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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
2章 愛しい日々は戻らない
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いつだって、杉原菜月は知っている(2)

「クラスメイトの名前を覚える……ですか。あの一色さんがそんなことを考えるようになったのかと思うと、感慨深いですね」


 彼の気遣いをくみ取り、彼の望む形で受け取り、その体を装ったまま冗談交じりに言った天ノ目さん。目元を拭う仕草をして見せる様子には親しみが込められており、その微笑みには先ほどまでの偽ったような違和感は覚えない。


「お前は俺の母ちゃんか? まあ、その自覚はある」


 そんな天ノ目さんの冗談に、彼はそう言ってポリポリと頬をかいた。


「まったくね。私もあなたに相談を受けた時は本当に驚いたもの」


 二人の冗談にノッて、私も軽口を言って呆れて見せる。すると、彼は困ったように眉根を寄せて、


「どいつもこいつも、心外だな」


 柔らかい声で言いながら、照れくさそうにため息を吐いたその幼げな姿に堪え切れなくなって、私たちはクスリと笑い合った。



「ちなみに、どのくらい覚えられたんですか?」


 オセロで一色くんが敗けて盤上が真っ黒にひっくり返されたあと。彼に圧倒的な敗北を与えた天ノ目さんが興味深げに聞いてくる。ちょっとスカッとしたわ。


「そうだな。もう大体覚えて来たが、やっぱり名字はいいんだが名前は覚えづらくてな」


 言いながら、一色くんは出席番号順に名字を挙げていく。


「――村田、森岡、夢原……。最後に渡辺、だな」

「っっ! や、やるわね。まさかもうそこまで覚えているとは思わなかった」


 つらつらと全員の名を述べた一色くんに、私は驚愕した。負け犬って多分、こんな遠吠えをはくのだと思う。


「すごいですね、一色さん! さすがです!」


 そんな私とは違って、それはもう素直に裏表なく天ノ目さんは称賛した。……なんか、器の違いを見せつけられた気分だ。


「そ、そうね。さすが一色くんだわ。私もそういうところ、尊敬していたのよ?」

「……そうか。俺はここ最近、お前を心配していたぞ」

「うっ、うるさいわよ! 私も最近ちょっと心配になってきてるんだから!」

「ま、まあまあ二人とも。心配しなくても、古谷さんも一色さんもとても素敵な方ですから。きっとクラスのみんなも分かってくれますよ」


 いつもの調子で彼の軽口……ちょっと本音も混ざってるけど、まあそれは置いておいて。

 彼の軽口にツッコミ……まあ若干、本気の叫びでもあるけど。

 ……んっ、んん(咳払い)。

 そんな彼と私のやり取りに、それはもう柔らかく。温かく。慈悲深く。そしてちょっと困ったような微笑みで、励ますように言った天ノ目さん。……たぶん、女神様の化身ってこの子なんだと思う(大真面目)。


「「………」」


 そんな彼女に、ふとその背後に後光が差したような気がして驚いて目をこすった私は、何とも言えない思いで黙って彼の方を見る。すると、彼もまた同じような目で私を見つめ返してきた。……ああ、ひねくれ者(同類)を見ると安心するわね。


「っ……あ、ありがと」

「なんか、名前を覚えるくらいで困難していた俺たちが虚しいな」


 ……まったく、その通りね。


「てゆうか、名前を覚えるのも大事だけど、それよりも先にみんなの誤解を解いた方が簡単じゃない?」

 それまで静かに私たちのやり取りを見守っていた菜月が、始めから分かっていた回答を投げかけるように、結論を述べた。


「「「………あっ!」」」


 …………。


「やっぱり、頼む相手を間違え――」

「ニアミスよ‼」

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