始まりの日(1)
「転校生……ですか?」
校長室に呼び出された私は、来年度担任を務めることになるクラスに転校生が来ることを伝えられた。
「ええ、とても成績優秀で品行方正な子なんだけど、少し事情があって――」
そして、気遣うように目を伏せながら、彼女は語った。
初めて聞く残酷な病と、その病に侵された哀れな少女の話を。
「っ……なぜ、それを私に?」
話を聞き終えて、数舜の静寂のあと、私は渇いた喉を鳴らして尋ねた。
すると校長先生は信頼と少しの不安が入り混じる目で私を見て、まるで財布を友人に預けるときのような慎重な声で、言った。
「あなたになら、任せられると思って」
「――ッ!」
その任せるものが何なのか。すぐに察することができた。
「誰よりも誠実に生徒と向き合っているあなたになら、あの子を任せられると私は思ってる」
私より一回り以上年の離れた中島先生は、真剣な瞳で力強く言った。
彼女は私の教員としての憧れだった。誠実に生徒と向き合う姿勢を彼女から学び、こんな先生にいつかなりたいと思っていた。
だから、ずっと年の離れた姉のような存在にそんな風に言ってもらえて、私は嬉しかった。
嬉しかった……けれど、
「私はその子を、うまく支えられるでしょうか……?」
分からなかった。これまでそういった特殊な事情を抱える生徒を受け持ったことのない私が、やがて視力を奪われることが分かっている、そんな残酷な未来を背負った生徒を本当に正しく導けるのか、私には分からなかった。
「……あなたの気持ちは分かってる。だけど、それでも私はあなたに頼みたいと思ってる。あなたなら、きっと彼女を支えてくれる。私はそう信じてる」
「っ」
きっとその言葉の裏には、誰がなっても同じだという冷たい感情も隠れているのだろう。私でなくても、担任を務めることくらいは誰でもできる。事情を聞いていればそれなりに気を遣ってみていられる。私がどんなに誠実に向き合っても、いつか失うと分かっている彼女の運命は変えられない。長い人生のたった一年を私が支えたところで、その後を考えると……。
結局、誰がなっても変わらない。
……それでも、中島先生は私に頼んだ。私を信頼して任せると言ってくれた。
果たして私にできるだろうか?
いつか視力を奪われると始めから分かっているその生徒に、もう既に視界の色は薄れてきているというその哀れな少女に、優しくて、温かくて、安心して学校生活を送ってもらえるような、そんな正しい教育を。
『――俺と先生の仲じゃないですか』
っ……。
気持ちが沈みかけて己の未熟さを痛感した時、ふいに彼の顔が思い浮かんだ。真っ赤な髪の不良のような外見のくせに、本当は誰よりも優しくて、不器用で、いつも痛みばかりを見据え続ける……どうしようもなく正しい、彼の瞳を。
「分かりました。ご期待に添えるよう努めます。ただ一つだけ、一色――……」
おかしな話だ。
私は先生なのに。彼は今この瞬間も、傷つき続けていると分かっているはずなのに。彼の生き方を間違っていると否定したいはずなのに。否定するべきなのに。
……彼の優しさを思い浮かべてしまったら、もう自分の未熟さを言い訳に、傷つく誰かに手を差し伸べずにはいられなくなってしまったのだから。
私はそれが本物だと認めてしまった。




