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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
2章 愛しい日々は戻らない
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人一倍、古谷友美はポンコツである(1)

「まずは、クラスメイトの名前を覚えるところから始めるといいんじゃないかしら?」


 彼の衝撃の相談から二日ばかりが経ったお昼休みの生徒指導室。

 菜月に天ノ目さんと昼食を取るように提案して上手いこと彼と合流した後、今日も先日と同様、勝手に生徒指導室に不法侵入した私たち。

 彼が用意してくれたレモンティーを私が家から持ってきた自前のマグカップに淹れてもらって、一息つきながら、私なりに調べ・考えたクラスメイトと打ち解けるための作戦を、意を決して提案した。


「なるほど。敵を知り己を知れば百戦危うからず。まずは相手を知るところから始めようというわけか」


 顎に手をやって感心したように頷く一色くん。……良かった。やっぱりインターネットは優秀ね。なんでも教えてくれるわ。


「いいアイデアだと思う。いや、それが分かるほど誰かと関わったことがあるわけでもないが、それでも参考になった。ありがとう」

「っ……ま、まあ、これくらい誰でも思いつくことね。……その、私も正直そんなに……というか、ほとんどまったくこういう経験はないから、どこまでうまく提案できるかわからないけど」


 あまりにも彼が真っすぐ感謝してくれたため、少しだけ後ろめたくなって、正直に不安を伝える。


「いや、十分だ。とりあえずその提案通り、クラスメイトの名前を暗記するところから始めてみようと思う」

「っそ、そう」


 あまり期待はしていなかったが……とか、そういう軽口を織り交ぜた返答を予想していただけに、素直にお礼を言われて少し驚いた。

 一色薫の生態、その七。

 いつも素直じゃないくせに、「ありがとう」だけは真っすぐ伝えて来る。

 ……正直、そういうところはちょっとズルいと思うわ。というか、彼はだいたい全部ズルい。酷いところも間違うときもいっぱいあるのに、ぜんぶ自分で分かっていて、そのすべてに自分で罰を与えてしまうのだから。気づかなくても分かってしまえば、これ以上ないほどの痛みでもって、自分で自分を戒めてしまうのだから。……誰よりも、傷つき続けているのだから。


「……この際だから、私も一緒に勉強しようかしら? いい加減、菜月に頼りきりというわけにもいかないし。人に提案しておいて自分が実践していないというのもおかしいもの」


 彼に褒められたという嬉しさとどうしても抱いてしまう不満に蓋をして、いい訳がましく言う。何で素直に『もっとあなたに頼ってもらいたいから』と言えないのか自分でも不思議に思うけど、その言い訳はけっこう本音でもあって。


「そうか。確かにお前もそろそろ菜月離れを……いや、本格的に離れると菜月に本気で怒られそうだからほどほどにしておいてもらいたいが。確かにお前もいい加減、人付き合いを学ぶべきだもんな。今のままじゃ将来が心配だ」

「何であんたに私の将来を心配されなきゃいけないのよ! てゆうか、あんたにだけは言われたくないわ!」


 ぷうっと不満をアピールする様に頬を膨らませて……わ、わざとじゃなくて! ぶりっ子じゃないから! ただ……その、ちょっと菜月の真似をしてみたくなって。……彼ともっと仲良くなりたくて。……っっ。

 そんな憤って見せる私に、しかし彼は思っていたよりもずっと真剣な目で、


「……いや、俺も人のことは言えないが、お前もかなり相当だぞ。……その、」


 そこで一つ言葉を区切って、珍しく彼はそのいつもの仏頂面に爽やかな笑顔を張り付けて、別人のような柔らかい声音で拳を握って、


「一緒に、社会に適応してこうぜ!」


 私はついに、そのおでこにチョップした。



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