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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
2章 愛しい日々は戻らない
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人に優しくされたとき

 私は初め、彼を憎んでいた。毛嫌いしていた。

 それは別に、彼がいかにも反抗的な真っ赤な髪をしてからというわけでも、不愛想を絵にかいたような目つきの悪さをしていたからでもない。……あと、あまりにも態度が悪かったからでもない。……まあ、ちょっとはあるけど。

 私は昔、彼に酷いことをされたと思っていた。酷いことを言われたと思っていた。

 けれど、それは勘違いだった。本当は私を助けてくれていた。

 そのせいで彼は大きな怪我をして、部活の大会まで出場できなかった。それなのに、そんなことすら彼は覚えていなかった。

 理不尽な理由でずっと彼を毛嫌いしてきた私は、……今考えても最低な人間なのに。

 それでも一色くんは一度も私を責めたりしなかった。

 助けてもらったくせに勝手に勘違いして、ずっと彼を酷い人だと決めつけていたこんな私に、何でもないみたいに笑ってくれた。



『そうか。でも本当に悪いのは、わざとお前にそう勘違いさせるような態度をとった俺の方だから。お前は気にしなくていい』


 遊園地。

 あの日の真実を聞いて必死に謝罪する私に、彼は本当に気にしていないのだと分かる、何でもないことのように言って、むしろ自分の方が悪いのだと当たり前みたいに言った。


『……え?』


 本当に分からなかった。

 彼は凄く気遣いのできる人なのだと、遊園地での彼の様子を見て思っていた。それでもあの時のことがあって信じられず、だからずっと違和感があった。

 そしてあの日のことを聞いて、助けられていたのだと分かって、だから彼は本当に優しい人なのだと分かった。すべての違和感に合点がいって、菜月がこの人を想う気持ちも理解できた。……それでも、


『あの時は一刻も早くお前をあの場から遠ざけることしか考えていなくて、そのためにはあんな言い方しか思いつかなかった。……だから、お前は何も悪くない』

『っ……』


 分からなかった。本当にこの人のことが分からなかった。

 だって、彼は助けてくれたのだ。陰湿なナンパから私を。しかも怪我まで負って。これまでの努力を水の泡にして。それなのに勘違いされて、ずっと煙たがられて。今日の遊園地の時だって、ずっとあんな態度を……っ。

 彼には怒る理由があった。何を言われても仕方ないと思っていた。

 それなのに、


『……悪かったな。まさかそんなに気にしていたとは思わなかった。悪いのはあの気持ち悪い男と、あんな方法しか出来なかった俺だ。お前は正しい。大切な親友の傍にそんな奴がいたら、警戒するのは当たり前だ』


 私の抱える罪悪感も何もかもを察したうえで、私に正しいと言ってくれた。

 悪いのは自分だと言って、私を肯定してくれた。

 嘘偽りのない本心なのだと、普段より少しだけ柔らかく、しかしやっぱり目つきの悪さは変わらない。それでも今はその瞳の奥にある優しさを知っている、そんな彼の真っすぐな目を見て分かった。

 そして、気付いた。

 彼はただ優しいのではなくて。いや、こんな考えがそもそも間違っていて。

 これまでの『優しさ』の意味をすべて覆されたような。そもそも『優しさ』とは何なのかと問い直して。

 親切とか正義とか、そういうことじゃなくて。


 ……これが本物なのだ。


 本物の優しさなのだ。本当の意味で、この人は優しい人なのだ。

 口だけでも自己満足でも何でもなくて、ただただこの人はそういう人だった。

 この人の在り方こそが、本物の優しさの意味なのだと思えた。


『だから罪悪感なんて抱かなくていい。お前は何も、間違ってない』


 そう言った彼のいつも通りの不愛想な顔を見て。そんな彼にいつも通りだと笑う菜月や天ノ目さんや桃華さんの反応を見て。そして、私を助けてくれた時に負った彼の印象の悪さを更に引き立てるおでこの傷跡を見て――


 私は自分の小ささを知った。


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