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神様の端末としてのんびりまったり縁を結びます  作者: 愚true
第2章 幼少期編
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(29)  お出かけ(3):チコリ



 あの後ヴァルトは、ディカルトの露店に並んでいた小物のうち安めの物を数点追加で購入してから、彼に別れを告げてティアナと共に町の中を再び歩き出した。ティアナはディカルトが小さな紙袋に入れてくれたペンダントを大事そうに抱えながら、とても上機嫌な様子でヴァルトの傍らに並んで付いてきてくれている。


「さて、次はここだな」


 ヴァルトが次にティアナを連れて行ったのは、市場から少し離れた路地の入り口にある店舗だった。重厚でやや威圧感のあるその店の扉を、ヴァルトは気にせずに押して中に入る。そんなヴァルトの後についてティアナも中に入ると、色取り取りで素材も多種多様な布地がそこかしこの棚に掛けられている店内の様子が見受けられた。


「ヴァルト、ここは?」


そうティアナが尋ねると、ヴァルトはチリンチリンと鈴を鳴らし、店の奥の方へと視線を向けたまま、「ここは服屋だよ」と教えてくれる。

しばらくして身長がヴァルトたちとほとんど同じ背丈で、雅にも花や鳥が描かれた袖の長い衣服を着た、長い黒髪を後頭部で結って尻尾のように垂らした髪型の少女が、店の奥からゆったりとした歩みでやってきた。


「おや、これはこれは。だれが来たのかと思えば……あや、こちらは初めてのお客様ですね」


少女はヴァルトを見ると口元を袖で隠しながら目を細め、少々作り物っぽい笑顔を見せる。そしてその直後にティアナのことに気付いたようで、少し値踏みするかのようにティアナのことをつま先から頭の先まで2度ほど視線を往復させた。


「やぁ、チコリさん。紹介しますね、こちらはティアナ。うちでいま預かっている娘です。ティアナ、こちらはチコリ=ニスティアさん。この服屋の店長で、同時にこの町でも屈指の裁縫師なんだ。 チコリさんの作る衣服は着心地の柔らかさが他の店より優れているので、母様や姉様が普段着の御用達にしてる他、グレウス兄様も夜着をお願いしてたりするんだよ」


 ヴァルトがそう言って両者を紹介すると、ティアナとチコリは互いに会釈をして挨拶を交わし合う。その後、チコリはヴァルトに笑顔を向けながら、


「いやはや、そう言っていただけましてありがとうございます。ホント職人冥利に尽きるというものです。

 それに子爵家の皆さまは、私が卸した服をきちんと扱って長くご活用していただけておりますので、私としましては常に仕事のし甲斐がありますし」


と、嬉しそうにそう言って頭を下げた。



                   *   *   *



「それで、ヴァルトさま。本日はどのようなご用件でございましょう?」


あの後、チコリに案内されて店の二階へとヴァルトとティアナは案内された。

そしてそのまま商談用のスペースに誘導され、対面となるように置かれたソファの上座をチコリから進められたヴァルトたちが腰を下ろしてしばらく雑談したところで、チコリからヴァルトへと用件についての問いかけが行われた。


「あぁ、そうですね。……チコリさん、本日ご訪問させていただいたのは、このティアナが着る日常用から夜会など用までを含めた、彼女の服一式をチコリさんに仕立てて欲しいと思いまして。そのことをお願いすることができるかどうか、尋ねさせて頂こうと思い、やってきたのですよ」


ヴァルトがそう用件を切り出すと、チコリは少し驚いた顔をして唸った。


「日常着や夜着などだけではなく、夜会用なども含めた服一式でございますか。……それはかなりの大仕事でございますね」


「ええ、実は少しばかり特殊な事情(・・・・・)がありまして。ティアナには、いまは姉の小さかった頃の服を着てもらっているのですが、いつまでもそれというのも何ですから」


「……なるほど」


ううん、と少し唸ってチコリが考え込む。

それはそうだろう、いまヴァルトが言ったことの中には、仕事の量についての大変さだけでなく、ティアナには秘密が有り、仕事を受けるなら危険が及んでも関わる秘密を守り通す誓約を子爵家に対し建てられるのか?というメッセージが込められていたのだから。

これはすなわち、断るならまだ詳しく話を聞いていない今のうちですよ、という意味も同時に含められている。

話をこれ以上聞くのであれば、内容が未だ不明な事柄に対し、秘密厳守に同意すると誓約することになるのだ。

とはいえ、ここで拒否をするということは、わざわざヴァルトが持ってきた大口の仕事をフイにすることも意味しており、さらに今後の子爵家からの仕事が得られるかにも関わりかねないとして、チコリとしては悩みどころであることは間違いないのだろう。

これだけの情報ではチコリとしても判断し辛いだろう、としてヴァルトはここで一つチコリに向けての釣り餌を出すことにした。


「ちなみに、もし受けていただける場合には、こういう感じの服の制作をお願いしたいな、と思っていたりします」


そう言ってヴァルトがチコリに向けて差し出したのは、前世で言うところのゴシックロリータ系のフリルを多用した衣装デザインが描かれた紙だ。

ヴァルトとしての記憶や子爵家で働く人々の服装などを見ていて、ああいったデザインの衣装はこの地域ではまだ存在していない様子であるということが見て取れていたので、ヴァルトとして交渉道具の一つにもなれば、と用意しておいたのである。なお、その辺の構造については、前世で文化祭の準備で作らされたり、知り合いの漫画家さんが資料として持っていたコスプレ衣装を触らせてもらったりしたおかげで、制作するために必要な構造や技法はバッチリ理解していた。


「これは……?……っ!……だがここはどうやれば……」


どうやら予想通りだったらしく、フリルの構造美にチコリが驚きの声を挙げる。


「そこは"フリル"という手法ですね。布幅がより必要になりますが、ちょっとしたコツでできますね」


「布幅が多く……なるほど、これは布を絞って……」


ヴァルトがほんの少しヒントを出しただけで、どうやらチコリはフリルの構造や製作法について理解を示したようだった。


「さて、どうでしょう?

 ちなみにほかにもいくつか意匠案は用意してあったりしますが」


チコリに向けて、ヴァルトが他にも衣装案を何枚か描いておいた紙を見せつけながら、ひらひらと左右に振り動かす。

チコリはその紙に描かれた衣装デザインを少しでも目に留めようとして視線が左右に動き、ゴクリ、と唾を飲み込む音が聞こえる様子が机越しに見受けられた。


「お、お受けした場合は、その……」


「もちろん、これらの意匠案をお渡しし、私からで伝えられることはお伝えして作成をお願いしたいと思いますよ。

 もっとも、お忙しくて無理だとおっしゃるならお渡しするわけにはいきませんが」


にっこり、とヴァルトがそう言ってひらひらと動かすのを止めて意匠案を丸めて見えなくさせると、チコリが「ああっ」と、思わずといった様子で声を漏らす。

そのまましばらくヴァルトがにこにこと微笑みながら返答を待っていると、やがて絞りだすようにチコリが声を発した。


「……ます………お受けしますっ。

 ですから、どうかもっとよくそれらの意匠を見せてくださいですぅ!」


(ふっ、計画通りっ!)


受諾の言葉と共に、意匠案の紙に向けて手を伸ばして求めてくるチコリの様子を笑顔で見ながら、内心でそう黒い笑いを浮かべるヴァルトである。


「……ねぇ、ヴァルト。それ、どんな服なのかな?」


だが、そんなヴァルトの勝利感が続いたのは、それまでずっと隣で黙っていた、ジト目で見てくるティアナが声をかけてくるまでの束の間の勝利であった。



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