(22) 魔法は暴発すると危険です
「……夢で見て、試してみたんだ」
「「………………」」
ヴァルトの回答に、ティアナとグレウスがあっけにとられたのか、ポカーンとした顔をして食事の手を止める。
うん、沈黙が重苦しい。
自分でも苦しい言い訳だと思うが、他に良い回答が思い浮かばなかった。
そんな自分の回答を聞いたグレウスは、目を閉じてなにやら考えているようだった。
「……夢、ですか」
しばらくして、ポツリ、と呟くようなグレウスの声は、感情が伝わってこない声音であった。
そして、ハァ、と大きくひとつため息を吐き出すと、
「まぁ、そういうこともあるのかもしれませんね」
と、言ってそれまで張っていた固い空気を霧散させる。
けれど、若干怒気を含んだ声で続きが口にされた。
「ただ、ヴァルト。それが本当なのだとしたら、次からは夢でみたからといって、そんな思い付きで新しい魔法を試すというのは止めておいてください。
今回は問題ない結果でしたし、普通ならば夢に見たところできちんとした意味を持たない魔法構文でしかないでしょうから、何も起きないといった結果で終わることになるのでしょうが、場合によってはどんな被害をもたらすことになっていたのかもわからないのですよ?」
「う、す、すみません……」
「いいですか、ヴァルト。過去の魔法師の中には未発見の魔法を構築しようとして魔法を暴走させてしまい、村一つを吹き飛ばしてしまったものだっているのです。思い付きで魔法を変えたりするのは本来してはならないことなのですよ?」
そのままつらつらとグレウスが暴走した魔法の事例を挙げて説教をし始める。
そんなヴァルトへの援護をしてくれたのは、もぐもぐと一人食事を採っていて先に食べ終わったティアナだった。
「あれ? でもエスメファルティナ先生、ヴァルトのその新しい魔法の構文を知っていろいろと実験してたよね??」
そのティアナの言葉で、グレウスのお説教がピタっと止まる。
「そうですね……なので、エスファにも後で注意が必要です。
エスファは、まぁ一応魔法師としての資格を持っていますから、危険性を理解し判断したうえで行ってはいるとは思いますが」
苦虫を噛み潰したように眉を若干しかめながら、グレウスはそう言って口を閉じた。
「魔法師の資格ですか?」
きょとんとした顔をするティアナに、グレウスが解説する。
「魔法を扱う者には二種類あって、一つが単に魔法を使えるだけの者たち。とりあえず発動できるようになってる人たちのことだね。これを魔法士といいます。
そして、もう一つがエスファのように、魔法の構造をしっかりと理解し、教えたり新たに作り出せるだけの知識や能力があると認められた者たちです。こちらの場合は魔法"師"と呼ばれるのですよ」
「あと、魔法師には属性ごとに認定審査があって、それを通れば属性ごとに指定された色の魔石をあしらった装飾品が与えられるんだ。エスメファルティナ先生は帽子に金と緑の魔石のついた鎖を付けていただろ、あれはエスメファルティナ先生が光と風の2属性において魔法師と認められていることを表しているんだ」
グレウスの解説に付け加えて、ヴァルトがそう説明すると、二人の説明を聞いていたティアナが、理解したのか何度も頷いていた。そして解説がすべて終わったところで、ティアナが首を小さく傾げながら、質問を投げかけてくる。
「一つ疑問なんだけど……」
「ん?」
「なんでグレウスさまだけは、エスメファルティナのことをエスファって呼ぶの?」
そのティアナの質問に、ヴァルトがグレウスへと視線を向けるが、グレウスは薄い微笑みを浮かべたままで何も答えようとはしていない。
しかたなしにヴァルトがティアナへと答える。
「……グレウス兄とエスメファルティナ先生は、友達だからだろ」
グレウスが沈黙を守り続けているため、その答えで正しいと思ったのか、ティアナは納得した様子だった。
そして、ティアナが今度はヴァルトへと視線を移してくる。
「ん?」
その視線を受け、ヴァルトが問いかけると、ティアナがそのまま今度はヴァルトの前にある手つかずの料理へと視線を移動させ、ぼそっとつぶやいた。
「はやく稽古がしたい」
ジッと上目遣いでそう要求してくるティアナに、ヴァルトは思わず苦笑してしまう。
「わかった。じゃあ、すぐに食べ終えるからちょっと待っててくれないか」
「うん」
その後はティアナの視線を受けながら、黙々と残りの食事を口にして食べ終える。食べにくい。
一方で会話はここまでと区切りをつけたのか、グレウスもゆっくりと丁寧に
「ヴァルト、それでは行こっ」
ヴァルトが食べ終わるのと同時に、わくわくと心待ちにしていたことを抑えきれない様子のティアナが、そう言って元気よく食堂の外へと速足で歩きだす。
小さくため息を吐いた後、後片付け自体はメイドたちがしてくれるからと、ヴァルトもその後を追って歩き出そうとした。
「……ヴァルト」
そんなヴァルトに向けて、背後から声が投げかけられた。
振り向くと食事の手を止めたグレウスがジッと見てきていた。
「なに?」
「……いえ。
……そう、彼女とは仲良くやれているのですね?」
雰囲気から、ティアナのことを指している様子であったため、頷いてみせる。
そのヴァルトの返答を見て、グレウスがホッとしたのか肩の力を抜いたようだった。
「そうですか、ならばいいのです。
まぁ、いろいろと大変かもしれませんが、がんばってください」
そう言って微笑んできた兄に、ヴァルトも微笑みを浮かべて小さく頷くと、入り口で待っている少女のほうへと歩き出した。
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