表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
2章 愛しい日々は戻らない
89/113

彼女から見た修学旅行 古谷友美(1)

「ねえねえトモちゃん! 明日からの京都見学、すっごい楽しみだね!」


 修学旅行一日目。

 もう二時間以上座っているバスの車内。

 クラスメイト達がカラオケ大会やガイドのお姉さんとのじゃんけん大会に興じる中、座りっぱなしで若干お尻が痛くなってきた……なんて思いながら頬杖ついて窓の外を眺めていた私に、隣に座る菜月が殊更元気にそう言って、ずずいっとその愛嬌たっぷりの子犬みたいな顔を近づけて来る。


「……そうね。今日のスケジュールが酷すぎるだけに、明日以降の予定が凄く魅力的に思えるから不思議ね」


 バス移動、京都駅探索、ホテル……解散、というバカみたいな一日目のスケジュール。

 皮肉ぶって言った私に、菜月はアハハと楽しげに笑った。


「たしかに。そう考えると先生たち、すっごい策士だよね! いやあ、勉強になりますね~」


 ケラケラと笑いながら冗談めかして言って、「あ、そういえばお菓子あったんだった。トモちゃんも食べよ?」と小学生の遠足みたいに浮かれた様子で私にそれを差し出してくる菜月。


「あら、ありがと……ちょっと、これは何?」


 気分転換の意味合いを含んであえてそういう振る舞いをしてくれているのだと察して、ありがたくそれに乗っかろうとした私は、渡されたその小さな袋を見て固まった。


「? 知らない? 梅のお菓子だよ? カリカリしてて癖になるやつ」


 キョトンとした顔で言いながら、当然の様に菜月は自分の分のお菓子の袋を開けて、ちょっとずつチビチビとかじり始める。言葉通り、菜月が一口頬張る度にカリカリとした音が聞こえてくる。


「いや、そういうことじゃなくて。たしかに知らなかったけど。……何でこのチョイスなの? 普通、こういうときってポッキー的なやつじゃないの?」


 そもそも私は梅が苦手で、こういうお菓子は食べたことが無かった。……でもそれをそのまま伝えるのは何だか恥ずかしくて、また意味もなく強がってしまう。

 言うと、何故か菜月はニヤリと意味深な笑みを浮かべて、


「うんうん、なるほどなるほど。いや~、トモちゃんもツンデレだね~」

「は?」


 言っている意味が分からず、カリカリ梅の袋を手に持ったまま首を傾げる私。

 そんな私を見て、本当に楽しそうに菜月は言った。


「そんなに私とポッキーゲームしたかったんだ~。分かる、分かるよその気持ち。一本を端から一緒に食べていって、チューしちゃいそうになるドキドキを味わいたかったんだね」


 ………は?


「はあっ⁉ ちょっ…はあ⁉ な、何を言って」

「ふふっ、大丈夫大丈夫、素直になれないトモちゃんの気持ちは私が一番わかってる!」


 だから安心してねとでも言いたげなニッコリ笑顔で言った菜月に、私はデコピンしてやりたくなった。というか何も分かってない。あんたが一番何も分かってないまである。


「いや、だからちがっ」

「まったくもう~。そんなに頼まれちゃったら仕方ないね! 次のサービスエリアに寄ったときこっそり買ってくるから。待ちきれないのは分かるけど、ちょっとだけ我慢しててね!」


 もう言いたいことが多すぎて言葉が出てこない私の戸惑い交じりの声を遮って、甘えん坊の彼女を宥める彼氏のような体を装ってドヤ顔した菜月。その何でも見透かしたような顔がすごく腹立たしい。


「もう! だからそうじゃなくて! 私は昔から酸っぱいものが苦手で――」


 言いかけて、そう告白した瞬間、ニンマリと緩んだ菜月の笑顔に唐突に嫌な予感がして、ツウと背中を冷や汗が伝った。


「そかそか。トモちゃんはクールぶってるけど、根っこのところはお子ちゃまだもんね~。お子様トモちゃんにはまだこの味は早かったかなあ~」


 ………あ?


「っ……言ってくれるわね。いいわよ、食べるわよ! 食べられるわよこれくらい! 子供じゃないもの」


 そして、今考えるとまんまと菜月の挑発に乗せられた私は、恐る恐る慎重にペロリとそれを舐めて――


「――酸っぴゃい⁉」


「? なんだなんだ、古谷も歌うのか?」

「あっ、つぎ古谷さん歌うの?」

「待ってそれすっごいレアじゃない⁉」

「てゆか、あの普段クールぶってる古谷さんが手を挙げるとは思わなかった。修学旅行だから?」

「うっわ、オレ修学旅行参加してほんと良かった! クソみたいな一日目のスケジュールに耐えた甲斐があったぜ!」


「え? ……は? ちょっ」


 カラオケ大会真っ最中に大声を上げた私にクラスメイト達の注目が集まり、そんな期待の滲む慣れない視線から逃れるように、隣に座る菜月に助けを求めるように視線を向けると――……


「あ、デュエット? もちろんいいよ! なに歌う⁉ できるだけ見つめ合うやつにしようよ!」

「あ、ああ……」


 マイクを手渡されて選曲を促されながら、諦めと絶望の入り混じった声が漏れる。


「さあトモちゃん、二人で武道館を沸かそうよ!」


 ニッコリと笑って元気よく言った菜月の微笑みを受けて、心底思た。

 ……あんたの方がよっぽど策士よ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