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世界の色は一つでいい  作者: oqutopus
2章 愛しい日々は戻らない
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彼女から見た修学旅行 安桜一美 (1)

「なんだなんだ、元気がないな一色! せっかくの修学旅行なんだ。思いっ切りはめ外していけ!」


 修学旅行一日目のバスの車内。

 テンションの上がった私は、隣に座る彼の肩を掴んで大袈裟に揺さぶる。人生一度切りの修学旅行だというのに、何のためらいもなくすっぽかそうとしていたこのアンポンタンを「来なかったら留年だな。君とあと二年も一緒にいられて嬉しいよ」と脅……お茶目なジョークで誘い出したのは良かったのだが、この問題児と来たら、バスの座席表すら記入していなかったようで、こうしてバスの最前列の教員の隣しかも補助席という、「本当にそれは楽しい思い出になるのか?」と、教員の私ですら尋ねたくなるような配置となっている。

 せっかくの修学旅行だ。

 彼が乗り気でないのは承知の上だが、それでも少しくらいはいつか振り返った時に、楽しかったと思ってもらえるような思い出にしたい。そう思い、私は彼を元気づけようとあえて大袈裟に言って見せたのだが……


「俺が今はめ外したら、そのせっかくの修学旅行一日目の思い出がモザイクだらけになりますけど……うぷっ……かまいませんか?」

「そ、そうか。無理せず自分のペースで楽しむといい。……が、がんばってくれ。もうあと二じゅっ……数キロでパーキングだ」


 目の下に隈を作った彼のその儚げな、何かが漏れ出てきそうな声と、しかし彼らしい皮肉交じりの答えにこれはそうとうマズイ事態なのだと察し、私は彼から腕を離してそっと距離を取って励ました。いや、べつに万が一の事態を想定してとか、そういうわけではない。……一応、ビニール袋を用意しておくべきだろうか。あ、エチケット袋が備え付けてあるのか。


「だ、だいじょうぶです。俺は人生で一度も、ゲームのリセットボタンを押したことはありませんから……うえっぷ」


 ――それだけが自慢です。


 なんとも儚げな消え入りそうな声で軽口を叩いた彼。

 他の誰かであればそれが嘘なのだとすぐに分かる。冗談交じりのユーモアなのだと。

 しかし、彼はそんなことで嘘はつかない。つまり、おそらくそれが本当に彼の十六年間の、自覚している唯一の自慢なのだ。


「……もう吐いても私は怒らないからな?」


 言いながら、君の良いところを誰よりも知っているのに、その優しさの尊さも偉大さも何よりも分かっているのに、それでもそれをどうしても君に言ってあげられない。声に出して君の優しさを正しいと肯定することができない。

 その言いようのない歯がゆさを誤魔化すように、君の痛みを少しでも和らげてあげられるように、そっと励ました。


 後ろでカラオケ大会やガイドのお姉さんとのじゃんけん大会で盛り上がる生徒たちとは別の意味で、私と彼にとってもキラキラの思い出となった。


 ……いや、彼は吐いていないが。



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