヴァルトくんは、たしか領主殿の館において、魔法について学んでおったはずじゃの」
「はい、エスメファルティナ先生に教わっています」
「では、魔法の属性について語ることはできるかの?」
「魔法の属性ですか?
えっと、『火魔法』・『水魔法』・『土魔法』・『風魔法』・『光魔法』・『闇魔法』・『空間魔法』の7属性……ですよね」
「そうじゃ、その7属性じゃが……それらの魔法を発動させるための術式陣といわれるものは、一体なにを持って生まれ出でたとヴァルトくんは思うかね?」
「魔法の術式陣ですか?
この流れでそういう質問が出てくるということは……単純に魔素を偶然操作できる術式陣が発見されたとかではないんですよね……?」
「ふぉふぉ、勘が良いと説明が楽じゃの。そうじゃ、全ての魔法は偶然に生み出されたり発見されたわけではない。
世界に広まっておる全ての魔法は、この世界を創造したとされる7大神がこの世界を生み出す時に用いた権能の使い方を模倣したことにより成り立っておる。
そして、その模倣した業こそが、術式陣と呼ばれておる神の御業を模倣して成り立つ魔法なのじゃよ」
「えっ。世界を創造したのは7柱の神様なのですか?!」
「そうじゃよ、火の大神<ラダム>、水の大神<イスカニア>、風の大神<ミスティカ=ミダルファ>、土の大神<ナザリア>、光の大神<エーヴェリウス>、闇の大神<ルガリア>、そして世界の器たる空の大神<エスカ>。
この7大神がこの世界を創りだしたと言われておる。
その神々による世界創造の力の残滓が様々な影響を受けて変質したものが魔素なのじゃよ。その証拠に、じゃからこそ神の御業を模倣して魔素を神の力に近づけることによって人間が魔素から様々な現象を引き出す魔法という技術を扱うことができるのであり、また、同時に神々による世界創造の力の残滓たる魔素の変質が起こりすぎたり溜まりすぎたりすることで、神々が定めていない魔物が生まれたりするのじゃと言われておる」
パラパラと手にした古い本を捲り、神や人間と思わしき姿の挿絵などが時折挟まれた頁を説明の合間合間に見せながら、そうヴァルトに語るミッシェル導師の顔には、その話に対する少しの迷いも感じられなかった。
(――どういうことだ? 女神アスファリアの話だと、この世界を創ったのはアスファリアのはずだが……?)
一方、ヴァルトは逆にアスファリアから聞いていた話と異なるそんな話に、若干の戸惑いを感じていたが、その戸惑いをどうにか面に出さないようにしていたため、その動揺に気づかなかった導師は、そのまま話の続きを語っていった。
「太古においては、世界を作り出した大神を始めとし、多くの神々が我ら人間の傍に居てさまざまな手助けや助言、導きをしてくれたという神話があるの。曰く、この国ができるより以前、我らの祖父の祖父のそのまた祖父よりも古き時に起きた"神滅大戦"までの話じゃが」
え?と、ヴァルトは突然出てきたキーワードに、ひとまずアスファリアへの疑問を横においてミッシェル導師に問いかける。
「ミッシェル導師、"神滅大戦"というのは何ですか?」




