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落し物は、兎族の伴侶に会う

ご愛読ありがとうございます。

毎回、お待たせのわりになかなか進まない内容でスミマセン。

今回も皇帝様には会えていません。

いつになったら会えるのやら…。

途中から薄々察っすることができたんだけど、やはりというか当たり前というか、皇帝陛下にはいきなり会う訳にはいかないらしい。


なんでも国が大きいこともあって、当然皇帝陛下にお目通りしたい人間も数限りなくいて、そのすべてに会う訳には当然いかない訳で、皇帝陛下に会う前に色んな手続きが待っているのはどこの国でも同じらしいんだけど、下の役人さんから話をつけて、さらにはその上の、その上の上の、と伝言ゲームをしていって、どんなに早くても2日程度はかかってしまうらしく、さらには返事が来るまでも同じ日数がかかるので都合4日は見ておかないと会えないんだとか。


うーん…そう考えると、お城に行ったらいきなり会えちゃったシオンの方がイレギュラーだったんだなぁ…それもそうか。


思わずそう目でうかがってしまった先の、劉焔様は冷たい一瞥で、劉翔様は苦笑して、こう答えてくれた。


「残念ながら、俺らもそうなんです」


…家族なのに会うのに4日もかかるとか大変だな!としか言いようがないけど、二人とも取り立てて皇帝陛下に会いたいとは思って無さそうだからいいのかな…それはそれでなんだかなぁなわけだけど。


…という訳で、気合十分で首都にはたどり着いたものの、いきなり路頭に迷った感が半端ない私ですが、そこは捨てる神あれば拾う神あり。


どういう訳か、もじもじと何かを恥らいながら、傷だらけの大男劉翔様が。


「…そこでしばらくの間、道士様がよろしければ、警備上の都合もきく私の家にお招きしたいのですが…いかがですか?」

「え?!良いんですか?!」


そんな風に切り出してきた提案に、渡りに船とばかりに乗せてもらったんだけど。





「お帰りなさいませ、旦那様!!」


中華!!って感じの真っ赤な伽藍も素敵な、あからさまに他とは一回り違う大きさの、劉翔様のお屋敷に帰り着いて早々に、鈴の転がるような可愛らしい声と共にぴょんっと劉翔様に飛びついてきた人を見て、すべてを察した。


「…紅玉、客人の前だぞ?控えろ」


…うん、口調こそきりっと厳しいけれど、顔…顔が崩れまくってますから、劉翔様!!

もう、デレッデレだな!って言いたくなる位に顔面崩壊しまくりですからー!!


そして、この騒動を目の当たりにしてようやく、もしかしなくてもこの…会って数秒で溺愛中ってわかるこの奥様に会うために、一刻も早く自分の屋敷に帰ってきたかったからの申し出だったんだって悟りましたとも…!

ついでに言えば、劉翔様が家に帰るといった後に、「それなら安心」とばかりに、棗さんと、劉焔様もとっとと自分の家に帰っちゃったのも、このラブラブ劇場が展開されることを知ってたとしか思えない…!


「…まぁっ…!私ったら、はしたなくて…すみません…!!旦那様しか見えてなかったモノですから…!」


かじりついていた首根っこから、身軽にぴょんと降り立った人が真っ赤になった顔を抑えてそう恥らうのを、劉翔様はこれまたグズグズの顔で見下ろしてるけど、確かに見えませんからね?!

心理的に奥様が旦那様ラブだから他はアウトオブ眼中ってだけじゃなくて、物理的に劉翔様が先頭にいたら誰も見えないに決まってるんですからね?!


もう、どんだけ可愛い奥さんなんだ!?と思わず目を三角にして…それから、まんまるになった。


「ようこそいらっしゃいました。何にもない家ですが、部屋だけは沢山ありますので、皆様くつろいでくださいね?」


ぺこりと頭を下げて、可愛い声で、小首をかしげながら歓迎してくれる奥様はとても小さくて、幼い顔で。

黒い色彩の多かったここでは珍しいそれこそルビーのような赤い瞳と、凝った形に結い上げられた銀色の髪の毛に。


「…う…うさ耳…!!」


もふもふとしていかにも触り心地がよさそうな、兎の耳を持った獣人でした…。


…うーん…傷だらけの大男に、うさ耳ロリな奥さんって組み合わせはなんだか犯罪臭しかしないんですけど…とりあえずはそこじゃなくて…そこじゃなくて…!!


