0: 脇道に逸れるように、本筋に逸れることがある。それが物語の始まりである。
例えば、いつもと違う道を歩いてみようと思うことがある。
それは、ちょっとした変化を求めてのことだと思う。
裏道に、知らなかっただけでずっとそこにあったはずのちょっとした店とか、こんなに星が綺麗に見える場所があったのかとか、そういうのを見つけられるだけでも良い。黒猫一匹見つかるだけでも非日常で、それで満足できる。
つまり、そういうときに求められているのは、『ちょっとした』変化なのだ。
その場所でまず目に入ったのは、石畳が赤く光っていることだった。
雲の隙間から差す僅かな月明かりを反射して、地面が赤くてらっている。
それは、血だった。
そのことに気付いた意識は、次にそれがどこから流れているのかを探す。
目線を、血の流れを遡るように動かしていくと、そこには首があった。
いや、語弊がある。
言い直そう。
そこには、首しかなかった。
首の断面から、血が流れていた。
頭部が存在していない首、そして当然その結果として頭部を持たない躰は、どこか滑稽で、そして不完全でありながら、同時に芸術品であれば傑作だとも思われた。
「ねぇねぇ」
──と、人の声がした。死体の近くに、しゃがみ込んだ人影があった。死体を覗き込んでいる姿、そんな風にも見えた。
「そこの人、ちょっと手伝ってくれないかな」
声の主は、少女だった。
ここで、謎は三つある。
ひとつ。死体は誰か?
ふたつ。その死体の傍の少女は何者か? 彼女が殺したのか?
そして、最も大きな三つめの謎。
ここは『死』が存在しないはずの都、セレファイスなのに、どうしてそもそも人が死んでいるのか?




