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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
2章 愛しい日々は戻らない
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本物のヒーロー(3)

 誰しもが心の中に闇を飼っている。明確な形をイメージするならば猛獣(トラ)を飼っている。


 ――ふふ。

 私は山月記が好きなんだ。

 高校時代に国語の授業であれを読んで以来、私は己の心の奥底に潜む獣の正体を知った。

 もっとも、私の場合のそれは『尊大な羞恥心』でも『臆病な自尊心』でもなく、言葉にまとめるならば『度が過ぎる潔癖な理想』と『不相応な不誠実への拒絶』と言ったところだろうか。


 まあ、何かしらの獣が胸の内に潜んでいるという感覚は、きっと誰しもに当てはまることだろう。たぶん。……私だけではないはずだ。

 そんな高校時代の私の痛々しい思考の一片を、どうか聞き届けてもらいたい。……言いたいことは多々あるとは思うが、大人になりきれない思春期特有の理想への執着だと思って、微笑ましい気持ちとともにどうか最後まで聞いてくれるとありがたい。思い出すのも恥ずかしい学生時代、私はこのテーマで作文を書いたからな。もはや悶絶ものだ。

 ハハハ……ハハ。



 たとえばテレビのボランティア活動を見て、「あれは偽善だ」と皮肉る人間がいる。

 (いや)らしく片頬を吊り上げて、爽やかに微笑む老若男女に、


「自己満足だ」

「エゴだ」

「自分が気持ちよくなりたいだけだ」

「善人であることをアピールしたいだけだ」

「履歴書に『ボランティアに参加』と書くためだろ」


 ――そんな不純な目的があるくせに、さも善人ぶって本物ぶって、もっともらしく正義を語る。その面の皮の厚さが、たまらなく気持ち悪い。


 ……こんな考えは、やはり世間の言う『正しさ』から見れば、間違ったことなのかもしれない。

 何も行動に移さない自分のことは棚上げして、その不純性に嫌悪する、最低な輩なのかもしれない。

 少なくとも行動に移したという時点で、何もしない人間に比べればよっぽど立派で尊ぶべきだ。それはきっと間違いない。

 たとえ内側に如何なる思いを抱いていようと、結果だけで評価すれば、その行動は素直に称賛されるべきものであるはずだ。

 当たり前だ。だってそのための、そういう人間であるということを形にするための、形にして外側にアピールするための、善意活動なのだから。むしろそうでなければならない。なければ意味がない。


 では、そんな穿った視点で批判する人々の方が間違っているのだろうか?

 思想でも思考でもなく、語る言葉や行動、その結果によって人間性を評価し、善い言動・行動をした者を善人とみなす。そして、善人を語る。

 これを疑うことは、間違いなのだろうか?


 誰しもが一度は考えたことがあるかもしれない。

 胸に抱いたモヤモヤを形にしようとした時、一番初めに抱く問いかけだ。

 誰もが一度は己に問い、思考し、それから――

 答えにたどり着いた人も放棄した人も、 どうか一つ考えてもらいたい。


 なぜ自己満足の優しさは、本物では(正しく)ないのだろうか?


 この問いかけに一つ、私なりに答えを出すならば。

 それは――


『自己満足は()()()()()()()()感情であり思考であり行動であるから、正しくない』


 誰かを助けた時、そこに一瞬でも満足感や愉悦間を抱いてしまえば、抱いた自分を戒めず認めてしまえば、それは本物ではない。正しくない。

 なぜならそれは、自分が愉悦に浸るための道具として人間(相手)を扱った。

 そう解釈できてしまうから。


 故に、誰かが語るどんな善意や善行も、穿った視点で見れば間違っている。


 傷つかないところで、余裕があるから、自己の欲求を満たすために行う善行は、本物ではない。

 理不尽に耐えても、勇敢でも、選んでしまえば本物ではない。報いがあれば本物ではない。

 傷つかなければ本物ではない。苦しまなければ本物ではない。

 傷ついても苦しんでも、認めてしまえば、浸ってしまえば、本物ではない。

 だから、正しくない。


 っ……でも、ならば――


 そんな偽物がまかり通ってしまうこの歪んだ世界で。

 自己犠牲的行いさえ容易に否定されてしまうこの悲しい世界で。

 本物なんて……。


 本物なんて、あるのだろうか。

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