「…も…モフりたい…!!」







…隣の鼻息がものすごく荒いけど、大丈夫だろうか?

確かにこの夫婦の会話は、いろんな意味で衝撃だったけれども。


ユージィーンは思わず、隣にいるユキの手を捕まえた。

妄想上の何かをどうにかしていたらしく、ワキワキしてるそれを戒めるように恋人つなぎにすれば、訴えかけるような眼差しで見上げられて戸惑う。


いや、なんなの?その必死な目…ちょっとビビるんですけど。


「…うう…もふもふしたい…なでなでしたい…すりすりしたい…!!絶対に気持ちいいのに…くぅ…でも人妻…しかもロリ…なんか狡い!!」


…ところどころ理解不能だけど、人妻なあたりで将軍の奥方についての感想だということは理解できた。

獣耳の獣人とは何度かすれ違ったけれど、あの時は輿に乗っていて距離があったからなのか、はたまた兎というところが大事なのか、ものすごく激烈な反応に戸惑ってしまう。


「…いや、アレ、人のモノだからね?」


一応はわかっているようだけれども、気を抜くとふらふらと手を差し出しかねないユキを、一層強く捕まえながらユージィーンは一応忠告する。

客前だと言っておきながら、自分はすっぱり忘れ果てて獣人の挨拶…鼻をこすり合わせる、を延々とやっている将軍の前で、奥方に手を出すのはどう考えても地雷しかない。


「ちゃんとわかってるよ!!でも…手が…!手が、いっちゃうんだもん!!」


なんの病気かは一切不明ながら重症らしい、と俄かに心配になるレベルでプルプルしだすユキに、ユージィーンはため息をつく。

そして、後ろに控えている従者二人を振り返って…顔面蒼白になっているリヒトに気づいた。


「…リヒト」


小さく呼びかけても反応がない。

まぁそれも仕方ないことかもしれない。

リヒトにとっては同族と会うというのは、あんまりありがたい感覚ではないのだろう。

兎族であることを否定したくて、がむしゃらに裏社会を走りぬいてきたような、この男には。


代わりにユージィーンはカイルの方に目を向けた。

いつでも冷静沈着な護衛隊長は、リヒトを気づかわし気に見やりながらも、小さく頷いて相変わらず奥方しか見えていない様子の将軍に声をかける。


「劉翔将軍、積もる話もございますでしょうが…ユキ殿が…」


いささかお疲れの様ですから、と続けるよりも早く、首根っこに奥方をかじりつかせたままの将軍が片膝をつく。


「これは大変な失礼をいたしました…!!すぐに部屋を用意させますので…!佳英!佳英はいるか!!」

「ここにおります、旦那様。というか、ずっとおりましたがお気づきになられなかった模様で…」


俄かにバタバタと焦る主人とは裏腹に、どことなく劉焔に雰囲気の似た青年が冷たく応じるのを見ながら、ユージィーンはもう一度、リヒトを振り返った。


でも、もう一度呼びかけるよりも早く。


「…本国への連絡に、ちょっと出てくるわ」


そんな言葉を残して、その姿は消えてしまっていた。







驚いたことに、用意された部屋に案内してくれたのは将軍だった。

他の人に任せるのは気が進まないということなのか、そもそもそういう雑用を厭わないざっくばらんな気質なのか、なんとなく主人よりも偉そうな雰囲気のあったあの佳英とかいう青年に体よくつかわれているのか、なんとなく最後のが優勢っぽいあたりに主人の立ち位置が危ぶまれる…と思いながら、気心もしれた案内役にほっとして、あの魅惑的なうさ耳が見えないことにはちょっとがっかりして、にぎやかに話ながら長い廊下を行き、ようやく部屋が見えたところでユージィーンがおかしなことを言いだした。


「…それにしても、伴侶に兎の獣人を迎えられるとは…色々と、大変だったのではないですか?」


え?兎の獣人ってなにかそんな…お嫁さんになるのに大変な種族なのかな?


そんな風に小首をかしげる私に、別人のように大人の…苦渋に満ちた顔を見せた将軍が小さく笑った。


「そうですね。獣人というだけで色々とありましたが…更に兎なので、それは色々と言われましたよ。まぁ、最後はどうせ世継ぎなどなりようもない、権利放棄した皇子なのでかえって好都合ということになりましたけど」


思わず素直な疑問が口をついてしまいそうになる私に気づいたみたいに、カイルさんが袖を引いて小声で教えてくれる。


「獣人は一時期、迫害されていたんですよ」


何でも昔、獣人と呼ばれる人は皆、獣にも変身することができたらしい。

今となっては人間との混血も進んでいて、獣になれるくらい力の強い獣人はほぼいないらしいけれど、それでも少なくない獣人が、人間よりも優れた感覚を備えているんだとか。


人と違うということはそれだけで、人の恐れを招いてしまう事がある。

獣人自身に思うところはなくても、悪用されたら困ると思う人も。


そんなこともあって、そんな獣人の力を恐れた一部の人に迫害された獣人たちは、一時期とても数が少なくなってしまったんだとか。

それには彼らがもっている本能…番という特別なパートナーをもっている人が殆どで、その特別なパートナーとしか子供を設けないっていう性質も相まって、希少種になってしまう位に数が減ってしまった。

そうしたら今度は、希少種の獣人を保護しようっていう動きが出てきたんだって。


で、その時に目をつけられたのが兎の獣人だった。


「え、なんで…?」

「その時代の獣人の中では唯一…兎の種族だけが、他の種族と番うことができたんです」


しかも兎の種族はみんな多産で、子供は丈夫に生まれてくることが多かったから、減ってしまった獣人の数を増やすのにはうってつけと言えた。

これで一件落着となれば、それでよかったのだけれども、事はそう簡単にはいかなかった。


この時に重宝されたのが、獣人の中でも特に生まれる子供の少ない虎や、ライオン、熊といった上位種相手だったことも、マイナスに働いてしまった。


…そのうちにふと、誰かが気づいてしまったのだ。


この兎の種族をうまく使えば、本来ならあり得ない上位種同士を掛け合わせることが可能になる、ということを。


「…その時から、兎の種族は一気に数を減らしていくんです」


上位種同士の掛け合わせで生まれる、力の強い獣人を恐れる人たちの手で、兎族の里は焼き払われて、残された人たちは散り散りになった。

だから、今生きている兎族はとても少ないし、そもそも兎ということも公にしたくない人達が殆どなのだという。


「でも、奥方は…」


耳も、たぶん、尻尾も隠していなかったと思う私に、劉翔将軍はあの苦い笑いで答えてくれた。


「紅玉の耳は隠せないのです…そう言う風に躾けられたので」


隠すことを教わらなかった紅玉さん。

それはきっと親に、じゃない。

私が親だったら必死に隠すように言ったと思う。

外でひどい目にあうのがわかっていて、そんな大事なことを教えないなんてことあり得ない。

だから、隠すように言わなかったんだとしたら「見せる」ことが目的だったとしか思えない。

産み増やすことに長けている、兎族としての「動かざる証拠」を。


「…お辛い思いをされていたのですね」


カイルさんの言葉に、将軍が拳を握りしめるのが見えた。

いまだにその拳の向かう先を探しているかのような、そんな大きな強い手が震えてるのを見たら。


「…それでも、今は幸せなんだと思います!」


つい、我慢できなくてその手に手を添えて、叫んでいた。


「あんな風に手放しで出迎え出来る位に…将軍との生活が、幸せなんだと思います…!」


そんな私の言葉に、劉翔将軍は笑った。

空に響くような明るい笑い声を響かせて。


「道士様がそうおっしゃってくれるなら…信じましょう。紅玉はここで今、幸せなのだと」


そんな風に嬉しそうに耳を染める将軍を、うわぁという顔で見やって。


「…まあ、あれで幸せじゃなかったら、この顔に飛びついてこようとは思わないと思うけどね」


その言葉に私は思わずユージィーンの脇を力いっぱいどついたのだった。



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